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2017年5月

ピロリ菌が「胃がんの常識」を変えた


日本人には胃がんが多い。

最新がん統計(2015年4月)によると、

男性では死亡数は肺がんに次ぐ2位。罹患数は1位。

女性では死亡数は大腸がん、肺がんに次ぐ3位。罹患数は乳がん、大腸がんに次ぐ3位。


だが、これは比較的近年のこと。

男性の胃がん死亡数が肺がんに抜かれたのが1993年で、女性のそれが大腸がんに抜かれたのは2002年。

それまでは男女ともに死亡数も罹患数もずっと胃がんが1位だった。

なぜ、日本人にはそんなに胃がんが多い(多かった)のか?


まず戦後間もなくのころは「熱い食べ物」が危ないといわれた。

当時、日本でいちばん胃がんの死亡率が高かった奈良県に着目した高名な医学者が、原因は奈良県民が愛好する熱い茶がゆではないかと指摘し、茶がゆの廃止が呼びかけられた。

だが、この茶がゆ犯人説はその後の研究でほぼ完全に否定された。

茶がゆを愛好する地方は、奈良県以外にも和歌山県、三重県、山口県、佐渡などあちこちにあり、奈良県ほど胃がん死亡率が高くないなど、矛盾する事実がいろいろ出てきたからだ。


そのあと、「胃潰瘍前がん説」と「塩分過剰摂取説」が提唱され、近年まで最も有力な説として認められてきた。

たしかに胃潰瘍から始まる胃がんが多いことや、塩分の取りすぎが胃がんの悪化に関係していることは事実だが、それが胃がんの原因ではないことがいまは明らかになっている。


1983年、オーストラリアの研究者らが発見した、ヘリコバクター・ピロリ(通称ピロリ菌)の研究が進み、胃がんの原因が特定されたからである。

以下、ピロリ菌に関する現代医学の定説を要約してみる。

ピロリ菌に感染すると、ほぼ100%の人に「ヘリコバクター・ピロリ胃炎」という慢性胃炎の一種が生じ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のもとになる。

慢性胃炎が長く続いて萎縮性胃炎に変わると、その一部から胃がんが発生してくる。

ピロリ菌に感染している人が必ずしもみな胃がんになるわけではないが、遺伝性のスキルス胃がんなどを除き、ほとんどすべての胃がんの人はピロリ菌に感染しているという。

国立国際医療センターの研究チームは、ピロリ菌に感染した1246人と、感染していない280人を、8年間追跡調査した。

結果、感染者では約3%に胃がんが発生したが、非感染者ではゼロだった。

WHO(世界保健機関)は、「ピロリ菌は煙草なみの発がん物質」といい、

ピロリ菌が胃がんを引き起こすメカニズムを解明した畠山昌則・東京大教授(病因・病理学)は、「胃がんの99%はピロリ菌感染が原因です」と明言している。


日本ヘリコバクター学会は、胃がん予防のため、胃の粘膜にピロリ菌がいる人は全員、薬で除菌することを勧めている。

学会の提言を受けて、まず2000年に胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者のピロリ菌の除菌治療が公的医療保険の適用となり、2010年には、

①ピロリ菌が原因の胃MALTリンパ腫、

②特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、

③内視鏡治療でがんを取り去った早期胃がんの再発防止、

─と対象が広がり、2013年からは慢性胃炎の人のピロリ菌除菌も保険でできるようになった。

ヘリコバクター・ピロリ胃炎であるかどうかを医療機関でチェックし、陽性とわかったら除菌を行うことをお勧めしたい。

無症状の若い人たちでは、胃がん、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などを完全に抑えることができる。

中高年ではすでに前がん状態に進んでいる場合もあり、除菌後も定期的にフォローする必要がある。

「除菌後も必ず胃がん検診を受け続けます」と一筆とってから、治療を始める専門医もいる。


なお、食塩は胃粘膜のバリアーを侵し、ピロリ菌の毒素がしみ込みやすくなる。胃がん予防には、塩分の取りすぎにも注意したい。



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正座と膝痛とカルシウムの関係


中年過ぎの人のひざが痛くなる病気といえば、まず「変形性膝(しつ)関節症」だ。

「肥満や正座などひざへの負担がかかる生活を続けた人の軟骨や半月板の弾力性が損なわれ、軟骨同士がこすれてすり減る病気」というのが、一般的な解説である。

ただし「正座」に関してはそうではないと、かつて面接取材した黒澤尚・順天堂大学医学部特任教授に教えていただいた。

その記事を開いてみると、変形性膝関節症の原因を列挙したあと、Q&Aは下のように続いている。

─正座の習慣は関係ありませんか?

黒澤 それはよく問題にされることで、多くの先生が、変形性膝関節症は正座をしたからで、正座なんかしちゃいかん、とおっしゃるのですが、私は、それは<常識のウソ>だと思います。

正座は、むしろよいことなんです。

あるアメリカの専門医は、日本人に変形性膝関節症が少ないのは、正座といういい習慣のせいだ。

だから軽症の変形性膝関節症の患者に対しては、1日に1回は必ず<ジャパニーズ・シッティング>をするように勧めていて、非常によい効果を上げている、と報告しています。

─なのに、なぜ、日本では正座がよくないと言われるのでしょう?

黒澤 変形性膝関節症になった人が、正座のように完全に膝を曲げるようなことをすれば、痛いにきまっています。

その結果だけを見て(原因と取り違えて)正座はよくないと言っているのです。

では、なぜ正座がいいのかといえば、たいていの人が(外人のように正座の習慣のない人は特に)60歳ぐらいになると、膝が完全には伸びきらず、曲がりきらないようになってきます(「拘縮」という)。

正座はそれに対して膝のストレッチングになり、柔軟性を保たせるという利点があるのです。

ですから、私は、重症の人は別ですが、軽い変形性膝関節症の人には、また正座ができるようになる訓練をしなさいと勧めています。

痛い最中はなかなかできませんが、お風呂で体が温まると、痛みが少なくなり、曲げやすくもなります。

お風呂でじゅうぶん温まったら、まず浴槽の中でしゃがみなさい。

しゃがむことができたら、こんどは正座をしなさい。多少の痛みは我慢してやりなさい。やってもあとに引く心配はありません。

正座は、変形性膝関節症を防ぐにも、治すにも、膝関節の柔軟性を保つ、とてもよい方法なのです。

ただし、うんと悪くなった人は、膝の可動域(動かせる範囲)が小さくなって、3分の2ぐらいまでしか曲がらなくなります。そういう人はもう正座はできませんが、それでもいいから、やはりお風呂の中で少しでも曲げるストレッチングをする。これがとても効果的なのです。

どうですか? 拙著『名医が治す』(マキノ出版)より記事の一部を引用したが、説得力があるでしょう。

この話を聞いてから、私も入浴中かならず数分間、正座するよう心がけてきた。

そのおかげか、このトシ(85歳)になっても、膝の痛みを知らない。

変形性膝関節症になりやすいといわれる、ひどいガニ股なのだが。

ついでにもう一つ─。

「骨」といえば「カルシウム」だが、カルシウムは、骨そのものの病気=骨粗しょう症には関係あるのだが、関節の病気には関係ない。

変形性膝関節症は、関節の軟骨がすりへる病気だから、カルシウムを摂ってもなにも変わらない。

不用意にカルシウムを摂り過ぎると、腎結石などができるから注意したほうがよい。

これも黒澤先生の助言である。



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