暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

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2016年11月

「胸焼けに重曹」は逆効果

牛乳を飲めばよい


焼き芋のうまい季節が到来した。

焼き芋や甘いもの、脂っこいものを食い過ぎると胸焼けがする。

このとき、重曹を一と匙、冷たい水で飲み下すと、たちまちスーッとおさまる。

子どものころ、祖母がそれをやっているのを見たことがある。

そのように「胸焼けにはソーダ」は、昔からよく知られている庶民的な健康常識だ。

だが、この「おばあさんの知恵」は、一見ホントみたいだが、ウソである。

たしかに重曹を飲むと、胸焼けの症状はたちまち解消される。

しかしその効果は一時的なものでしかない。

30分もすれば元に戻ってしまう。

なぜか?

胸焼けは、酸性の胃液が食道内に逆流するために起こる。

胃の中にアルカリ性の重曹(炭酸水素ナトリウム)が入ると、胃酸(胃液中の塩酸)と反応し、中和する。

胸焼けがしずまる。

ところが、中和によって二酸化炭素(炭酸ガス)が発生する(ゲップがでるのは、そのためだ)。

この炭酸ガスが刺激となって新たな胃酸が分泌される。

再生産された胃酸は食道へ逆流し、胸焼けが再発する。

「あれ? ソーダー、効かなかった。量が少なかった?」

と、もう一度、重曹を飲むと、また同じことがくり返される。

食道の炎症はさらに悪化する。

つまり、胸焼けの重曹服用は根本的な解消法にはならないばかりか、かえって症状を増悪させる。逆効果でしかない。

では、どうする?

牛乳を飲めばよい。

牛乳も同じように胃酸を中和するが、炭酸ガスは生じない。ゲップはでない。

細かな粒子となって胃壁に付着し、胃を保護する。

ただし、ごくごくと一気に飲むと、胃酸と一度に反応・凝固し、胃壁を保護する効果はえられない。

ゆっくり、唾液と混ざるような感じで飲むのがよい。

ところで、胸焼けにもいくつか種類がある。

焼き芋などを食べ過ぎたときの胸焼けは、糖質や脂質の過剰摂取によって胃酸の分泌促進が起こるためだ。

急いで食事をしたりしたときも、胸焼けがよく起こる。

食道の中の圧力が上がったり、食道の下部が押し広げられ、胃液が逆流しやすいからだ。

食べ物が食道内に入ると、正常では収縮波が食道にあらわれ、食べ物を胃のほうに向かって押し進める。

そうした食道の動きがうまく調節されず、収縮がくり返し起こっても先に進んでいかないことがある。

この場合も食べ物がつかえる感じと一緒に胸焼けが生じる。

高齢者ではこのような胸焼けがよくみられる。

病気の症状として起こる胸焼けも多い。

食道裂孔ヘルニア・逆流性食道炎、胃・十二指腸潰瘍、食道けいれん症などだ。

精神的ストレスによる胸焼けもある。

大きな心配事があり、ものがのどを通らないときの胸やけが、それだ。

妊娠初期にみられる胸焼けには、このような精神的な面も関係しているようだ。

胸焼けがひんぱんに起こるときは消化器内科へ―。

余談。

呑酸嘈囃。なんのことだか、おわかりですか?

『広辞苑』によると、

呑酸(どんさん)は、

「酸味のある胃液が口腔内に逆流する現象。胃酸過多症などの一症状。げっぷ」である。

嘈囃(そうそう)は、本見出しではなく、「むねやけ」の項に、

むねやけ【胸焼け・嘈囃】食道内に灼熱感の起こること。云々―。

と、空見出しとしてだけある。

―てなわけで、ゲップ、胸焼けの症状を、むかしのお医者さんは「呑酸嘈囃」とカルテに記した。

なお、同音類似語の「嘈嘈(そうそう)」は、「①声の調子のはやいさま。②声のさわがしいさま」のことである。


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爪と健康の関係

爪は健康のバロメーター

爪は、1日平均0.1㍉~0.2㍉伸びる。足より手のほうが速く、老人より若者のほうが速く伸びる。

爪母(そうぼ)と呼ばれる根元の部分から爪先まで伸びるには4~6ヵ月かかる。

その間の全身の健康状態が爪の色や形にあらわれる。だから「爪は健康のバロメーター」といわれる。

いくつか、例を挙げる。

指先がふくれ、爪が指を包むように丸みを帯びる「ばち指」は、指先が太鼓のばちのように太くなることからついた名前。

なぜそうなるのか発症のしくみはわからないが、すべての指がばち指になったら肺がん、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など、肺疾患が疑われる。

原発性の肺がん患者の60%にばち指が現れるという。

ばち指は、ヒポクラテス爪、時計ガラス爪とも呼ばれる。そのような爪の変形が、肺の病気と関係があることを最初に発見した人がヒポクラテスであり、むかしの時計ガラスは中央がまるく盛り上がっていたからだ。

爪の先のほうが薄くはがれる「二枚爪」や、爪の中央がへこみ、スプーンのような形にそり返る「スプーン爪」は、貧血の可能性が大きい。

薄くはがれたり、反り返ったりするのは、貧血によって、爪に送られる鉄分と酸素が不足し、爪が薄くなり、骨のない指の横腹に加わる力を爪が支えきれなくなるためだ。

爪に横溝ができるのは、爪の発育をおさえるような刺激が、爪母に加わった証拠、つまり過去の病変を表している。

最も多いのは、腸チフス、猩紅熱(しょうこうねつ)、薬疹など、高熱のでる感染症や中毒である。

慢性の病気が一時的に悪化したときも横溝が現れる。で、爪の根元から横溝までの長さによって、障害のあった時期が推測できる。

爪が白く濁ってボロボロとはがれてくるのは爪の水虫だが、すべての爪が同時にそうなることはない。

すべての爪がほとんど同時に白く濁ってくるのは、慢性の肝臓病が疑われる。

慢性腎疾患の一つのネフローゼでは、爪に白い線が横に走る。

がんの一種の悪性黒色腫(メラノーマ)は、爪の色素沈着で始まることがある。

爪にできた黒い縦の筋の色が濃くなったり、広がったり、爪が割れてきたら、すぐ皮膚科へ─。

爪に縦のすじができるのは、皮膚のしわと同様、老化現象だ。

ところで、爪の根元のところに見える「爪半月(そうはんげつ)」が、くっきり出ているのは健康の証拠、出てないのは体のどこかに故障がある─という昔からの俗説は本当か?

答えは、ノーである。

爪半月の有無は生まれつき。高血圧症や糖尿病でも爪半月のハッキリしている人はいくらでもいる。

ただ、もともと爪半月があった人が、肺炎などの急性疾患で衰弱するとか、極度の栄養失調にかかると、爪母の細胞分裂に影響し、爪が伸びなくなり、爪半月が消えることがある。

このことから逆に「爪半月は健康の証拠」という俗説が生まれたのだろう。

だから一般論としては爪半月のあるなしを気にすることはないが、いままでハッキリ見えていた爪半月が急に消失したら問題─といえるようだ。


柿が赤くなると医者は青くなる

柿が赤くなると医者は青くなる

このことわざの意味を、鈴木・広田編『故事ことわざ辞典』は、「晩秋は健康な季節で病人が少ないこと」としているが、それだけでは説明不足だと思う。

秋の収穫期の最中には、多少、体のぐあいがわるくても医者に行くどころではないという生活背景とか、カキの栄養価への称揚も含まれているのではないか。

同類のことわざに、「柚(ゆ)が色付くと医者が青くなる」「蜜柑(みかん)が赤くなれば医者は青くなる」「秋刀魚(さんま)が出ると按摩(あんま)が引っ込む」などがある。

カキもユズもミカンも栄養面の特徴はよく似ていて、ビタミンAとC、そしてカリウムが多い。

ビタミンAは、眼、呼吸器、皮膚、髪などの健康を保つうえで欠かせない。

ビタミンCは、皮膚や歯ぐきの出血を治し、風邪などの感染症を防ぎ、きれいな肌をつくる。発がん物質ニトロソアミンの生成を抑える。

カリウムは、血圧を下げる。体の老廃物を排出する。

サンマで特記しなければならないのは、多価不飽和脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)の含有量が豊富なことだ。

EPAは、血管の中で血液が固まる血栓症を防ぎ、心血管系疾患(心筋梗塞、脳梗塞)のリスクをへらす。

DHAは、脳の記憶学習中枢の構成物質で、知能向上、精神障害の緩和などのメリットが確かめられている。

DHAを与えたネズミの学習能力が向上した実験などにもとづき、「魚を食べると頭がよくなる」といわれる。

ま、医者やマッサージ師の出番がなくなるかどうかはともかく、カキ、ミカン、ユズ、サンマ、それぞれいずれもスグレモノ食品であることは間違いない。

ところで、江戸中期の俳人、横井也有が「健康十訓」と称してこんなことをいっている。

①少肉多菜。②少塩多酢。③少糖多果。④少食多齟(そ=噛む)。⑤少衣多浴。⑥少車多歩。⑦少煩多眠。⑧少忿(ふん=怒る)多笑。⑨少言多行。⑩少欲多施。

いちいち、ごもっとも。ビタミンやミネラル、EPAだのDHAだのは知らなくても、現代栄養学、生理学、精神医学その他にちゃんと通じている。見事というほかない。

ただ一つ、注文をつけておくと、多果(果物を多く食べる)が過ぎると、果糖の過剰摂取になる。

果物の過食が原因のNASH(非アルコール性脂肪肝)が少なくないと、専門医が注意している。

実りの秋。食卓が豊かになる。

柿ばかりか、牡蠣(かき)も一段とうまさを増す。

食欲の秋にうかれていると、糖尿病やメタボ傾向の人は、検査データに青くなる。

現代人のことわざとしては、

「柿が赤くなると患者が青くなる」としたほうがよいようだ。



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