暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

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2016年4月

うつぶせ寝の危険度

うつぶせ寝で1歳男児死亡 都内の事業所内保育施設

東京都は12日、認可外の事業所内保育施設で3月、うつぶせに寝かせられた1歳2カ月の男児が心肺停止状態となり、搬送先の病院で死亡が確認されたと発表した。

都は長時間うつぶせのまま、呼吸の確認を怠るなど安全対策が不十分だったとして、運営会社に改善指導を行った。(産経新聞4月13日)

これまでもしばしばくり返された事故がまた起きた。


うつぶせ寝の転変

赤ちゃんのうつぶせ寝については、じつに半世紀にわたる是々非々の論議が行われてきた。

ふり返ってみよう。

育児書の名著中の名著といわれる松田道雄著『私は赤ちゃん』(岩波新書)のなかに、うつぶせ寝に触れた箇所がある。

赤ちゃんの「私」が、うつぶせに寝ていると、ママやパパはそのたびに仰向けにしてしまう。

「私はうつむいてねるほうがらくなんだ。大地にしっかりとつかまっていたいんだ。やわらかいフトンに胸を押し当てているほうが、気持ちがいいんだ」。

同書の初版発行は1960年。うつぶせ寝はそのころのはやりでもあった。

その風習は、進駐軍の夫人たちが持ち込んだものだった。

しかし、ベッドとちがって軟らかい布団に寝かせたための窒息死が相次ぎ、「近ごろ流行、うつぶせ寝の危険度」といった記事が週刊誌をにぎわしたりして、いつの間にか消えた。

再びはやり始めたのは1980年代だった。

1988年の「小児保健セミナー」(日本小児保健協会主催)で、うつぶせ寝を採用している産婦人科医や小児科医が、うつぶせ寝の臨床報告をしている。

「吐乳が予防できる」「ミルクをよく飲み、よく眠る」「運動神経機能の発達がよく、首のすわり、ハイハイが早い」「頭の変形予防によい」「うつぶせ寝になるときにとるカエル足は、先天股脱の予防によい」など、プラス面が多いというものであった。

そして、当時、最も強くママたちの心をとらえたのは、うつぶせ寝で育てると「絶壁頭にならない」という美容家、大関早苗さんの推奨だった。

大関さんは、孫が生まれたロンドンの病院を訪ねて、うつぶせ寝を知り、西洋人の彫りの深い顔立ち、ヒップアップした体形の原点はここにあるのではないか、と考えた。

「うつぶせ寝で育てた赤ちゃんに絶壁頭はない」と新聞・雑誌に書き、テレビ・ラジオで話した。

東京オペグループ(主な会員は産婦人科の開業医)を主宰する杉山四郎・杉山産婦人科院長は、欧米の産院を何度も視察し、うつぶせ寝の採用に踏み切り、それに追随する産院がふえた。

東京オペグループのセミナーの講師として大関さんを招いたこともあった。

杉山医師は、うつぶせ寝のさい厳守しなければならない、次のようなルールを母親たちに指導した。

①寝具は軟らかい布団をやめて、硬いベッドかマットレスを用いる。

②シーツはしわが寄らないように張る。

③赤ちゃんの衣類は袖口がフイットした半袖が理想。

④寝ている1㍍以内にはガーゼ、そのほかのものを置かない。

⑤母子相互関係を密にする。

ところが、1992年、米小児科学会が、突然死した乳児にはうつぶせ寝が多く、乳幼児突然死症候群(SIDS=シッズ)の発生率は、乳児を仰向けに寝かせることで有意に減少し得るという声明を発表した。

日本でも1997年、厚生省(現・厚生労働省)の研究班が、うつぶせ寝にすると、仰向け寝よりもSIDSの発症リスクが約3倍も高いことがわかったと発表。

同省は、うつぶせ寝とたばこ(両親の喫煙もSIDS発生の大きな危険因子)をやめる啓発キャンペーンを展開した。

結果、年間600例にも達した発症数が年々減少、2011年には148例になった。

「うつぶせ寝がSIDSを引き起こすものではありませんが、医学上の理由でうつぶせ寝をすすめられている場合以外は、赤ちゃんの顔が見えるあおむけに寝かせるようにしましょう。また、なるべく赤ちゃんを一人にしないことや、寝かせ方に対する配慮をすることは、窒息や誤飲、けがなどの事故を未然に防ぐことになります」(同省HP)

成人のうつぶせ寝を勧める「腹臥位療法推進研究会」の名誉会長、日野原重明先生もこう話している。

「赤ちゃんがうつぶせ寝で窒息死するのは、一つは布団や枕に問題があるんです。顔が枕や布団に埋まらなければ窒息する心配はない。

布団はかためのものにして、うつぶせになったとき顔が埋まらないよう気をつける。

そうすれば、うつぶせ寝のほうが呼吸が楽で心臓にも負担が少ないし、うつぶせ寝で育てると、頭の形がよくなるともいわれています」(雑誌『壮快』2004年11月号「名医に聞く うつぶせ寝の効用」)。


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空腹の運動生理学

運動持続と血糖の関係

〈腹が減っては軍(いくさ)はできぬ 空腹では活動ができない=『広辞苑』〉。

東京大学教養学部の宮下充正教授(当時。運動生理学)は、そのことを実験的に証明した。

若い元気な男性が、朝飯抜きで、息がちょっとはずみ、胸がわずかにドキドキする程度の軽い運動をやったとき、血液中の糖分の数値=血糖値が、どのように変わっていくかを調べた。

血液中の糖分(ブドウ糖)は、運動のエネルギー源となる物質で、空腹時の血糖値の正常値は80~100㍉㌘(血液1㌥㍑中)とされている。

詳しいデータは省略するが、運動開始から60分後には、血糖値が70㍉㌘に減った。

さらに90~120分後には60㍉㌘に下がった。

そして、60㍉㌘を境目としてそれ以下になると、運動を続けることができなくなった。

つまり、朝飯前の運動や仕事は1時間が限度─ということが、まずわかった。

そこで、次の実験として、血糖値が下がってきて、60㍉㌘近くになったとき、角砂糖を吸収しやすいように水に溶かして飲ませた。

すると、血糖値が上がり、元気が出て、運動を続けることができた。

だが、砂糖水を飲ませない(糖分を補給しない)と、血糖値はそのまま下がり続けて、60㍉㌘を切ると、「もうイヤです」と運動をやめてしまった。

体がへばるだけでなく、ヤル気もなくなったわけだ。

このように血糖値が下がってくると、体の働きが低下するだけではなく、脳の働きも低下する。

いや、体よりも先に脳がへばってくる。

体ではたんぱく質や脂肪もエネルギー源となるが、脳のエネルギー源となるのはブドウ糖だけだからだ。

ひどく疲れたとき、甘いものを口にすると元気がでるのは、血糖値が上がり、脳と体の働きが回復するからである。

会議などが長引いてだれてきたら(頭が疲れてきたら)、コーヒーや紅茶に少し多めに砂糖を入れて飲むとよい。

また、運動の前にとる食事も糖質の多いものがよい。

運動のエネルギーとして直接使われるのは糖分だけだからだ。

試合の2時間ぐらい前にごはん、もち、うどん、パン、ようかん、カステラなど、糖質たっぷりの食品を食べる。

肉や卵などを食べても、たんぱく質が分解されてエネルギー源となるのには時間がかかるので、即効性は得られない。

しかし、体を構成するのはたんぱく質なのだから、日常、肉や卵もしっかり食べなければいけない。

たんぱく質と糖質、脂肪の関係を車にたとえると、たんぱく質は車体やエンジンで、糖質と脂肪はガソリンである。

どれが欠けても車は走らない。


焼け焦げの発がん性

がん恐怖の非科学性

友人にいわゆるキャンサー・フォビア(がん恐怖症)みたいな男がいて、焼き鳥、焼き肉、焼き魚などはいっさい口にしない。

動物性たんぱく質に多く含まれるトリプトファン(必須アミノ酸の一種)が焼けると、発がん物質に変わるから─というのだ。

目玉焼きの焦げた部分も絶対、食べない。

パンの耳もむしり取って自分は食わないのだが、近所の小公園に集まるハトに投げ与えている。

ハトはがんになってもいいと思っているのか?

ま、なにを食おうが食うまいが、他人に強制さえしなければ、当人の勝手である。

しかし、それを一般論にされては困る。

焼け焦げを食べても、がんにはならないことがわかっているからだ。

こう言うと、国立がんセンターの「がんを防ぐための12ヶ条」には「焦げた部分はさける」とあるではないか─と反問する人がいるかもしれない。

あなたも古いのです。

2011年発表の「がんを防ぐための新12か条」ではその条項は削除されています。

肉や魚にたくさん含まれているアミノ酸が焼けると、細胞の遺伝子に突然変異を起こす物質(変異原性物質)ができる。

なかでもトリプトファンからできる2種類の物質〈トリプP1、トリプP2〉は、特に強い変異原性=発がん性をもつことが動物実験によって確かめられた。

そのため肉や魚の焼け焦げを食べるとがんになる─ということになった。

だが、その発がん実験は、合成された純粋なトリプP1やP2を、マウスに大量に与えて行ったものである。

実際の肉や魚の焼け焦げのなかに含まれるトリプP1やP2は、1㌘当たり1ナノ㌘というきわめて微量なものでしかない。(1ナノ㌘は10億分の1㌘)。

もし実験で与えたトリプP1やP2と同じ量を、本物の焼け焦げの状態で食べさせるとしたら、体重30㌘のマウスが、真っ黒焦げに焼いたイワシを毎日70㌔㌘、1年以上も食べ続けなければならない計算になるそうだ。

仮にマウスと人間の、発がん物質に対する感受性が同質のものだとして、これを人間に当てはめてみると、体重60㌔の人が毎日140㌧もの真っ黒に焼いたイワシを食べ続けることになる。

つまり、現実の問題として重要なのは、発がん性があるかないかではなく、どれだけの量あるか─なのである。

物質の性質をみることを定性分析、量をみることを定量分析というが、定性分析だけにこだわると、人は往々にして科学的迷信のとりこになる。

焼け焦げ恐怖はその最たる一つといえるだろう。

むろんパンの焼け焦げも問題外だ。

それはあのハトたちのためにもよろこばしいことである。


「食い合わせ」考

「同食」の禁忌少なし

 食い合わせ─というものがある。

 ウナギに梅干し、スイカに天ぷら、タニシにそば......などというあれだ。

 むかし(昭和10年代)、いなかの家の台所の壁に食い合わせの絵が貼ってあった。

 雑誌『家の光』の付録か、富山の薬屋さんの景品だったか。

 タブロイド判ほどの紙にいくつもの食品の組み合わせが原色で描いてあった。

 一々は憶えていないが、いま記したもののほか、カニと氷水、サバとカボチャ、肉とホウレン草......といったふうだったはずだ。

 この食い合わせの原典は、たぶん貝原益軒の『養生訓』だろう。

 同書を開いてみると、

「同食(くいあわせ)の禁忌多し、その要(おも)なるをここに記す。

 猪肉(ぶたにく)に、生薑(しょうが)、蕎麦(そば)、胡荽(こすい=コエンドロの漢名)、炊豆(いりまめ)、梅、牛肉、鹿肉、鼈(すっぽん)、鶴、鶉(うずら)をいむ」とはじまり、

「南瓜(ぼうふり)を、魚鱠(なます)に合せ食すべからず」まで、100を超える食い合わせが挙げてある。(『養生訓』巻第四)。

 もしもそれがホントなら、うっかり食うことも飲むこともできない。

 なにしろ「酒後に茶を飲むべからず、腎をやぶる」というのだから─。

 無茶苦茶とはこのことだろう。

 栄養学の大家、川島四郎先生は、食い合わせの真偽を確かめるため、一つ一つ試食された。

「全部、大丈夫でしたよ」と笑っておっしゃった。

 では「食い合わせ」などないのか。

 あながちそうともいえない。

『養生訓』が挙げた食品には、牛肉、鹿肉など肉類、魚鱠、魚の鮓(すし)、生菜、冷水...その他、いたみやすく、食あたりしやすいものが多い。

 また、ちょっと想像してみても、ウナギのかば焼きと梅干しとか、天ぷらとスイカなんて、とても一緒に食う気がしない。

 味の調和がとれないと、心理的に不快感を覚え、腹の調子がおかしくなることだってあるのではないか。

 この点について、『養生訓』に、

「食物の気味、わが心にかなわざる物は、養いとならず。かへって害となる」とあるのは正解だと思う。

 益軒という人は、徹底した少食主義で、肉でも、魚でも、飯でも、野菜でも、「多食すべからず」の一点張りである。

 食べ物ばかりか、酒も「少しのみ、少し酔へるは、酒の禍なく」と説いている。

 ごもっともだけど、ちっとも盛り上がらない酒を飲んだ人のようだ。

 もっとも、考えてみると(考えるまでもなく)、なにがいけないといって、暴飲暴食ほど体を害するものはない。

 その意味では、この二つこそ「食い合わせ」の最たるもの─であるだろう。


腰痛治療のコペルニクス的転回

腰痛治療が180変わった

腰痛の大半は背骨に関係しているもので、非常に強く痛む急性期と、鈍い痛みが長くつづく慢性期の二つに分けられる。

治療法の方針は、急性期にはなるべく背骨に負担をかけないこと。

「死んだつもりで寝ていなさい」というのが、ごく近年までえんえんと信じられてきた整形外科の「常識」だった。

ドイツ人が、魔女の一撃(ヘキセンシュス)と呼ぶ、ぎっくり腰などの急性腰痛は、一撃をくらったとたん、動けなくなる。

痛みが治まるまではひたすら安静を保つよう指導された。

ところが、安静期間が長くなるほど治りが遅くなり、再発を招きやすく、腰痛が慢性化することがわかって、いまは「動ける範囲内で動く」が世界の常識になっている。

日本整形外科学会と日本腰痛学会が5年がかりでまとめた『腰痛診療ガイドライン2012』にも、

「急性腰痛は、痛みがなくなるまで安静にするのではなく、できるだけ早く体を動かす」とある。

なぜ、安静がよくないのか? 

「大きな理由の一つとして<髄核>のずれが考えられます」と、東京大医学部附属病院22世紀医療センターの松平浩特任教授(運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座)。

背骨は30個以上の短い骨(椎骨)のつながりで、椎骨と椎骨の間には薄い円盤状の椎間板がはさまっている。

椎間板の中央には、ゼリー状の髄核があり、それを線維輪という硬い組織が囲んでいる。

髄核の特徴は移動しやすいことなので、パソコン作業などで長時間前かがみの姿勢を続けると、髄核が椎間板の後ろ側に向かってずれてくる。

一方、長時間の立ち仕事などでは髄核は椎間板の前側に向かってずれる。

ぎっくり腰も、くしゃみや重い物を持ち上げるといった急な動作によって、髄核がずれて起こる。

髄核が大きくずれて線維輪が傷つくと、線維輪には神経の末端が接しているため、激痛が生じる。

髄核がよりいっそう大きくずれて、線維輪を突破して外に飛び出した状態が、椎間板ヘルニアだ。

ぎっくり腰や慢性腰痛の場合、椎間板ヘルニアほど髄核は大きくずれてない。適切に体を動かせば元の位置に戻すことができる。

痛いからといって安静を保ちすぎると、髄核のずれが元に戻りにくくなり、痛みが慢性化し、新たに線維輪が傷ついて強い痛みが再発する。

髄核のずれを戻すには、腰を反らすか、かがめるシンプルな体操が効果的。

髄核が後ろ側にずれた前かがみの作業などのあとは、足を軽く開き、上体をゆっくり反らす。息を吐きながら1~2回、繰り返す。

髄核が前側にずれた長時間の立ち仕事のあとなどは、イスに腰かけ、足を肩幅より広めに開き、ゆっくり背中を丸める。これも息を吐きながら1~2回繰り返す。

歯みがきになぞらえて「腰みがき」と名づけた、このシンプル体操を日常の習慣にすれば、腰痛の予防・改善効果が得られる。

腰痛の8割以上は原因不明、心配し過ぎるとかえって悪化しやすい。

しかし、がん、骨折、ヘルニアなど原因のある腰痛は、早く見つけて元の病気を治さなければいけない。

自分の腰痛はどちらかの見分け方、ぎっくり腰や慢性腰痛を自分で治す方法など、松平浩著『「腰痛持ち」をやめる本』(マキノ出版)は、最新の調査研究に基づく最良のガイドブックだ。



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