暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

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2012年9月

脳の血管のこぶ

 脳ドックで検査を受けたら、脳動脈瘤(りゅう)が見つかった。

 どうしたらいいか、悩んでいる。

 そんな話をよく聞く。

 脳動脈瘤は、脳の主要血管にできたこぶ。

 こぶが破れるのが、くも膜下出血。

 突然死(発症から24時間以内の病死)の約7%を占める。

 未破裂脳動脈瘤は、成人の5%程度にあるとされる。

 検査を受けると100人に5人は見つかる計算だ。

 見つかったこぶのすべてが破裂するわけではない。

 何事もなく天寿を全うする人のほうがずっと多い。

 だからといって、手放しの安心は禁物だ。

 安心なこぶと、要注意のこぶを、どうやって見分けたらよいか。

 日本脳神経外科学会が、未破裂脳動脈瘤を追跡調査した。

 2001年1月から04年4月までに3ミリ以上の脳動脈瘤が見つかった男女5720人を、最長8年間追った。

 患者の3分の2は女性で、平均年齢62.5歳。

 こぶの大きさは平均5.7ミリ。

 全体の破裂の割合は年間0.95%。

 3~4ミリは0.36%。

 5~6ミリは0.50%だった。

 これに対して、

 7~9ミリは1.69%。

 10~24ミリは4.37%。

 25ミリ以上は33.40%。

 ──と、7ミリを超えると、こぶが大きくなるほど破裂の危険も高まる。

 こぶができる場所や、こぶの形によっても、リスクに違いがあった。

 大脳の太い動脈をつないでいる「前・後交通動脈」にできたこぶが破裂するリスクは、大脳の中心を流れる「中大脳動脈」にできたこぶよりも約2倍高かった。

 いびつな形のこぶのリスクは、通常のこぶに比べて1.63倍だった。

 脳動脈瘤の破裂を予防する治療法は、開頭手術を行って、こぶの根元をクリップで挟む「クリッピング術」と、脚の付け根の動脈からカテーテル(細い管)を挿入し、こぶの中にコイル(極細のワイヤー)を詰める「コイル塞栓(そくせん)術」がある。

 しかし、こぶが大きかったり、こぶの入り口部分が広いワイドネック型脳動脈瘤は、クリッピングが難しかったり、詰めたコイルがはみ出てきたりした。

 そうした従来の治療法の難点を解決するのが、新しい治療機器「VRD(脳内血管再建機器)」だ。

 これをこぶの中に挿入・留置して血管を保持した上でコイルを詰めると、はみ出さない。治療困難な脳動脈瘤に対する新兵器だ。


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ポケットエコー

 波長100万~2000万ヘルツの超音波を当て、臓器や血管からの反射波(エコー)を、モニター画面に映し出す超音波診断装置。

 皆さまおなじみの検査法だ。

 X線と違って放射線を浴びる心配がない。

 臓器を動いている状態でとらえられる。

 診察室ですぐ使える。

 いまやこれなしでは医療は成り立たないとさえいわれている。

 だが往診には持って行けなかった。

「往診医の不安は、診断を手、目、勘に頼らざるを得ないこと。

 とりわけ腹部臓器は無言の臓器なので、重症度が分からない。

 しかし画像診断の〝目〟を持ち込むことができれば、問題はほとんど解決します」と、石田秀明・秋田赤十字病院内科部長。

 2010年10月、そのニーズを満たす超小型の超音波診断装置が登場した。

 縦135ミリ、横73ミリ、厚さ28ミリ。プローブ(体に当てるスキャン)、バッテリーを含めても重さ350㌘。

 ポケットにらくに入る。

 肝臓の血管がカラーで表示され、触診では分からなかった腹水が見え、小さい肝臓がんも胆石も見つかる。

 名称「VScan」。希望小売価格98万円。


安倍さんの持病

 安倍晋三さんが、自民党総裁に返り咲いた。

 5年前、総理大臣を辞任したときの理由の大きな一つは「体調不良」。

 発表された病名は「機能性胃腸障害」だった。

 内視鏡検査では何ら異常は見つからないのに、胃もたれ、胃の痛み、胸やけ、下痢などの胃腸症状が続く病態を示す病名だ。

 以前はそうした病態は大抵「慢性胃炎」と診断された。

 内視鏡で見て、炎症があれば、もちろんのこと、なくても「慢性胃炎」といわれた。

 1998年、ローマで開かれた欧州消化器病学会で、

「内視鏡検査では異常は認められないが、長期間にわたって胃腸症状が出没し、原因不明のものは、<ファンクショナル・ディスペプシア>と呼ぼう」と決められた。

 日本の消化器関連の学会もそれを受けて、「機能性ディスペプシア」という病名をつくった。

 ディスペプシアは、英和辞典には「消化不良」とあるが、医学的には「上腹部消化管症状」を意味する。

 わかりにくい病名だと、「機能性胃腸症」を推す意見もあったが、「機能性ディスペプシア」に決まったそうだ。

 だが、安倍さんの主治医も、そのカタカナ病名は使わなかった。

 その後、安倍さんは、本当の病名は「潰瘍性大腸炎」と公表した。

 大腸の粘膜に炎症が生じ、潰瘍や糜爛(びらん)ができ、激しい腹痛や下痢、粘血便(血液や粘液、ウミなどが混じった便)が出る、原因不明の難病だ。

 同じように腸管に炎症が生じ、下痢などの症状が起こる病気の、クローン病と合わせて「炎症性腸疾患」と呼ばれる。

 潰瘍性大腸炎の炎症は、大腸だけに限られるが、クローン病では口から肛門までの消化管のすべてに炎症が起こる可能性がある(一般的には小腸から大腸にかけてが多い)。

「潰瘍性大腸炎は、焼夷弾で焼け野原。クローン病はテロリストが仕掛けた爆弾。一点集中したところに深い穴があく」と、専門医はたとえる。

 どちらも活動期(再燃期)と緩解期を繰り返すタイプが最も多い。

 活動期の程度は軽症、中等症、重症、劇症に分類される。

 軽症は下痢の回数が1日4回以下で、血便などの程度も軽く、全身症状はない。

 重症になると、1日10回以上もトイレに行き、食事もできなくなる。

 栄養がとれないからげっそりやせる。

 潰瘍性大腸炎は、1859年、イギリスで初めて報告された。

 わが日本は幕末、安政の大獄や桜田門外の変が起こったころだ。

 クローン病は、1932年、ニューヨークのマウントサイナイ病院の内科医、バーナード・クローンが報告した。

 日本人には少ない病気だったが、近年急増している。

 現在の患者数は、潰瘍性大腸炎約12万人、クローン病約3万人。

 自己免疫疾患といわれている。

 自己免疫疾患とは、病気に対抗し体を守る免疫反応のしくみが乱れ、自分自身の体を攻撃してしまう病気。

 自己抗体が関節を攻撃すると関節リウマチになるように、炎症性腸疾患では、大腸などの腸管を攻撃する。

 もう一つ、重要なのは食事で、食生活の欧米化(動物性脂肪の摂取量の増加)につれて、潰瘍性大腸炎もクローン病も増えている。

 特にクローン病には食生活の影響が大きいことが、厚労省研究班の食事調査で明らかにされた。

 一方、潰瘍性大腸炎で特徴的なのはストレスで、病気になる前、あるいは病気が再燃する前に、非常に苦悩した症例が多いという。

 そう聞くと、つい、5年前、首相辞任時の憔悴しきった感じの安倍さんを思い出す。

 昨日、今日、テレビで見る安倍さんにはあの面影は、まったくうかがえない。

「新薬の登場でいまの体調は万全」だという。

 なお、潰瘍性大腸炎もクローン病も、平均寿命は普通の人と変わらない。


酒とたばこ

 食道がんの手術は、数ある難手術のなかでも最たる一つとされる。

 通常、7~8時間もかかる大手術で、入院も普通2カ月以上になる。

 しかし、2010年8月、桑田佳祐さんの食道がん手術は腹腔鏡で行われ、3週間で退院した。

 ステージ1の早期がんだったからだ。

 桑田さんは、同年5月ごろからゲップがよく出るようになり、7月に受けた内視鏡検査でがんが見つかった。

 食道がんは初期にはほとんど無症状。

 食べ物がのどにつかえるようだと、がんはすでに大きくなっている。

 食べ物を飲み込むときに胸の奥がチクチクしたり、熱いものがしみるように感じるようなときはすぐ消化器内科へ─。

 食道がんは圧倒的に男性に多く(女性の6倍)、ピークは60代。

 年間患者数は約1万6000人。

 5年生存率は25%とかなり手ごわいが、早期がんの生存率はぐんと高くなる。

 桑田さんのようなステージ1だと90%以上というデータもある。

 食道がんの最大の原因は酒とたばこ。

 特に酒を飲むと顔が赤くなる人は要注意。

 強い酒のストレートもよくない。

 酒を飲みながらのたばこは最悪!


手術と外科医

 9月19日、虎の門病院名誉院長、秋山洋先生が亡くなった。(肺炎。81歳)。

 きょうが初七日です。

 先生は、食道がんの世界的権威。

 胸を開けずに食道がんを手術する安全性の高い方法を確立した。

 1989年、日本人で初めて英国王立外科学会の名誉会員に選ばれた。

 1993年、がん研究と治療にすぐれた成果を上げた医師に贈られる、日本癌治療学会「中山恒明賞」を受賞。

 1999年、ドイツの「フリッツ・エルラー医学研究賞」の第1回受賞者に選ばれた。

 同賞は、1940年、ドイツに救急医療の理念に基づく病院を創設、その考えを世界的に広めたエルラー博士の基金による。

 2003年、「ルドルフ・ニッセン賞」受賞。

 ドイツの高名な医学者の名を冠したこの賞は、2年に1度、世界の外科医から選ばれる。

 授賞理由は「食道がん手術で安全性の高い方法を確立し、手術後生存率を高めるなど成績向上に貢献した」。

 食道がんのみならず、消化器系がん手術の名医として知られる。

 俳優・渡哲也さんの直腸がん手術も先生の執刀による。

 秋山洋著『手術基本手技』(医学書院1975年刊)は、若い外科医のために書かれた、いわば手術の「教則本」である。

 この本の「序」のなかで著者はこう述べている。

「手術手技というものは、各人が自ら修練し全く個人的に身につけてゆかなければならないものである。

 これは、あたかも、器楽の習得にも似ている。

 しかも航空機のパイロットにも似た人命に関する厳しい責任が伴っている。

 従って試行錯誤をすることができないものであり、決して手術の数をこなして習得すべき性質のものではない。」

 これにつづく第1章「手術と手術教育」は、こう書き出されている。

「手術を受ける患者にとって、外科医は、すべてをまかされた立場にある。

 外科医も人間である以上、万能のはずはない。

 しかし、与えられた信頼に対して、最善をつくす以外にない。

 最善とは、正しい診断と手術適応、全身状態の正確な把握、手術手技の高い技術的水準、綿密な術後管理、などが含まれよう。

 そして患者自身及びその家族との緊密な人間関係が大切な要素である。

 とくに適応については、手術自体が、必要不可避であるか否かを十分考えてみる必要がある。

 理想的には、人の体にメスを加えるというような治療法は、いつの日にか消滅しなければならない。

 手術手技そのものについても、わが身が切られると同様に考え、最高の水準でのぞまなければならないことは当然である。」

 そして、「外科医の適正」は、「技術的適性」(器用さ)と「性格的適性」(心のやさしさ)であるとして、車の両輪のごとく二つのいずれかが欠けても、外科医として不適格であると断じている。

「手術適応の決定にあたっては、多くの条件があげられるが、大きく整理してみると次のようなことになる。

 1、手術が不可避であるか

 手術によらなければ、治癒または好転が望めないとき、または、手術が最良の治療手段であると判定されたとき。

 2、手術のriskの問題

 手術に起因して万一のことがあってはならない。施行にあたってriskの問題は重要である。

 3、手術者側の問題

 手術が最良であり、一般的にいって危険度が許容範囲内であっても、手術者側の、その手術に関する知識、技量などが伴わなければならない。

 ─略─

 この問題は、従来、ことさらに言及することが避けられてきたきらいがある。

 この手術は、自分にとって技術的に無理であるから、自分は手術を行わない、と表明することはきわめて勇気のある立派なことである。

 むしろ、自信のある外科医ほどこういうことがいえるようである。」

 ずいぶん古い話になるが、秋山先生に面接取材したさい、ご著書の以上のような文言に感銘を受けたと、私が言ったら、

「いや、あの本には若い外科医に対して、教育的な意味でものをいってるところがあるので、フィロソフィとして外科医に向かってはいいのですけれど、一般の人に同じことを申しあげるのは、外科医として自分だけ"いい子"になるみたいですから──」

 なるべくなら、あの記述にはふれないでほしい、と先生は言われた。

 しかし、秋山先生のような真摯な医師がけして少なくないことを、私は知っているし、先生のこの文章は「一般の人」たちの医師理解の面でも、かならずよい作用をするに違いないと思う。

 インタビューのあいだ、幾度もくり返された、「ていねいに──」「慎重に──」「一人の患者さんでも失ってはならない」といった言葉と照応し、ひびき合う文章であると思うし、またこの本が多くの若い外科医たちに迎えられ、版を重ねていることも、心づよく感じられる。

(雑誌『壮快』1979年10月号「日本名医列島」<10>より)

 以来、30有余年、医学・医療はめざましく進歩した。

 日本で最初の内視鏡による大腸がん手術(渡辺昌彦・北里大教授)が行われたのが、1992年。

 いま、先進的な施設では、大腸がん手術の9割が内視鏡で行われ、胃、肝臓、肺、前立腺などにも普及しつつある。

 手術法は変わり、進歩する。

 だが、しかし、手術の「基本手技」は変わらない。

 手術者のもつべき「心」は変わってはならない。

 青臭いことを言うようだが、そう思う。

「手術は量ではなく質だ──というのが、私のフィロソフィです」

 秋山先生のことばである。

 フィロソフィ(哲学)という語の原義は「知恵を愛する」という意味だという。


二人の先達

 逸見政孝さんのスキルス胃がんの最終的な拡大手術を行った、羽生富士夫教授は、中山恒明先生の直弟子である。

 中山先生は、千葉大教授を経て東京女子医大に消化器病センターを創設した。

 食道がん手術の名医で「世界の中山」と謳われた。

 それまでの食道がん手術は、手術直接死亡率30~40%という、手術自体、きわめて危険性の高いものだった。

 中山先生は、それを一挙に10%程度に引き下げる新しい術式を開発した。

 中山先生によって、食道がんの外科療法は、はじめて医療のレベルに到達した。

 しかし、それにしても、手術直接死亡率10%──10人に1人は手術で死ぬ──というのも、生半可な数字ではない。

「胸壁前食道胃吻合」というその手術法は、胃あるいは小腸を胸壁の前を通して吊り上げ、のどのところから引き出した食道と、皮膚のすぐ下でつないだ。

 ときには、食道再建が難しく、のどの孔と胃の瘻孔をゴム菅でつないでおくだけにした。

 1963(昭和38)年10月、千葉大病院中山外科で食道がんの手術を受けた、作家の高見順(タレントの高見恭子の父)が、その状景を描いている。

人工食道が私の胸の上を

地下鉄が地上を走るみたいに

乾いた光りを放ちながら

のどから胃に架橋されている

夜はこれをはずして寝る

そうなると水を飲んでももはや胃へは行かない

だから時には胃袋に睡眠薬を直接入れる

口のほかに腹にもうひとつ口があるのだ

シュールリアリズムのごとくだがこれが私の現実である

              (詩集『死の淵より』所収「巡礼」の第一連)

 中山教授は、この手術をたいてい3回に分けて行った。1回で行うには大手術過ぎたからだ。

 これを1回で行い、死亡率もほとんど0%にした人が、秋山洋・虎の門病院名誉院長だ。

 その業績によって、秋山博士は1993年に中山恒明賞を、2003年にルドルフ・ニッセン賞を受けている。

 ドイツの高名な医学者の名を冠したこの賞の受賞者は、2年に1度、世界の外科医から選ばれる。

 秋山博士の受賞理由は、

「食道がん手術で安全性の高い方法を確立し、手術後生存率を飛躍的に高めた」というものだ。

 食道は長さ約25~30センチ、10円硬貨がようやく通るほどの管状の臓器で、気管、心臓、大動脈、大静脈の間を通り抜けて胃とつながっている。

 周囲のそうした重要な臓器を損傷することなく食道を切除し、切除した食道の代用物を作り直す難手術を、二人の日本人外科医は世界に先駆けて成し遂げた。

 そして、いま、食道がんの治療法は、飛躍的に進歩した。

 2010年8月、食道がんの手術を受けることになり、「死んでも戻ってまいります」と、ジョークまじりの強いメッセージとともに入院したサザンの桑田佳祐さんは、3週間の入院で元気に退院した。

 手術は、開腹ではなく、腹腔鏡によって行われた。

 傷はとても小さく、特別な栄養療法のおかげでやせることもなかった。

 手術前には発声面や声質の変化、最悪の場合は声を失う心配さえあったが、術後の声には全く何の影響もない。

 以後の盛んな音楽活動は、みなさんご存じのとおりだ。

 心筋梗塞の病歴をもつ作家のなかにし礼さんは、「私の心臓は食道がん手術のようなおおがかりなものには耐えられまい」と、陽子線治療を選び、がんが完全に消滅したという。

 歌舞伎の中村勘三郎さんは、桑田さんと同じ手術を受けて、いまリハビリ中。復帰の日も近いという。

 今昔の感にたえないとは、このことだろう。


神様とファイト

「私が今、侵されている病気の名前、病名は......ガンです」

 1993年9月6日、日本テレビのホールで行われた緊急記者会見。

 人気絶頂のキャスター、逸見政孝さんは、心中の煩悶を断ち切るようにきっぱりとそう言った。

 そして、東京女子医大消化器病センターに入院、10日後の9月16日、同センター所長・羽生富士夫教授らによる13時間にも及ぶ大手術を受けた。

 術後、一時は歩行訓練を行い、好物のたこ焼きを食べるなど順調な回復ぶりが見られた。

 が、10月23日、腸閉塞を起こし、以後は絶対安静、絶食(栄養点滴)、抗がん剤投与...と続くなか病状は急速に悪化、12月25日、死去した。

 たちまち、その手術に対する否定的言説が巻き起こった。

 そのころ教授に面接取材する機会があった。

 本題の話が終わった後、ぶしつけとは思ったが、聞いてみた。

「(逸見さんを)救えると信じておられましたか?」

「当たり前だ!」

ものすごい形相だった。

 自著「胃の手術を受ける方、受けた方へ」(主婦の友社)の中で教授は、こう述べている。

「私はよく、大手術を前にした患者さんに、『手術は100%救命をめざし、最善を尽くします。でも、その先は神様が決めること。自分は絶対に助かる側に入っていると信じるしかありません』と話します。

 医者と話し合った結果、『よーし、この病気と徹底的に闘ってやる、絶対に勝ってみせる!』というファイトがわけば、もう治療の行程の何分の一かを通過したようなものだと思います」

 うーん、神様と患者のファイトが頼りなのか?

 消化器外科の名医として知られた人の言葉は、あるいは多くの医師が思うことであり、医学・医療の限界を告知する言葉であり、生命の本質に触れる言葉でもあるだろう。

 そのうえで、教授はこう書いている。

「残念ながら胃ガンは、手術以外の治療法で根治可能なガンとは発生も性質も全く異なるものなので、現段階では〈切除〉以外に根治療法はありません。

 切除以外の治療法に飛びつく前に、ほかにいくつか病院を受診して複数の医者の意見も聞いてください。

 切除で治る段階だったものを、みすみす時期を逸し悪化させる例が少なくないからです」

 これは胃がんに限った話ではない。

 手術や抗がん剤や放射線を避けて、ほかの治療法に頼り、致命的な逆効果を招いてしまった。

 長年、絶えることなく聞く話である。

 そのもとにあるのはたぶん、その人が過去に見聞きした、がん治療への不信感だろう。

 だが現代医学は確実に進歩している。

 先入観にとらわれず、固定観念に縛られず、専門医を受診しよう。


悪玉・善玉比

 悪玉(LDL)は血管にコレステロールを運ぶ。

 善玉(HDL)は余分なコレステロールを血管から回収する。

 悪玉が増えすぎたり、善玉が減ったりすると、血管にコレステロールがたまりやすくなる。

 動脈硬化が進み、心筋梗塞などの心血管イベントの発症リスクが高まる。

 動脈硬化の退縮と心血管イベントの発症予防には、悪玉だけでなく、善玉の管理が必要だ。

 治療によって悪玉のLDL値が低下しても、善玉のHDL値が低ければイベント発症のリスクは高まる。

 ある臨床データによると、LDL値が70ミリグラム未満でも、HDL値が

37ミリグラム未満の人は、HDL値が42ミリグラム以上の人に比べて、イベント発症頻度が1.8倍も高い。

 LDL値を下げて、HDL値を上げることで動脈硬化は退縮する。

 LDL値をHDL値で割った「LH比」が高いほど動脈硬化は進展し、低いほど抑えられる。

 LH比2以下で、動脈硬化は退縮し始め、1.5以下でさらに顕著になる。

 以上、吉田雅幸・東京医科歯科大学教授の解説を要約した。


悪玉と善玉

 なぜ、血液中のコレステロール値の異常がよくないのか。

 動脈硬化が早く進み、狭心症、心筋梗塞などの心血管イベント発症のリスクが高まるからだ。

 コレステロールにはいくつか種類があるが、動脈硬化に関係するのはLDLとHDLだ。

 肝臓でつくられたコレステロールを全身の組織に運ぶのがLDLだ。

 一定量は必ずなくてはならないが、多過ぎると血管壁にたまって動脈硬化の原因となる。

 で、「悪玉」と呼ばれる。

 HDLは全身の余ったコレステロールを回収して肝臓に戻す。

 血管壁にコレステロールがたまるのを防ぐので、「善玉」と呼ばれる。

 HDLが少ないと、余分なコレステロールが回収し切れず、残ったコレステロールが血管壁にたまる。

 つまり、LDL値は高いのが、よくない。

 HDL値は低いのが、よくない。

 動脈硬化に関係する脂質にはもう一つ、中性脂肪がある。

 血液1デシリットル中のLDL140ミリグラム以上、HDL40ミリグラム未満、中性脂肪150ミリグラム以上──のうち一つでも該当すると「脂質異常症」と診断される。


脂質異常症

 血液中のコレステロールや中性脂肪が異常に多い状態を、以前は「高脂血症」と呼んでいた。

 07年5月、「脂質異常症」に変わった。

 高脂血症は、血液1デシリットル中、総コレステロール220ミリグラム以上、LDL(悪玉コレステロール)140ミリグラム以上、HDL(善玉コレステロール)40ミリグラム未満、中性脂肪150ミリグラム以上──のうちどれかが該当する場合とされていた。

 しかし、総コレステロールが基準値未満でも、LDL値だけでなくHDL値も低いためにそうなることがあるし、反対に総コレステロールが基準値以上でも、LDL値は高くなく、HDL値が高いためにそうなることもある。

 前者のほうが心筋梗塞などの心血管イベント発症のリスクは高まる。

 問題はHDL値が「低」いことなのに、その場合も「高脂血症」と呼ぶのは不適当だ──と名称を「脂質異常症」に変えて、診断基準から総コレステロール値を除外した。

 現在はLDL値をHDL値で割った「LH比」が重視されるようになっている。



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