暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

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2012年4月

歯周ポケット

 明眸皓歯(めいぼうこうし)──目がパッチリで歯が真っ白──は、美人の象徴。

「芸能人は歯が命」というCMもあった。

 丈夫な歯の効用はそんなものじゃない。

 早い話、よい歯でよく噛んで食べれば物がおいしい。

 消化がよくなり、脳が活性化される。

 噛めば、命の泉わく。

 健康な歯は健康な老後に直結する。

 高齢者の残存歯数(残っている歯の数)と認知機能の関係を調べた研究がある。

 一つは、財団法人ぼけ予防協会(現認知症予防財団)の、

「高齢者の歯、および口腔状態が認知症発症におよぼす影響」という調査研究だ。

 結果の数字だけを示すと、健常群の高齢者には平均14.9本の歯が残っているのに対し、認知症の疑いのある人は9.4本と少なかった。

 もう一つは、東北大学歯学部の報告。

 高齢者の残存歯と認知症との関係を調べたところ、残っている歯が多い人ほど認知症の度合が少なく、そして、脳の萎縮が小さかった。

 人が歯を失う原因は一に歯周病、二に虫歯だ。

 20代までは虫歯、30過ぎると圧倒的に歯周病が増える。

 歯周病の初期症状の歯周炎の罹患率は、24歳以下は1割未満だが、45歳以上は約半数だ(厚労省「歯科疾患実態調査」)。

 歯周病は、歯と歯ぐきの間にできた溝(歯周ポケット)にプラーク(細菌の集合体)がたまり、歯ぐきが溶ける病気。

 歯が抜け落ちるばかりか、糖尿病を悪化させ、動脈硬化を促進し、誤嚥(ごえん)性肺炎のもとになり、心筋梗塞や脳梗塞の誘因になり、早期低体重出産を招くなど、全身の健康に影響する。

 歯周病の初期はほとんど全く無症状だ。

 目盛りのついた探針(ポケットプロープ)で、歯周ポケットの深さを測れば、わかる。

 深さが4ミリ以上だと、歯周病と診断される。

 歯周病を防ぐには一にも二にも歯みがきだが、歯ブラシの毛先は、狭い歯周ポケットの奥までは届きにくい。

 半年に1回、ポケット内にできた歯石をとってもらうようにしたい。

 ミクロコンビ

 歯周病を防ぎ・治すためには、歯周ポケットの奥にひそむ細菌を除去するとともに、歯肉の炎症を抑えることが肝要だ。

 しかし、歯周ポケットは深くて狭いため、歯ブラシの毛先と歯みがきの薬用成分が奥まで届きにくい。

 花王の新製品「ディープクリーン」は、毛束の先端を直径1ミリにした歯ブラシと、それとほぼ同じ約0.2ミリのゲルカプセル含有のハミガキを組み合わせたミクロのコンビだ。

 通常毛束のハブラシより約2倍、歯周ポケットの奥まで毛先が届き、その毛先に押されて、抗炎症・血行促進の薬用成分とカテキンEX(収れん剤)を閉じ込めたゲルカプセルが薬効成分を行き渡らせるのだという。

「ゲルカプセル」というのが不思議なオドロキで、目をこらしてみたが、むろん見えなかった。


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小ならぬ問題

 中高年の男性が、尿の出具合がおかしくなると、たいてい前立腺肥大だろう──と泌尿器科を受診する。

 が、女性には前立腺がないので、年のせいと諦めたり、あるいは内科や婦人科を訪ねる。

 そこで、膀胱(ぼうこう)では...? と、泌尿器科の受診を勧めてもらえると、問題が早く解決される。

 もっとも、男性にも問題がないわけではない。

 トイレが近いという男性が来ると、ああ、前立腺でしょうねと、前立腺を調べて少しでも肥大が見つかったら、やはりそうだと、前立腺肥大症の薬が処方される。

たが、ちっとも改善されない。

「それだけならまだいいけど、前立腺の手術をして、よくならないので、医者と患者さんが気まずくなる。そういう例もけっこうあるようです」

 ──と泌尿器科の専門医に聞いたことがある。

 なにしろ、「男性下部尿路症状診療ガイドライン」という2009年発行の指針を見ると、男性の排尿障害の症状は、下のように大きく四つに分けられ、それをさらに細かく分けると25もある。

 蓄膿症状=人間の体は、一日中ずっと尿をため続けていて、排尿する時間はトータルすると10分ぐらいしかない。

 残りの23時間50分の間に起こってくるのが、蓄尿症状で、昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感(尿意を感じたとたんたちまち漏れそうになる症状)、さまざまな種類の尿失禁、反対に尿がたまっても感じない尿意鈍麻、尿意消失とある。

 排尿症状=尿勢低下(尿の出の勢いが弱い)、排尿開始遅延(なかなか出ない)、腹圧排尿(腹に力を入れないと出ない)、尿線散乱(散らばる)、尿線途絶(途中で止まる)、排尿終末時滴下(終わりごろにはタラ、タラっとたれる)といった症状。

 排尿後症状=おしっこをした後に感じる症状で、まだ残っている残尿感、排尿後滴下(終わったと思った後にタラッとたれてくる症状)。

 排尿症状の「排尿終末時滴下」は、まだホースが外に出ているときの症状。

 排尿後症状の「排尿後滴下」はホースをしまってからの症状。

 医学的に正確に分類してあるわけだ。

 生殖器痛・下部尿路痛=膀胱痛、尿道痛、外陰部痛、陰嚢痛、骨盤部痛などいろんな部位で、いろんな病気で起こる症状。

 こうした「下部尿路症状」のもとになっている病気は何か?

 ① 前立腺・下部尿路の疾患・病態。

 ② 神経系の疾患・病態。

 ③ そのほかの疾患・病態。

 ──と三つに大別される。

 ①は、前立腺肥大症、前立腺炎、前立腺がん、膀胱炎、間質性膀胱炎、膀胱がん、膀胱結石、膀胱憩室、過活動膀胱など。

 ②は、脳から尿道までのデリケートな神経のルートに神経系の病気が絡み、排尿に微妙に影響するもので、脳梗塞の後遺症、脊髄損傷などいろいろある。

 ③には薬剤性(飲んだ薬のせいで排尿のぐあいが悪くなる)、睡眠障害、心因性(緊張したときに生じる尿意など)、多尿(水分の取り過ぎ。これについては当ブログでもすでに述べた。2011年7月18日の「水、飲みすぎないで!」をご参照あれ)

 ──といったように全然〝小〟さくないのが、小便問題である。

 おかしい、つらい、と感じたらぜひ詳しい検査を泌尿器科で─。


小ならぬ悩み

 さっき行ったばかりなのに、またすぐ行きたくなる。

 あっと言う間に漏れそうになる。

 ときには漏らしてしまう。

 夜は2度も3度も起きなければならない。

 たかが、おしっこ。されどおしっこ。

 小便の悩みは決して「小」さくはない。

 しかし、それを病気と考える人は、とても少ない。

 製薬会社のアステラスが行った、40歳以上の女性3092人対象の「排尿実態調査」では、実に半数の1547人が「過活動膀胱(ぼうこう)の疑いあり」と判定された。

 だが医療機関を受診した人はその中の15%に過ぎず、8割以上の人たちは、

「年齢による老化現象」

「冬は体が冷えるので回数が増えて当然」

 ──といったように思い、過活動膀胱という病気があることも知らなかった。

 過活動膀胱

 過活動膀胱は、英語の「オーバーアクティブ・ブラッダー(Overactive Bladder=OAB)」という病名を訳したもの。

 膀胱が活動し過ぎてコントロールがきかなくなるという意味だ。

 膀胱が勝手に収縮するため(排尿筋の不随意収縮)、尿が少したまっただけでも尿意が生じ、漏れそうになる尿意切迫感と、トイレがとても近くなる頻尿を主症状とする病気だ。

 推定有病率は40歳以上の12.4%(約810万人)で、60代=12%、70代=23%、80代以上=37%と高齢になるほど増える。

によって引き起こされる。

 排尿筋というのは膀胱を覆う筋肉で、トイレに行って排尿するときだけ収縮して、膀胱にたまった尿を出すしくみになっている。

 それが自分の意志とは関係なく勝手に収縮してしまうので、不意に尿意が生じたかと思うと、たちまち漏れそうになる(漏れてしまう)し、ひっきりなしにトイレ通いをしなければならない。

 なんだか情けない、つらい病気だ。

 脳や脊髄など中枢神経の障害による神経因性過活動膀胱と、原因が分からない特発性過活動膀胱があり、後者のほうがずっと多い。

 過活動膀胱は、命に関わる病気ではない。だが重症の人では生活の質が極度に落ち、人前で失禁すれば自尊心が全壊する。

 死にはしないが、死にたくなるほど打ちのめされる。

 過活動膀胱の治療には、臓器の過剰な働きを抑える抗コリン薬が用いられ、有効率70%以上といわれた。

 その後、開発された薬(ベシケア、デトルシトール、ウリトス)は、より選択的に排尿筋に作用し、もっとよく効く。

 がまんは無意味、早く泌尿器科へ──。


慢性の便通異常

各駅停車症候群

 さいたま市の浦和に住む友人は、浦和から東京までの各駅のトイレの場所を全部、把握している。

 そして、各駅停車の電車にしか乗らない。

 過敏性腸症候群だからだ。

 過敏性腸症候群(IBS)は、下腹部の痛みあるいは不快感、便通異常(下痢・便秘)が慢性的に続いているが、大腸や小腸には器質的異常(がん・潰瘍など)は認められない、機能性の腸疾患だ。

 以前は「過敏性大腸炎」と呼ばれていたが、炎症はない病態なので「過敏性大腸症候群」になり、現在は「過敏性腸症候群」で通っている。

 その名のとおり、いきなり生じる便意に対応するには、トイレのない快速には乗れない。

「各駅停車症候群だ」と苦く笑った。

 もう一つ、やはり器質的異常はなにも認められないのに、胸焼けがしたり、腹が張ったり、食後に腹痛が出たりする病気がある。

 機能性胃腸症とか機能性ディスペプシア(上腹部消化管異常=FD)と呼ばれる。

 つまりあらゆる検査を行っても「異常なし」なのだが、胃の具合がわるいのが機能性胃腸症で、腸の調子がおかしいのが過敏性腸症候群。

 上はFD、下はIBSというわけだ。

 どちらもいま、非常に増えていて、腹部の異常を訴えて来院する人の20%以上がFDかIBSだが、インテリジェンスの高い集団を調査すると、罹患(りかん)率はさらに上がるという。

 そう聞くと「実はおれも...」と手を挙げたくなる。

 脳腸相関病

 機能性胃腸症(FD)や過敏性腸症候群(IBS)には心因が絡んでいる症例が多い。

 特にIBSは心理的・社会的ストレスで起こりやすい。

「この病気を考えるうえで、極めて重要なキーワードは、ブレイン・ガット・インタラクションズ(脳腸相関)だ」

 ──と専門医は解説している。

 大腸は脳に最も近い臓器で、「第二の脳」とか「心の鏡」といわれるくらい、情動作用においては腸が脳に直接働きかけている。

 腸はいつも脳に神経パルスを送り、脳は常に腸へ信号を出している。

 だからストレスがもろに腸管の運動機能と感覚機能の異常となって現れるのだ。

 運動機能の異常で、腸の動きが速くなると下痢をし、遅くなると便秘が起こる。

 腸がけいれん収縮すると腹痛が生じる。感覚機能が異常になると、腸にちょっとガスがたまっただけでも神経質に感知し、奇妙な苦痛を覚える。

 IBSはいわば「脳腸相関病」なので、これを治すには、単に腸を局所的に診るだけではいけない。

 心のケア──患者と医師との信頼関係が必要という。

 画期的新薬

 過敏性腸症候群(IBS)の治療薬としては、これまで主に①ポリカルボフィル、②トリメプチン、③抗コリン薬が使われてきた。

 ①は便の水分量を調節する薬で、下痢にも便秘にも効くが、効果が出るのに時間がかかる。

 ②は消化管の平滑筋や粘膜に作用して吐き気や痛みなどを和らげる。

 ③は神経伝達物質のアセチルコリンの作用を妨げ腸管のけいれんを抑える。

 本郷道夫・東北大学総合診療部教授らの調査では、一般臨床医がIBSの患者に処方するのは①が50%。②が16%。③が9%だった。

 2008年、下痢型IBS治療にイリボーという新薬が加わった。

 消化管の運動にかかわる神経伝達物質セロトニンの受容体を阻害することで、下痢、腹痛を抑える。

 本郷教授によれば、

「これは日本発の画期的新薬」で、

「腹痛でトイレに駆け込むことがなくなった」

「通勤途中で途中下車しなくてよくなった」「腹痛・排便の不安がなくなり、業務に集中できるようになった」

──といった「嬉しい患者さんたちの声」がぞくぞく届いているそうだ。


柔道の事故を防げ!

 新学期から中学1、2年生は、体育で武道を必ず習うことになった。

 種目は、柔道、剣道、相撲、空手、弓道など。

 何を教えるかは学校ごとに選ぶ。

 文部科学省の調査によると、いちばん多いのは柔道で64%、次いで剣道38%、相撲3%、空手2%、弓道1%。

 そこで、問題になるのが、柔道のケガだ。

 これまでも柔道の部活動や民間の教室などで死亡したり、重度の障害を負ったりした子どもはとても多く、再発防止のための全国組織も設立されている。

 内田良・愛知教育大講師(教育社会学)の研究論文によると、体育的部活動での死亡事故は、中学では柔道が突出して多く(次に多いバスケットボールの5・3倍)、高校ではラグビーと柔道が圧倒的に多い。

 柔道で死に直結する動作は、投げ技の衝撃(受け身の失敗)が大半を占めている。

 頭を強く打ったための急性硬膜下血腫だろう。

 頭を強く打つと骨が折れることもある。

 そのため血管が切れ、じわじわと出血し、一時間ぐらいで昏睡(こんすい)に陥る硬膜外血腫。

 脳に傷がついて脳の形が崩れる脳挫傷。

 いずれも命にかかわる。

 そんな重傷ではない脳振盪(しんとう)にも問題がある。

 アメリカのデータだが、フットボールの選手で2回以上気を失った人には、学習能力の低下がみられる。

「柔道はその〈よさ〉以上に、まずもってその〈危険性〉を強調しなければならない」

 ──と内田講師は記述している。

 柔道の事故を防ぐにはまず一にも二にも受け身を習熟することだろう。

 最初は受け身だけを徹底的に叩き込み、体にしっかり覚えさせるべきだろう。

 門外漢の素人考えだが、そう思う。

 ところで、そういう自分は世渡りの受け身は、からきし下手なのである。

 全然カンケイないはなしだけど......。


腸の付録?

 年少の(といっても、50を五つ六つ過ぎている)友人が、急性虫垂炎の手術を受けた。

 虫垂炎は乳幼児や老人には少なく、青少年に多い。

 見舞いに行き、若いじゃないかと言ったら、笑いかけて「痛ぇッ!」と腹を押さえた。

 虫垂炎はだれでも知っている。俗にいう「モーチョー」だ。

 盲腸は、小腸が大腸とつながるところにある。

 盲腸の下に細長い虫のように垂れているのが、虫垂だ。

 お医者さんたちは虫垂や虫垂炎を「アッペ」と呼ぶ。

 ドイツ語のアッペンディクス、アッペンディチーティスを略したものだ。

 語源は「ぶら下がっているもの」という意味らしい。

 洋書の目次の末尾に見る同じスペルの英語は「付録」または「追加」のこと。

 虫垂には特に何の機能も認められず、切り取っても命に別条はない。

 手術も容易で「アッペとヘモ(痔)は外科の初歩」と言われる。

 だが、全く無用の付録ではなさそうだ。

 免疫に関係があるとか、消化を促進するという説もある。

 包茎の男性は虫垂炎になりやすいと「男子整形」の医師に聞いたこともある。

 体に無用な臓器はないし、易しい手術もないはずだ。


続・難病を治す!

刺絡療法

 交感神経の過緊張が病気をつくる。

 ならば、副交感神経優位の状態にすればよい。

 むろん実際の理論はこんな簡単なものではないが、

「福田─安保理論」にもとづく自律神経免疫療法を、臨床の場で活かすことを始めた福田稔先生が、究極の治療法として出会ったのが「刺絡」だった。

 刺絡は、鍼灸(しんきゅう)治療の一種。

 ある文献に──、

「刺絡は自律神経の異常高進をおさえ、交感神経と副交感神経の調和をはかる」

 ──と述べられていた。

 その治療手技の最もシンプルな一つは、手足の指先にある井穴(せいけつ)というツボを注射針やレーザーで刺激するだけだ。

 福田先生は、希望者に対する刺絡治療と、免疫力の指標である白血球の状態を調べることを始めた。

 すると、症状の改善と併行して白血球の数値が理想的に向上していくことがわかった。

「白血球の動きを把握していると、刺絡療法の効果は手に取るようにわかる。

 治療を進めていく大きな自信になった」

 ──と自著「難病を治す驚異の刺絡療法」(マキノ出版)で述べている。 

驚異の爪もみ

 自律神経のバランスを整えて病気を治す自律神経免疫療法=刺絡療法の考案者、福田稔先生が、誰でも、いつでも、どこでもやれる──と勧める健康法がある。

 やり方はごく簡単。

 手足の爪の生えぎわを親指と人差し指で押しもみするだけでよい。

 爪の生えぎわの両角には、東洋医学で自律神経の調整ポイントとされる井穴(せいけつ)というツボがある。

 神経線維が密集する感覚の鋭敏な部位なので、

「刺激が瞬時に自律神経に伝わり、バランスを整えることができる」という。

 試しにやってみたら、なんとも心地よい痛みが生じた。

 5本の指を順々にもんでいくと、体がシャンとなっていく気がする。

 福田先生によると、血流が促進され、体内でつくられた老廃物が血流に乗って排せつ器官に運ばれ、汗や呼吸、尿、便とともに体の外に捨てられる。

 体の熱を運ぶ血流により冷えた体が温まり、冷えが解消され、冷えによる体の不調がめきめき改善する。

「世界中の人に知ってほしい21世紀のエコ治療」爪もみは、五木寛之さんの「養生法」の一つでもあるそうだ。


難病を治す!

気圧と虫垂炎

晴れた日にはゴルフに行けない」と、外科医の福田稔先生が気づいたのは、1990年代初めのことだった。

 週日のゴルフなど思いも及ばぬ外科部長の身、好天に恵まれた日曜日にいそいそと出かける準備をしていると、きまって、

「先生、アッペ(虫垂炎)の急患です」と待ったがかかるのだ。

 なぜ"モーチョー"はわざと晴天の日を選んでおれのゴルフをジャマするのか?

 この疑問を解くため、先生は病院の庭に百葉箱をつくり、自動温湿度・気圧計を設置、2年有余にわたる測定データと、その間の虫垂炎手術112例との関係を照らし合わせた。

 結果、軽症の虫垂炎が起きたときの平均気圧は1011hpa(ヘクトパスカル)で、中程度は1013hpa、重症は1019hpa──。

 気圧と虫垂炎の重症度とのパラレル(平行)関係がわかった。

 この発見が機縁となって、福田先生と安保徹・新潟大教授(免疫学)との共同研究が始まり、気圧と白血球、自律神経と白血球の密接な関係が解明された。

 難病に対する自律神経免疫療法の基礎となる「福田─安保理論」が確立した。

福田─安保理論

「気圧と虫垂炎の関係」から始まった、外科医の福田稔先生と免疫学者の安保徹・新潟大教授との共同研究は、難病に対する自律神経免疫療法の基礎となる「福田─安保理論」に到達した。

 要約するとそれは──、

「自律神経は白血球の働きと密接にかかわり、交感神経が緊張すれば顆粒(かりゅう)球が増え、副交感神経が緊張すればリンパ球が増える」

 ──というものだ。

 自律神経とは、意志とは関係なく自律的に体の調節を行う神経で、身体活動を高進させる交感神経と、反対の作用をする副交感神経がある。

 交感神経が適度に緊張しないと、仕事や運動などの身体活動を活発に行うことはできない。

 だが緊張し過ぎるとバランスが乱れて体調が低下し、病気を引き起こす。

 副交感神経優位の状態では、体は反対にリラックスモードになる。

 体を病気から守る白血球には、顆粒球、リンパ球、マクロファージの3種類があり、それぞれ異なる働きをする。

 その働きを支配しているのが自律神経で、病気の発症・経過に密接に関係しているという。

免疫と白血球

 体に侵入した病原菌などの異物を処理する免疫の役割を担う白血球はマクロファージが約5%、リンパ球が約35%、顆粒球が約60%を占める。

 マクロファージは強い食作用をもつ大型細胞で大食細胞とも呼ばれる。

 その作用をさらに強めたのが顆粒球で、細菌や真菌類を捕食する。

 顆粒球には好中球、好酸球、好塩基球とあるが、大半は好中球だ。

 リンパ球はウイルスなどの小さな異物を「抗原」とみなして「抗体」をつくる。

 これらの白血球の働きをコントロールしているのが自律神経で、体が活動するときに働く交感神経と、休息するときに働く副交感神経がある。

 二つの自律神経がバランスよく働くことで健康は保たれる。

 しかし、交感神経が過緊張状態になると、顆粒球が増加し、リンパ球が減少する。

 体温は低く、血圧が上がり、呼吸は浅く、心拍は速く、血行は悪く、病気になる。

 ならば、副交感神経の優位状態をつくれば、病気は改善するはずだ。

 ごく大まかに言うと、そんな理論から生まれたのが、「刺絡療法」「爪もみ療法」だ。

 それについては、明日──。


金肥と毒ガス

 4月22日は、毒ガスが初めて戦場で使われた日だ。

 2008年の科学ジャーナリスト大賞作品、宮田親平著『毒ガス開発の父 ハーバー』(朝日新聞出版=1200円+税)によってそのことを知った。

 この本の並々ならぬ内容は──、

〈史上初の毒ガス戦が繰り広げられた第一次大戦下、ドイツ軍で開発指揮をとったのは、のちにノーベル賞を受賞したユダヤ人科学者、フリッツ・ハーバーだった。

 友人のアインシュタインからは、

「君は傑出した科学的才能を大量殺りくのために使っている」と非難され、自身も科学者であった妻クララは、夫の殺人兵器開発に反対し、毒ガスが初めて実戦に使われた直後、自ら命を絶った〉

 ──というカバーの紹介文を一読しただけでも、うかがい知ることができる。

 化学オンチの当方は、やはりこの本で初めて知ったのだが、「空中窒素固定法」によるアンモニアの合成を発明した人が、ハーバーだ。

 アンモニアなら知っている。

 昔の田舎では「金肥」と呼ばれ、タダのし尿とは別格の貴重な肥料だった。

「空中窒素固定法」とは空気中の窒素を原料として、窒素化合物を合成する方法──だそうだ。

 早く乱暴にいえば、空気からアンモニアをつくる魔法みたいなものか。

 ハーバー法または協力者の名とともにハーバー・ボッシュ法と呼ばれるこの方法によって、植物の成長に不可欠な窒素系肥料の製造が工業化され、農作物の大量増産が可能となった。

 1913年、フリッツ・ハーバーの名は世界に知られた。

 そんななか第1次世界大戦がぼっ発、不利な戦局を逆転させる新兵器を求める政府に応え、ハーバーは毒ガスを作った。

 抗議する妻に対し、

「科学者は平和時には世界に属するが、戦争時には祖国に所属する」と答えたという。

 だがその祖国はハーバーを裏切るのだ。

 ドイツは敗れ、ハーバーも戦犯にリストアップされたが、ノーベル賞(1918年の化学賞)のおかげで沙汰止みになった。

 授賞理由は「アンモニア合成法の開発」だった。

 それから15年後、ナチスのユダヤ人迫害により、ハーバーは追われるごとく「祖国」を去らねばならなかった。

『毒ガス開発の父 ハーバー』には、「愛国心を裏切られた科学者」とサブタイトルが付いている。

 アンモニア合成で国家財政に絶大な貢献をし、戦時には化学戦の先頭に立ったハーバーも、ナチスのユダヤ人迫害を免れることはできなかった。

〈比類ない愛国者であり、ドイツ科学界の指導的地位にあり枢密顧問官として「閣下」と呼ばれたハーバーはこうして、ただの「ユダヤ人ハーバー」になって、祖国を去った〉
 
  ━━という記述には、著者の思いがにじみ出ているようだ。

 宮田氏が、イラン・イラク戦争での毒ガス使用の報道に接し「毒ガスと科学者」(文春文庫)を世に問うたのが1991年。

 以来十数年、〈複雑な人物ハーバーに焦点を当てて書きたく思い〉、彼と星製薬創業者、星一との終生の交流をも絡め、資料収集と現地調査を重ねて本書は完成した。

 東大医学部で薬学を修め、文藝春秋で「週刊文春」編集長、編集委員を歴任した理系+文系の著者ならではの科学と人間の物語。

 学ぶこと多い一冊だった。


栄転ストレス

 サラリーマンの4月は異動の月。

 栄転した人もあれば、左遷された人もいるだろう。

 どちらがより大きなストレッサーになるかといえば、栄転のほうだと精神衛生の専門家は言う。

 左遷されると、同僚が愚痴を聞いてくれる。

 慰め、励ましてくれる。日本的〝飲みにケーション〟がストレス解消に役立つ。

 一方、昇格人事では、周囲のジェラシーや仕事の質の高まり、推薦してくれた上司への恩義などがけっこうストレッサーとなる。

 昇進も難儀なものらしい。

 むろん生きがい、働きがいもそこから生まれるのだろうが。

 サラリーマンのストレスを点数化した大阪府立公衆衛生研究所の表を見ると、1位は配偶者の死で83点。以下━━、
 
 倒産・失業=73点、離婚=72点、夫婦の別居=67点、仕事上のミス=61点、

 転勤・配転=57点、労働条件の変化=56点、ポストの変化=52点、

 上司とトラブル=51点、結婚=50点、子どもの受験勉強=46点...。

 ストレスが長く続くと、体にさまざまな症状が生じる。

 心身症だ。

 なかなかどうして「気楽な稼業」などではないようだ。



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