暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

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食生活

ナッツ1日28gで心血管疾患予防

 ナッツの心血管疾患予防効果に注目が集まっている

 2013年、スペインの研究チームは、地中海食による指導介入が脂質制限食による指導介入と比較して心血管疾患を30%減少させることを示した。

 この折、地中海食指導介入群の中にさらに2群が設定され、1群には地中海食を摂取しつつ1週間に1㍑のオリーブ油の使用が求められ、もう1群には1日30㌘のナッツの摂取が求められた。

 オリーブ油群、ナッツ群ともに脂質制限食群に比べ心血管疾患の発症を有意に抑制した。

 正直、私はどうあがいても1週間に1㍑のオリーブ油は使いこなせないが、1日30㌘のナッツであれば摂取できる。

 このときから、私はナッツ摂取に関心を持つようになったのだが、実は同じ2013年に早速ナッツ摂取と総死亡率との負の相関、翌2014年にはナッツ摂取と心血管疾患発症との負の相関が示された。

 この二つの観察研究は、いずれも米・ハーバード大学公衆衛生学栄養学部門が報告していたが、前者はNurses' Health StudyとHealth Professionals Follow-Up Studyという同大学が実施しているコホート研究の解析であり、後者はそれらも含めたコホート研究のメタ解析であった。

 今回、同大学が実施している三つのコホート研究の検討があらためて行われ、ナッツ摂取と心血管疾患の発症がやはり負の相関関係にあることが報告された。

 力強いタイトルのeditorial (J Am Coll Cardiol 2017;70:2533-2535)も含めてご紹介したい。

 研究のポイント1: 3コホートでナッツ摂取と心血管疾患の相関を検討

 本研究で解析されたコホート研究は以下の三つである。

・Nurses' Health Study(NHS:7万6,364人、女性、1980~2012年のデータ)

・Nurses' Health Study Ⅱ(NHSⅡ:9万2,946人、女性、1991~2013年のデータ)

・Health Professionals Follow-Up Study(HPFS:4万1,526人、男性、1986~2012年のデータ)

 これらはいずれも世界的に有名なコホート研究であり、これまでにも数多くの論文を出しているが、念のため、簡単にご紹介する。

 NHSは1976年に開始され、30~55歳の女性看護師12万1,700人を登録したコホート研究である。

 NHSⅡは1989年に設立され、25~42歳の女性看護師11万6,671人を登録したコホート研究である。

 HPFSは1986年に開始され、40~75歳の男性医療従事者5万1,529人を登録したコホート研究である。

 いずれも登録から2年ごとに生活習慣や健康状態についてのアンケートがなされている。

 本研究では、登録の時点で心血管疾患やがんの既往がある人、ナッツ摂取の状況についての情報を提供しなかった人、食事摂取記録の記載に漏れが多い人、エネルギー摂取が過少の人(男性<800kcal/日、女性<600kcal/日)、エネルギー摂取が過剰の人(男性>4,200kcal/日、女性>3,500kcal/日)を除外し、NHSの7万6,364人、NHSⅡの9万2,946人、HPFSの4万1,526人を解析対象とした。

 食習慣アンケートにおけるナッツ摂取についての質問は28gを1サービングと定義し、以下の中から選択することになっていた。

 サービング=食べ物や飲み物の平均化した単位。例、パン1枚、ナッツ28㌘は1サービング。

 1.ほとんど摂取しない

 2.月に1~3サービング

 3.週に1サービング

 4.週に2~4サービング

 5.週に5~6サービング

 6.日に1サービング

 7.日に2~3サービング

 8.日に4~6サービング

 9.日に7サービング以上

 また1998年以降には、それまでの総ナッツ摂取量に変えて、クルミ、ピーナツ、ピーナツバター、その他のナッツの摂取量を調査することとし、それらの合算量を総ナッツ摂取量とした。

 実際の解析においては、暦年のナッツ摂取量を基に、以下の5群にまとめて解析した。

 第一群:ほとんど摂取しない(0.00サービング/日)

 第二群:週に1サービング未満(0.01~0.09サービング/日)

 第三群:週に1サービング(0.10~0.19サービング/日)

 第四群:週に2~4サービング(0.20~0.59サービング/日)
 
 第五群:週に5サービング以上(0.60サービング/日以上)

 心血管疾患の定義として、主要アウトカムには心筋梗塞、脳卒中、心血管死の複合エンドポイントをおいた。

 また、複合エンドポイントのそれぞれの構成要素〔致死性・非致死性心筋梗塞、致死性・非致死性脳卒中(虚血性、出血性)〕を二次エンドポイントとした。これらのエンドポイントがアンケ―ト上で回答された場合に、本人(本人が亡くなった場合には家族)にカルテ開示の承諾を求め、エンドポイントが生じた月とエンドポイントの診断内容を確認した。

 研究のポイント2:ナッツ摂取量と心血管疾患の発症に負の相関

 NHSで28.7年、NHSⅡで21.5年、HPFSで22.5年(計506万3,439人・年)の平均追跡期間中に、8,390人の心筋梗塞、5,910人の脳卒中、計1万4,136人の心血管疾患の発症があった。

 そこで、主要アウトカムの発症リスクを各群で見てみると、ナッツ摂取が多い方が心血管疾患の発症リスクが少なかった。

 これは年齢で調整しても、多変量(年齢、人種、BMI、身体活動量、エネルギー摂取量、喫煙状況、ビタミン剤内服の有無、アスピリン使用の有無、家族歴、既往歴、エネルギー摂取量、閉経状況、飲酒、野菜摂取、肉摂取)で調整しても同様であった。

 こうしたナッツ摂取量と心血管疾患との負の相関は、一つひとつの心血管イベントについて検討した場合、心筋梗塞に対しては認められたが、脳卒中に対しては認められなかった。

 ナッツの種類による相違を検討したところ、心筋梗塞に対してはいずれのナッツも発症リスクの減少につながっており、脳卒中に対しては特にクルミが(3コホートの合計ではピーナツも)発症リスクの減少につながっていた。

 今回の結果を別な言葉で表現すると、「ナッツを28㌘食べるごとに心血管疾患が全体として6%ずつ減少し、心筋梗塞としては13%ずつ減少する」ということになるらしい。

 私の考察:早速今日の夜食にナッツを食べよう
 
 今回のデータ解析結果からは、なんとナッツを1サービング(28㌘)摂取するごとに13%もの心筋梗塞リスクの減少が得られるという。

 もちろん、これはあくまでも観察研究から得られた解析結果にすぎない。

 栄養学では、観察研究のデータと介入試験のデータに乖離が生じることがあり、観察研究のデータだけをうのみにして因果関係を推し量ることはできない。

 しかし、PREDIMED試験で既に介入試験の結果と一致しているだけに、因果関係はあるのではなかろうか。

 1サービングで13%もの心筋梗塞リスクの減少が得られるというのは大げさな気もするが、負の関連があるのは間違いように思う。

 この論文に対してJ Am Coll Caridol誌は、PREDIMED試験のメンバーでもある、スペイン・バルセロナの肥満栄養病態生理研究所のEmilio Ros氏にeditorial commentを委ね、

「ナッツを食べよ!されば生きながらえん!!(Eat Nuts, Live Longer)」という題名の論文を掲載している。

 Ros氏も既存のデータとの一致から、ナッツ摂取による心血管疾患保護への因果関係が強く示唆されるとし、αリノレン酸(植物性ω3多価不飽和脂肪酸。特にクルミに多いとされる)が特に良い効果をもたらし、故にクルミは脳卒中に対しても保護的に働くのではないかとしている。

 また、クルミと同様、ピーナツも脳卒中を含めて保護的であることにも注目しつつ、ピーナツバターではそうした作用がないことから、「おそらく、塩分や糖質が添加されるためにナッツのメリットが消失してしまっているのであろう」としている。

 Ros氏の結論は、"ナッツは天然の健康カプセルと見なせるかもしれない"である。

 1週間に1㍑のオリーブ油の摂取は難しい私ではあるが、1日に28㌘のナッツなら可能だ。

 早速今日の夜食にナッツを食べようと思う。

 =山田 悟 北里大学北里研究所病院糖尿病センター長


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ピロリ菌が「胃がんの常識」を変えた


日本人には胃がんが多い。

最新がん統計(2015年4月)によると、

男性では死亡数は肺がんに次ぐ2位。罹患数は1位。

女性では死亡数は大腸がん、肺がんに次ぐ3位。罹患数は乳がん、大腸がんに次ぐ3位。


だが、これは比較的近年のこと。

男性の胃がん死亡数が肺がんに抜かれたのが1993年で、女性のそれが大腸がんに抜かれたのは2002年。

それまでは男女ともに死亡数も罹患数もずっと胃がんが1位だった。

なぜ、日本人にはそんなに胃がんが多い(多かった)のか?


まず戦後間もなくのころは「熱い食べ物」が危ないといわれた。

当時、日本でいちばん胃がんの死亡率が高かった奈良県に着目した高名な医学者が、原因は奈良県民が愛好する熱い茶がゆではないかと指摘し、茶がゆの廃止が呼びかけられた。

だが、この茶がゆ犯人説はその後の研究でほぼ完全に否定された。

茶がゆを愛好する地方は、奈良県以外にも和歌山県、三重県、山口県、佐渡などあちこちにあり、奈良県ほど胃がん死亡率が高くないなど、矛盾する事実がいろいろ出てきたからだ。


そのあと、「胃潰瘍前がん説」と「塩分過剰摂取説」が提唱され、近年まで最も有力な説として認められてきた。

たしかに胃潰瘍から始まる胃がんが多いことや、塩分の取りすぎが胃がんの悪化に関係していることは事実だが、それが胃がんの原因ではないことがいまは明らかになっている。


1983年、オーストラリアの研究者らが発見した、ヘリコバクター・ピロリ(通称ピロリ菌)の研究が進み、胃がんの原因が特定されたからである。

以下、ピロリ菌に関する現代医学の定説を要約してみる。

ピロリ菌に感染すると、ほぼ100%の人に「ヘリコバクター・ピロリ胃炎」という慢性胃炎の一種が生じ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のもとになる。

慢性胃炎が長く続いて萎縮性胃炎に変わると、その一部から胃がんが発生してくる。

ピロリ菌に感染している人が必ずしもみな胃がんになるわけではないが、遺伝性のスキルス胃がんなどを除き、ほとんどすべての胃がんの人はピロリ菌に感染しているという。

国立国際医療センターの研究チームは、ピロリ菌に感染した1246人と、感染していない280人を、8年間追跡調査した。

結果、感染者では約3%に胃がんが発生したが、非感染者ではゼロだった。

WHO(世界保健機関)は、「ピロリ菌は煙草なみの発がん物質」といい、

ピロリ菌が胃がんを引き起こすメカニズムを解明した畠山昌則・東京大教授(病因・病理学)は、「胃がんの99%はピロリ菌感染が原因です」と明言している。


日本ヘリコバクター学会は、胃がん予防のため、胃の粘膜にピロリ菌がいる人は全員、薬で除菌することを勧めている。

学会の提言を受けて、まず2000年に胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者のピロリ菌の除菌治療が公的医療保険の適用となり、2010年には、

①ピロリ菌が原因の胃MALTリンパ腫、

②特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、

③内視鏡治療でがんを取り去った早期胃がんの再発防止、

─と対象が広がり、2013年からは慢性胃炎の人のピロリ菌除菌も保険でできるようになった。

ヘリコバクター・ピロリ胃炎であるかどうかを医療機関でチェックし、陽性とわかったら除菌を行うことをお勧めしたい。

無症状の若い人たちでは、胃がん、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などを完全に抑えることができる。

中高年ではすでに前がん状態に進んでいる場合もあり、除菌後も定期的にフォローする必要がある。

「除菌後も必ず胃がん検診を受け続けます」と一筆とってから、治療を始める専門医もいる。


なお、食塩は胃粘膜のバリアーを侵し、ピロリ菌の毒素がしみ込みやすくなる。胃がん予防には、塩分の取りすぎにも注意したい。



コレステロール「善玉」「悪玉」の真偽


ごく最近まで、ある種のコレステロールは世界中で忌み嫌われた健康の大敵だった。

コレステロールにはいくつか種類があるが、そのなかの一つ「LDL」は、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞の危険を高める「悪玉」と決めつけられ、別の一つ「HDL」は、反対に動脈硬化を防ぐ役目をする「善玉」と持ち上げられた。

これが長い間の世界の常識であり、血中コレステロール値の「悪玉は低く、善玉は高く」が健康管理の最も重要な心得の一つだった。

だが、このところ、悪玉が高くても、善玉が低くても、全然気にしなくてもよい、というようなことになってきた。それはなぜか?

その前に、LDLとは? HDLとは? についてちょっと─。

コレステロールは、脂肪の一種だからそのままでは"水と油"で血液には溶けない。

そのため血液中ではたんぱく質と結合した形になっていて、その結合の形を「リポたんぱく」という(リポ=脂肪)。

シュークリームにたとえると、クリームに当たるのがコレステロール、皮がたんぱく質、というわけだ。

代表的なリポたんぱくにはカイロミクロン、VLDL(超低比重リポたんぱく)、LDL(低比重リポたんぱく)、HDL(高比重リポたんぱく)の4種類がある。

カイロミクロンは比重が最も小さく、軽くて大きい。VLDLはそれに次いで比重が小さい。

この二つのリポたんぱくは、形が大きくて細胞の中に入ることができないので、肥満などには関係するが、血中コレステロールについては直接問題にはならない。

LDLは比重が小さく中型で、HDLは比重が大きくて小型である。

コレステロールの多くは肝臓でつくられるが、LDLは肝臓から組織へコレステロールを運び、一方、HDLは組織からコレステロールを引き出して肝臓に持ち帰る。

LDLが多ければ多いほど血管の壁にコレステロールがたまり、動脈硬化が進み、HDLはそれとは逆のはたらきをする(と、考えられていた)。

で、「悪玉」のLDLをふやさないため、バターや肉の脂身、卵の黄身などコレステロールの多いものを避けるのが、健康的食生活の絶対条件とされた。

厚生労働省が定めたコレステロールの摂取基準値は、18歳以上の男性は1日当たり750㍉㌘未満、女性は600㍉㌘未満。

心臓病が断トツに多いアメリカの食事指針はもっとずっとシビアで1日300㍉㌘未満だった。それがここへきて大きく様がわりした。

2015年5月、厚労省は5年ぶりに改定した「食事摂取基準」で、コレステロールの基準を撤廃した。

日本動脈硬化学会は、「食事で体内のコレステロール値は大きく変わらない。食事からコレステロールを多くとれば、体内で作る量を減らすなどの調整するしくみがある」と解説した。

米農務省も、「食事中のコレステロールの摂取と血中コレステロールの、明らかな関連を示すエビデンス(証拠)がない。これまで推奨してきたコレステロール摂取の制限をなくす」と発表した。

そもそもコレステロールは体の細胞を作る必要不可欠な成分である。

「コレステロールは高くてもよい。コレステロールが高いほうが長生きする」という説は20~30年前から医学界の一部では何回も出ている。それがようやく大勢を占めるようになったわけだ。

日本人の総死亡率とコレステロール値との関係をみると、コレステロール値の高いグループは総死亡率が低く、コレステロール値の低いグループのほうが総死亡率が高い。

これまではLDLそのものが動脈硬化を進めるといわれていたが、それもウソだった。

動脈硬化の直接的な原因は、酸化し変性したLDLが、血管内のマクロファージ(大食細胞)に取り込まれて死滅することであり、LDLが高いから酸化LDLがふえるのではなくて、喫煙や糖尿病がLDLを酸化させるということがわかった。

HDLは高いほどいいというのも、必ずしも正しくない。HDL値と総死亡率の関係をみると、男性でいちばん長生きしているのは40~44、ちょっと低めなくらい、女性では高くても低くても有意差はない。

以上、コレステロールの「悪玉」「善玉」説のウソ・ホントを駆け足で辿った。

詳しくは、浜崎智仁監修『コレステロールは高いほうがいい』(マキノ出版刊)を─。


「ふぐは食いたし命は惜しし」の来歴

◎フグ毒の本体はテトロドトキシン


あら何ともなや 昨日は過ぎて 河豚汁(ふくとじる)       松尾芭蕉


河豚汁(ふぐじる)の われ生きている 寝覚(ねざめ)かな   与謝蕪村


河豚汁は、ふぐの肉を実に入れたみそ汁。

江戸時代のふぐ料理はほとんどこれだったという。芭蕉も蕪村も、ふぐ刺し(テッサ)やふぐちり(テッチリ)、ふぐの空揚げの味は知らなかったわけだ。

調理法も限られ、調理の管理もきわめて不十分。

当たると命にかかわるから「鉄砲」と恐れられたご禁制の魚だったが、その美味はよく知られ、広くひそかに食されていた。


「五十にて鰒(ふぐ)の味知る一夜かな」の作者、小林一茶は、50歳になるまではおっかながって口にしなかったようだが、いったんその味を知るや、

「鰒(ふぐ)食はぬ奴には見せな不二の山」と豹変している。


明治の世になっても、命がけの一面は変わらなかったので、

夏目漱石は、「嘘(うそ)」を河豚汁にたとえて、

「その場限りで祟(たた)りがなければこれほど旨(うま)いものはない。しかし、中毒(あたっ)たが最後苦しい血も吐かねばならぬ」といっている。(小説『虞美人草』)


フグの毒は、肝臓と皮の裏の粘膜、そして、卵巣に最も多い。フグでさえやはりメスのほうが毒を余分にもってるわけだ(へへへ...)。


フグ毒の本体は、明治42(1909)年、東京衛生試験所の田原良純博士によって明らかにされた。

フグの学名テトロドンと毒のトキシンをくっつけて、その毒素を「テトロドトキシン」と名づけたのも同博士である。


テトロドトキシンは、無色・無味・無臭、その毒性は青酸カリの200倍とも500倍とも、あるいは850倍ともいわれる、すさまじい猛毒だ。

一種の神経毒で、もし当たると、早くて30分、遅くても5時間で手足がしびれ、口がきけなくなり、最後は息ができなくなって、死ぬ。


「ふぐ(河豚・鰒)は食いたし命は惜しし」

このことわざの意味を、『広辞苑』は、

「おいしい河豚料理は食いたいが、中毒の危険があるので食うことをためらう。転じて、やりたいことがあるのに、危険が伴うので決行をためらう。」と注釈している。


前記のように、別名の「テッポウ(鉄砲)」や「テッサ(鉄砲刺し」「テッチリ(鉄砲ちり鍋)は、当たると命がないという洒落である。

「うまいけどこわい!」、「こわいけど、うまい! 食いたい!」。

この切実なダブルバイント(二重規範)ゆえに、「河豚食う無分別、河豚食わぬ無分別」といわれる。


「あら何ともなや─」の芭蕉の句や、「われ生きている─」の蕪村の句には、

理性は「食うな!」と命じ、心情は「食いてぇよ!」と訴える、アンビヴァレンス(反対感情両立)的苦悩に折り合いをつけて舌つづみを打った一夜が明けて、

「ああ、よかった!」と喜ぶ心があふれているようだ。


「鰒汁(ふぐじる)に又(また)本草(ほんぞう)のはなしかな」という宝井其角の句は、その美味を賞味しながらも、つい解毒法の話になってしまう情景を詠んだものだろう。

「本草」とはいうまでもなく薬物学のこと。


残念ながらテトロドトキシンの解毒剤はいまだにできてない。

だいぶ以前に東大農学部のグループが、テトロドトキシンの抗体を開発したと聞いたことがあるが、あれはどうなったのだろう。

いま、ネットで検索してみたが、まだ実用化はされてないようだ。


いまも年間20~30件のフグ中毒が発生し、死者も出ている。

もっとも、そのほとんどは素人料理か無免許の料理人の手によるもので、プロ(ふぐ調理師)が調理したものなら心配無用。

なお、フグの皮に多いコラーゲンには、血中コレステロールを下げる作用があるというが、フグ料理屋の勘定書はしばしば血圧を上昇させる。


「ふぐは食いたし、財布は軽し」「カネもないのにふぐ食う無分別」である。


受験生の夜食


深夜の勉強には夜食がほしい。

夜食の基本は、満腹感よりも満足感。

胃の働きは夜間、ことに睡眠中は不活発になる。

胃の中にいつまでも食物が滞留していたのでは、胃はろくに休めない。

夜食は、胃に負担がかからないこと、肥満を招かないことをベースに、胃袋を満たすのではなく、気持ちを満たすことを考えて選ぶべきというのが、管理栄養士のアドバイスだ。

ポイントは、温かくて、消化吸収がよくて、なるべく多種類の具の入った一品を、腹七分目にとること。

お勧めは温かい飲み物、汁物。

量は少なめでも栄養のバランスを考え、脂肪は少なく、糖質、たんぱく質、野菜をうまく組み合わせる。

うどん半玉の卵入り煮込みうどんなどグー。

にぎり飯には具だくさんのみそ汁を─。

カップめんなどインスタント食品には卵1個落とすか、焼き豚やカマボコを加えるか、チーズを一緒に食べる。

気分転換に自分でつくるのもよいが、包丁で指を切ったり、なべを火にかけっぱなしにしないよう気をつけよう。


柿と酒のやや複雑な関係


師走12月、忘年会の月は、肝臓受難の月である。

「悪酔い・二日酔いを防ぐ上手な酒の飲み方」といった記事が散見される月でもある。

そんな記事にはもしかしたら、

「酒を飲む前に柿やミカンなど果物を食べておけば悪酔いしない」などと書いてあるかもしれない。

この助言、酒にある程度以上強い人に対してならホントだが、酒に弱い人に対してはウソになる。

まずいことに、そういう助言を忠実に実行しがちなのは、弱い人のほうだから、余計なことをしたばっかりに余計ひどい目に遭うことになりかねない。

「酔い覚ましには柿を食えばよい」とは、昔から言われていて、これはホントのことだ。

柿がいいのならミカンやリンゴだっていいのではないか、と思う人もあるだろう。

それもまあけっこうである。

柿やミカンやリンゴなどの果物が酔い覚ましに効いたり、悪酔いを防いだりするのは、それらに多く含まれている果糖にアルコールを分解する酵素の活性を強める働きがあり、タンニン(柿にはとくに多い)やビタミンCにはアセトアルデヒドを分解する酵素の活性を強める働きがあるからだ。

アセトアルデヒドというのは、アルコールが分解されてできる毒性の強い物質である。


体内に入った酒(アルコール)は、肝臓でまずADH(アルコール脱水素酵素)やMEOS(ミクロゾーム酸化系)という酵素によって分解されてアセトアルデヒドになる。

次に、ALDH(アルデヒド脱水素酵素)という酵素の働きで、アセトアルデヒドが無害の酢酸に変わる。

そして最後に、酢酸が炭酸ガスと水に分解されて、体から出ていき、アルコールの旅は終わる。

こう見てくると、アルコールの代謝がスムーズにいくかどうか―言い換えると、悪酔いや二日酔いをするか、しないか―は、一群の酵素の働きにかかっていることが、わかる。

一つずつ順番に見ると―、

ADHはだれもがだいたい同じように持っている。

MEOSは、ADHの補助的な働きをするのだが、アルコールを飲むことで肝臓のなかで増加し、活性が強くなる。

酒飲みのキャリアが重なるのにつれて酒に強くなる一つの理由は、この酵素が増加するからだろう。

そして三つ目のALDH。これがアルコール代謝の最も重要なカギをにぎっている酵素だ。

というのは、ALDHがその代謝を受け持つアセトアルデヒドこそ、悪酔い・二日酔いの元凶だからだ。

ALDHには1型(ALDH1)と2型(ALDH2)という二つのタイプがある。

ALDH1は、だいぶ飲んで血液中のアセトアルデヒドが高濃度になったとき、ようやく働き始める後発型の酵素である。

ALDH2は、飲み始めの低濃度のときからよく働き、アセトアルデヒドを次から次へ酢酸に分解する。

酒に強い人は、ALDHの1型も2型も両方持っている。

酒に弱い人は、1型しか持っていない。

飲み始めから働く2型がないから、酒をちょっと飲んだだけでもアセトアルデヒドがたまってしまい、顔が赤くなり、胸がドキドキしたりする。

日本人など黄色人種の半数は、ALDHの2型が遺伝的に欠損している。

つまり酒に弱い体質に生まれついている。

酒を飲むと顔が真っ赤になる症状をオリエンタル・フラッシュと呼ぶのは、そういうわけである。

―というところで柿(果物)の話に戻る。

酒を飲む前や飲んでいるときに果物を食べると、そのなかの果糖がADHの活性を強くし、アルコールを分解する働きが促進され、アセトアルデヒドがそれだけ早くできる。

ところが、そのアセトアルデヒドを次々に処理していくALDHの2型がないと、アセトアルデヒドはどんどんふえていく。

果物を食べたために悪酔いの度合いがさらにひどくなる。

実際、ALDH2の欠損者では、酒を飲む前に果糖を摂取したときと、そうでないときとでは、アセトアルデヒドの血中濃度の上昇速度が明らかに異なることが実験的に確かめられている。

だから酒に弱い人が果物を食べるのなら、酒を飲んだあと(アルコールがすっかりアセトアルデヒドに分解されたころ)だと、タンニンやビタミンCのALDHの活性を高める作用が期待できる。

酒の前の果物は人によってはNG、酒のあとの果物はだれでもグー。そういうわけです。


柿が赤くなると医者は青くなる

柿が赤くなると医者は青くなる

このことわざの意味を、鈴木・広田編『故事ことわざ辞典』は、「晩秋は健康な季節で病人が少ないこと」としているが、それだけでは説明不足だと思う。

秋の収穫期の最中には、多少、体のぐあいがわるくても医者に行くどころではないという生活背景とか、カキの栄養価への称揚も含まれているのではないか。

同類のことわざに、「柚(ゆ)が色付くと医者が青くなる」「蜜柑(みかん)が赤くなれば医者は青くなる」「秋刀魚(さんま)が出ると按摩(あんま)が引っ込む」などがある。

カキもユズもミカンも栄養面の特徴はよく似ていて、ビタミンAとC、そしてカリウムが多い。

ビタミンAは、眼、呼吸器、皮膚、髪などの健康を保つうえで欠かせない。

ビタミンCは、皮膚や歯ぐきの出血を治し、風邪などの感染症を防ぎ、きれいな肌をつくる。発がん物質ニトロソアミンの生成を抑える。

カリウムは、血圧を下げる。体の老廃物を排出する。

サンマで特記しなければならないのは、多価不飽和脂肪酸のEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)の含有量が豊富なことだ。

EPAは、血管の中で血液が固まる血栓症を防ぎ、心血管系疾患(心筋梗塞、脳梗塞)のリスクをへらす。

DHAは、脳の記憶学習中枢の構成物質で、知能向上、精神障害の緩和などのメリットが確かめられている。

DHAを与えたネズミの学習能力が向上した実験などにもとづき、「魚を食べると頭がよくなる」といわれる。

ま、医者やマッサージ師の出番がなくなるかどうかはともかく、カキ、ミカン、ユズ、サンマ、それぞれいずれもスグレモノ食品であることは間違いない。

ところで、江戸中期の俳人、横井也有が「健康十訓」と称してこんなことをいっている。

①少肉多菜。②少塩多酢。③少糖多果。④少食多齟(そ=噛む)。⑤少衣多浴。⑥少車多歩。⑦少煩多眠。⑧少忿(ふん=怒る)多笑。⑨少言多行。⑩少欲多施。

いちいち、ごもっとも。ビタミンやミネラル、EPAだのDHAだのは知らなくても、現代栄養学、生理学、精神医学その他にちゃんと通じている。見事というほかない。

ただ一つ、注文をつけておくと、多果(果物を多く食べる)が過ぎると、果糖の過剰摂取になる。

果物の過食が原因のNASH(非アルコール性脂肪肝)が少なくないと、専門医が注意している。

実りの秋。食卓が豊かになる。

柿ばかりか、牡蠣(かき)も一段とうまさを増す。

食欲の秋にうかれていると、糖尿病やメタボ傾向の人は、検査データに青くなる。

現代人のことわざとしては、

「柿が赤くなると患者が青くなる」としたほうがよいようだ。


菜食vs肉食、長命はどちら?

◎肉、食べるな!?

元気に長生きするのにいちばんだいじなことは? と聞かれたら、正しい食生活です。だれでもそう答えるだろう。

そこで古来さまざまな食事法が説かれてきた。

なかで、最もえんえんと信奉されてきた一つが「菜食長命」説で、これを裏返すと「肉食短命」になるので、しばしば両者の激突がみられた。

最近も、『長生きしたけりゃ肉は食べるな』と唱導する本と、『肉を食べる人は長生きする』と推奨する本が、ほとんど同時に出版されて話題になった。

「肉食べるな」の若杉友子さんは、桜沢如一氏などが提唱した「マクロビオティック(東洋の陰陽説による長寿法)」の流れを汲む食養生の指導者。

「日本人に肉は合わない」と断言している。

農耕民族の日本人は穀物菜食をしてきたため腸が長く、肉のカスが腸内に長く残り、腐敗し、さまざまな毒素が発生、血液が汚され、細胞のガン化を招いてしまう、と。


◎肉、食べろ!

「肉、食べろ」の柴田博さんは、東京都老人総合研究所副所長、桜美林大学大学院老年学教授を経て、現在は日本応用老年学会理事長。

「肉こそ長寿の秘訣」と強調する。

年をとっても体は新陳代謝をするので、体内では合成できない必須アミノ酸を多く含む動物性たんぱく質が欠かせない。

年をとればたんぱく質の合成能力そのものも落ちるので、肉をきちんと食べる必要がある。

「80代でなお元気盛んな人は、70代のときよりも1週間に肉を食べる回数が、むしろ多くなっています」と。

肉大好き人間としてはつい肉食派の肩を持ちたくなる。

えこ贔屓のついでに、もう少し引用する。

東京都老人総合研究所は、東京都小金井市などで、多くの老人たちを十数年間、追跡調査した。

それによると、ある種の信念によって、あるいは医師の指示によって、肉や魚をほとんどまったく食べないような食生活をしていた人たちが、最も早く亡くなったり、あるいは体力が弱って働けなくなったりしている。

肉も魚もよく食べる、牛乳もよく飲む―という人たちが、いちばん元気で長生きしているという。


◎明治の食事内容

昔の田舎のじいさん、ばあさんは、たいてい腰が曲がっていた。顔はしわだらけだった。

だがいまはめったにそんな人は見かけない。いまの日本人は寿命が延びただけではなく、若々しい。

これは労働形態が変わり、昔のように腰をかがめて長時間の農作業をするといったことがなくなったからでもあるだろう。

しかし、最大の原因は食生活が豊かになり、栄養がよくなったからだ。

明治以来、日本人の食事は、1日約2000㌔㌍というエネルギー摂取量は(戦中戦後の食糧難時代を除いて)それほど変わってない。

変わったのはそのエネルギー構成の内容だ。

明治の末期、日本人は1日平均で動物性たんぱく質を3グラム(12㌔㌍)、脂肪を13グラム(117㌔㌍)しかとってなかった。両方合わせて129㌔㌍、総エネルギー摂取量の1割にも達しない。

あとの大半のエネルギーは、大豆などの植物性たんぱく質がいくらかあったにせよ、米、麦、イモ類などの炭水化物(でんぷんや糖質)で補っていたわけだ。


◎長命と若さの最大原因

現在の日本人の動物性たんぱく質の摂取量は一日約45グラム(明治時代の15倍)、脂肪は58グラム(同4・5倍)。

早くいえば肉や魚を15倍多く食べるようになった。これが長命と若さの最大原因だ。

体格がよくなり、寿命が延び、腰が曲がらず、しわくちゃにもならなくなった。

東京都健康長寿医療センター長の井藤英喜先生も、こう話している。

「たんぱく質のとり過ぎはよくないとされていますが、高齢者へのたんぱく質制限は、長寿には結びつかないことがわかってきました。高齢者では、筋肉の減少が大きな問題になります。たんぱく質は筋肉減少の防止に大いに役立ちますから、十分に摂取することが大切です」

元気で若々しくありたいと思うのなら、肉も、魚も、卵も、そしてもちろん野菜も、バランスよく食べるべきだ。

ただし、脂肪のとりすぎは動脈硬化のもと。それだけはよくよく注意が必要だ。


焼け焦げの発がん性

がん恐怖の非科学性

友人にいわゆるキャンサー・フォビア(がん恐怖症)みたいな男がいて、焼き鳥、焼き肉、焼き魚などはいっさい口にしない。

動物性たんぱく質に多く含まれるトリプトファン(必須アミノ酸の一種)が焼けると、発がん物質に変わるから─というのだ。

目玉焼きの焦げた部分も絶対、食べない。

パンの耳もむしり取って自分は食わないのだが、近所の小公園に集まるハトに投げ与えている。

ハトはがんになってもいいと思っているのか?

ま、なにを食おうが食うまいが、他人に強制さえしなければ、当人の勝手である。

しかし、それを一般論にされては困る。

焼け焦げを食べても、がんにはならないことがわかっているからだ。

こう言うと、国立がんセンターの「がんを防ぐための12ヶ条」には「焦げた部分はさける」とあるではないか─と反問する人がいるかもしれない。

あなたも古いのです。

2011年発表の「がんを防ぐための新12か条」ではその条項は削除されています。

肉や魚にたくさん含まれているアミノ酸が焼けると、細胞の遺伝子に突然変異を起こす物質(変異原性物質)ができる。

なかでもトリプトファンからできる2種類の物質〈トリプP1、トリプP2〉は、特に強い変異原性=発がん性をもつことが動物実験によって確かめられた。

そのため肉や魚の焼け焦げを食べるとがんになる─ということになった。

だが、その発がん実験は、合成された純粋なトリプP1やP2を、マウスに大量に与えて行ったものである。

実際の肉や魚の焼け焦げのなかに含まれるトリプP1やP2は、1㌘当たり1ナノ㌘というきわめて微量なものでしかない。(1ナノ㌘は10億分の1㌘)。

もし実験で与えたトリプP1やP2と同じ量を、本物の焼け焦げの状態で食べさせるとしたら、体重30㌘のマウスが、真っ黒焦げに焼いたイワシを毎日70㌔㌘、1年以上も食べ続けなければならない計算になるそうだ。

仮にマウスと人間の、発がん物質に対する感受性が同質のものだとして、これを人間に当てはめてみると、体重60㌔の人が毎日140㌧もの真っ黒に焼いたイワシを食べ続けることになる。

つまり、現実の問題として重要なのは、発がん性があるかないかではなく、どれだけの量あるか─なのである。

物質の性質をみることを定性分析、量をみることを定量分析というが、定性分析だけにこだわると、人は往々にして科学的迷信のとりこになる。

焼け焦げ恐怖はその最たる一つといえるだろう。

むろんパンの焼け焦げも問題外だ。

それはあのハトたちのためにもよろこばしいことである。


「食い合わせ」考

「同食」の禁忌少なし

 食い合わせ─というものがある。

 ウナギに梅干し、スイカに天ぷら、タニシにそば......などというあれだ。

 むかし(昭和10年代)、いなかの家の台所の壁に食い合わせの絵が貼ってあった。

 雑誌『家の光』の付録か、富山の薬屋さんの景品だったか。

 タブロイド判ほどの紙にいくつもの食品の組み合わせが原色で描いてあった。

 一々は憶えていないが、いま記したもののほか、カニと氷水、サバとカボチャ、肉とホウレン草......といったふうだったはずだ。

 この食い合わせの原典は、たぶん貝原益軒の『養生訓』だろう。

 同書を開いてみると、

「同食(くいあわせ)の禁忌多し、その要(おも)なるをここに記す。

 猪肉(ぶたにく)に、生薑(しょうが)、蕎麦(そば)、胡荽(こすい=コエンドロの漢名)、炊豆(いりまめ)、梅、牛肉、鹿肉、鼈(すっぽん)、鶴、鶉(うずら)をいむ」とはじまり、

「南瓜(ぼうふり)を、魚鱠(なます)に合せ食すべからず」まで、100を超える食い合わせが挙げてある。(『養生訓』巻第四)。

 もしもそれがホントなら、うっかり食うことも飲むこともできない。

 なにしろ「酒後に茶を飲むべからず、腎をやぶる」というのだから─。

 無茶苦茶とはこのことだろう。

 栄養学の大家、川島四郎先生は、食い合わせの真偽を確かめるため、一つ一つ試食された。

「全部、大丈夫でしたよ」と笑っておっしゃった。

 では「食い合わせ」などないのか。

 あながちそうともいえない。

『養生訓』が挙げた食品には、牛肉、鹿肉など肉類、魚鱠、魚の鮓(すし)、生菜、冷水...その他、いたみやすく、食あたりしやすいものが多い。

 また、ちょっと想像してみても、ウナギのかば焼きと梅干しとか、天ぷらとスイカなんて、とても一緒に食う気がしない。

 味の調和がとれないと、心理的に不快感を覚え、腹の調子がおかしくなることだってあるのではないか。

 この点について、『養生訓』に、

「食物の気味、わが心にかなわざる物は、養いとならず。かへって害となる」とあるのは正解だと思う。

 益軒という人は、徹底した少食主義で、肉でも、魚でも、飯でも、野菜でも、「多食すべからず」の一点張りである。

 食べ物ばかりか、酒も「少しのみ、少し酔へるは、酒の禍なく」と説いている。

 ごもっともだけど、ちっとも盛り上がらない酒を飲んだ人のようだ。

 もっとも、考えてみると(考えるまでもなく)、なにがいけないといって、暴飲暴食ほど体を害するものはない。

 その意味では、この二つこそ「食い合わせ」の最たるもの─であるだろう。



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