暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

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高齢者の病気

認知症の疫学

 認知症急増、305万人!

 65歳以上の1割!

 厚生労働省が2010年の要介護認定のデータをもとに推計した結果だ。(2012年8月24日発表)

 2025年には470万人、高齢者全体の12.8%にのぼる見通しだという。

 世界の認知症患者は、現在3560万人。

 世界人口70億人の約0.5%。200人に1人の割合だ。

 これが毎年770万人ずつふえつづけて、30年に6570万人、50年には1億1540万人に達する見通し。

 2012年4月11日、世界保健機関(WHO)は、認知症に関する初の報告書で、そんな予測を発表した。

 国連の人口推計に当てはめると、2050年の人類は、100人に1人以上が認知症患者という時代を迎える。

 それどころか、

「ある試算によれば、生涯のうちに2人に1人は認知症をわずらう」とさえ指摘されている。

 認知症では、知的障害、精神障害、身体障害の三つが併存する。

 これに対応していくには、医者:患者という「点」での治療関係ではなく、かかりつけ医:専門医、医師:介護関係者、専門医:専門医など多くの専門職の役割分担や連携による「線」、あるいはそれ以上の「面」の関係を構築し、患者とその家族を支えていくことが求められる。

 これは従来の、感染症、生活習慣病、がんなどとは異なる「防疫体制」を、社会が構築する作業になる。

 認知症の治療では、単に薬を処方するだけではなく、人と人との関係性がこわれるのを防ぐ姿勢や、偏見に陥らない支援が欠かせない。

 認知症という病気は、「目に見えない」病気である。

 目に見えない、この病気への偏見をなくしていくには、この病気の特性を多くの人がよく知ることによって、「見える」ようにすることが大切である。

 武知一・京都大学医学部講師(老年内科診療科長)は、先ごろ開かれたプレスセミナーでそう話した。


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男の更年期障害

 男にも更年期があり、更年期障害がある。

 だいぶ前からそう言われていて、よく知られていると思われていたが、そうではないことが、先ごろ行われたインターネット調査でわかった。

 城西クリニック(東京都新宿区。小林一広院長)が実施した、1都3県在住の50~69歳の男性、女性それぞれ200人対象の「加齢と更年期に関する意識調査」によれば、男性更年期の認知度(具体的な症状も知っている)は、わずか13.5%だった。

 男性更年期障害は、加齢による男性ホルモン(テストステロン)の低下によって起こってくる精神、身体、性機能の症状で、LOH症候群と呼ばれる。

 LOHは、英語のLate Onset Hypogonadismの略で、加齢による性腺機能低下という意味。

 集中力、意欲の低下、疲労、認知機能の衰え、動脈硬化、体脂肪の増加、筋力低下と骨粗鬆症、排尿障害と男性機能の低下......と、心と体のいろいろな面で問題が起こってくる。

 一種の病気、最もありふれた男性の病気といえるが、人によっては無症状、無自覚のことも多い。

 症状が現れるのは、60代の19%、70代で28%、80代では49%。

 日本の患者数は600万人と推定されている。

 ちなみに、ED(勃起不全)の男性はおよそ1000万人。

 壮年はED、老年はLOH。男はつらいよ。

「LOH症候群が続いていると、単に男性の勢いが弱くなるだけではなく、高血圧、糖尿病、がん、心臓病、うつ病などの罹患率や死亡率が高くなるという精密な疫学調査が、世界でも一流の内科、精神科、泌尿器などの専門誌で報告されています」

 と、堀江重郎・帝京大学医学部教授。

 なぜ、そんなことが起こるのか?

 テストステロンが減ると、体内で不必要な物質を分解したり、必要な物質を合成したりする代謝の働きが低下する。

 早くいえば、食物から得た栄養素をエネルギーに変えて利用する働きが落ちる。

 すると使われない栄養素がたまり、内臓の周りに脂肪がつくメタボリック(代謝)症候群が始まる。

 メタボの原因は生活習慣とされるが、別段、生活習慣には問題はなくても、メタボになる人も多い。

 それにはホルモンの低下が絡んでいるわけだ。

 どないしたらよかんべ?

 減ったテストステロンを補充する「男性ホルモン補充療法」を受けると、よい。

 LOH症候群の症状を持つ40歳以上の男性で、血液中のテストステロンが低下している場合、医療保険が適用される。

 だか、現在、治療率はおそらく1%未満。

 城西クリニックの調査でも、「ホルモン補充療法」を「知っている」人は4.7%。「実際に試した」人は0人だった。

 詳しい検査をしてもどこといって悪いところはないのだが、全然元気がない、体がかったるくて、ヤル気が起こらず、食欲がない......というようだったら、近くの病院の泌尿器科を受診されたし。

「メンズヘルス外来」だったら、どんピシャリだ。

 ホルモン補充療法、じつによく効く。

 筋力がすっかり衰えて車イスを使っていて「老衰」とされていた人が、元気に歩けるようになったというようなケースは普通にあるそうだ。


長生きの証拠


 トシをとると、だれでも体のあちこちが痛くなる。

 首の骨が変形して、首筋の痛み、だるさ、肩こりなどが起こってくるのは変形性頚椎(けいつい)症。

 それが第一段階で、さらに変形が進むと、神経根や脊髄が圧迫されて、指先がしびれたり、腕が重だるかったり、腕が激しく痛んだりする。

 割合短期間のうちに症状が消える人が多いが、なかには症状がいつまでも消えないばかりか、手の甲の筋肉がやせてくることがある。

 注意したいのはこのケース。

 放っておくと症状がさらに悪化する恐れがある。

 手遅れにならないうちに整形外科を受診し、牽引療法と、首輪で固定する装具治療などを続けると、多くの場合、手術しないですむようだ。

 脳にいく血管が圧迫されると、めまいやフラフラ感が起こることもある。

 これも装具治療を続けるとたいていよくなるという。

 症状が出てきたからといって、いちいちビクビクせず、これは人間の老化現象で長生きしている証拠だとおおらかに受け止めよう。

 そのうえで適切な治療を──と、専門医は助言している。



肺炎は怖い!(2)

 

高齢者の肺炎

 肺炎の症状は、熱が出る。ときには高熱が出て寒けが起こる。

 せきやたんが出る。胸が痛い。

 風邪と似ているところもあるが、胸が痛いという点が違う。

 だから熱が高くて、胸が痛いと、医師は肺炎を疑う。

 ところが、高齢者の肺炎では、そうした症状がなかなか出ない。

 なにかとてもだるいという体の倦怠(けんたい)感と、食欲がないというだけの症状で肺炎だった例が30%ぐらいある。

 そのため発見が遅れて、治療が後手になるのが、高齢者の肺炎を重くする理由の一つになっている。

 高齢者の肺炎の症状が出にくいのは、体の反応が弱いからだ。

 年をとると特に痛みの感覚が鈍くなる。

 肺炎だけではない。

 高齢者の心筋梗塞は痛みがないか、ごく弱いことが少なくない。無痛性心筋梗塞という。

 高齢者の肺炎は、高熱も出ない。

 せいぜい37度台の微熱のような熱が出る程度だ。

 要するに体の反応が鈍いので発病がはっきりしない。

 しかし、それは病気の進行がゆっくりだということではなくて、病気自体は進行している。

 お年寄りがぐったりしているようなときは、ぜひ早めにお医者さんへ──  
 

肺炎球菌

 高齢者がインフルエンザにかかると、肺炎を併発しやすい。

 それにはインフルエンザウイルス自体が肺に広がるウイルス性肺炎と、肺炎球菌などインフルエンザウイルスとは無関係の細菌が肺に広がる細菌性肺炎がある。

 後者のほうがずっと多い。

 インフルエンザ肺炎の合併細菌を調べたデータを見ると、断トツに多いのが肺炎球菌で53%を占める。

「インフルエンザが猛威をふるって、肺炎を併発して亡くなる人が激増するとき、その大半は肺炎球菌肺炎だといっていいでしょう」と、金沢実・埼玉医大呼吸器内科教授は話した。

 肺炎球菌は、健康な人でも40~60%は鼻やのどなどにもっていて、通常は無害だが、免疫力が弱くなると、口の中の細菌が肺に入って肺炎や気管支炎、中耳炎などを引き起こす。

 だから肺炎を防ぐには、風邪をひかないこと、夜寝ている間に口の中の細菌が肺に入らないようにすること、この二つが肝心だ。

 健康な人が起きているときは、喉頭から5センチ下のほうには、ほとんど菌がいないが、眠っている間は、起きているときとは呼吸のしかたが変わるので、気道に陰圧(内部の圧力が外部より低い状態)が生じ、口の中の菌が気管にふっと吸い込まれてしまう。

 それを防ぐには、寝る前に歯をみがきうがいをし、口の中を無菌状態にするのが第一のポイントだ。

 顔をあおむけて喉の奥まで洗ううがいを3回やれば口の中も、喉頭もほとんどきれいになる。

 

未知のウイルス

 一昨年大騒ぎになった新型インフルエンザが、通常の季節性インフルエンザと大きく異なるのは、ウイルス性肺炎が高齢者や妊婦などのハイリスク層だけでなく、基礎疾患のない人にも発症している点だ。

「これからは先入観を持たず、ウイルス性肺炎の合併も常に念頭において、インフルエンザの治療を行う必要があるでしょう」

 ──と、金澤實・埼玉医大教授(呼吸器内科)は注意を促している。

 一方、高齢者には新型インフルの感染者が少ないといわれた。

 それはスペイン風邪など20世紀前半に流行したウイルスの構造と同じだったからで、1918年以前に生まれた90歳以上の人は、抗体を持っていることがわかった。

 これを裏返すと高齢者でも90歳以下の人は安心できない。

 インフルウイルスは「新型」である限り人間にとって「未知のウイルス」なのだ。

肺炎は怖い!(1)

 

肺と肺炎

 インフルエンザや風邪で最も怖いのは肺炎を併発することだ。

 インフルエンザによる死亡例の90%以上は肺炎死だ。

 特に気をつけなければいけないのは、高齢者と幼児。

 肺炎になっても自覚症状が乏しく、あっという間に重症になる。

 熱が高くならない、セキやタンもあまり出ない、呼吸が苦しいとも訴えないが、顔だけ赤い。

 ぐったりしてしまう。食べない─といった例が多く、いきなり意識障害が起こることもあるという。

 そうなる前に早く気づいて受診しよう。

「肺炎は老人に安らかな死をもたらす最後の友だ」と言ったのは、近代内科学の父、ウイリアム・オスラーだ。

 ま、いずれはそれを望むとしても、なるべくならずーっと先延ばしにしたいものだ。

 肺の最も大切な役目は、空気の中の酸素を血液中に取り入れ、血液中の炭酸ガスを吐き出すことだが、吸い込む空気の中には病原菌がいっぱい混じっている。

 そこへもってきて肺には、全身から心臓に戻った、汚れた(栄養豊富な)血液が、そのまま入ってくる。

 病原菌の繁殖にはもってこいの環境だ。

 繁殖し始めた病原菌を追い出そうと、白血球など体の防衛軍が集まってきて、戦争(炎症)が起こるのが、肺炎だ。

 エックス線写真にはそこは真っ白に映る。

 が、ごく初期の肺炎はエックス線にはまだ影が出ない。

 聴診器のほうがよくわかると、練達の内科医は言う。

「慣れた医者は、聴診器で肺の中の小さな特異な雑音をキャッチし、素早く病変を見つけます」

 

隠れ1位

 抗生物質ができて、肺炎で亡くなる人はずいぶん減った。

 それでも肺炎は、がん、心臓病、脳卒中に次ぐ日本人の死因4位であり、高齢者の場合、病理解剖で死亡の直接の原因を調べると、肺炎が最も多い。

 例えば脳卒中で倒れて入院治療中に亡くなったが、実は肺炎を併発し、そのために死亡したといった例がとても多く、高齢者の死因の隠れ1位といわれる。

 肺炎は依然、きわめて危険な病気なのだ。

 肺炎を防ぐには、どうしたらいいか。

 まず第一に風邪をひかないこと。

 常識的なことだが、なるべく人ごみに出ないようにする。

 外出のさいは寒くない服装をし、マスクをする。

 帰宅したらうがいをし、手を洗う。

 栄養のバランスのいい食事をして、睡眠を十分とる。

 もし風邪をひいても全身の状態がよければ、普通の風邪ですんで肺炎にはならない。

 なぜか?

 肺炎のような感染症は、ホスト・パラサイト・リレーションズ(宿主─寄生体関係)といって、病人の体そのもの(宿主)と、それに寄生する病原体との力関係で、重くもなるし、軽くもなるからだ。

 高齢者の肺炎の死亡率が高いのは、寄生体(ウイルスや細菌=パラサイト)の側に問題があるのではなく、その人の体(宿主=ホスト)のほうの要因による。

 肺炎を乗り切った人と、死亡した人を調べた臨床報告「老年者の肺炎100例」を見ると、亡くなった人たちには、

 1 脱水症状のある人

 2 腎臓や肝臓の機能が低下した人

 3 意識障害(意識がもうろうとなる)が出た人がとても多い。

 だから肺炎だけを治療の目標にするのではなく、全身状態をよくしなければ肺炎は治らない。

 肺炎を防ぎ・治すためには、要するに老化現象が進まないように日ごろから規則正しい活動的な生活をすること─と、老年学の大家は話した。

 普段から健康に気を配って体調を整えておくことが大切だ。

 もう一つ、肺の健康のために大切なことは深呼吸だ。

 普通の呼吸では、肺が完全にはふくらまない。深呼吸で肺を十分ふくらませると気管がリラックスし、肺がまんべんなく活動する。

 朝晩、日中、思いつくたびに深呼吸をしよう。

 ある呼吸器内科の専門医は、

「おやつ代わりに深呼吸を─」と話した。

冬の血圧

「年末以来、血圧が高く、頭痛に悩まされています。

 これまでは上が100前後で、"低い"といわれていたのだけど(10月の人間ドックでは107―68)、

 今は朝が150―90、昼で140―80ぐらいです。

 血圧ってこんなに急に上がるものですか?

 また、人間ドックの頚部の超音波検査で、頚動脈内プラークが認められ、要精密検査とのことで来週受診の予定です」

 身内の者(67歳男性)からのEメール賀状の一部だが、それへの返信をここに流用させてもらいます。

「血圧は、冬になれば誰でも20や30は上がる(寒冷刺激で血管が収縮するため)、

 1日のうちでも『日内変動』といって、やはりそれくらいは上下する。

 朝は高く、昼から夕方は低く、歩いた後や入浴後も下がる。

 150─90は、やや高いが、冬の朝の血圧としてはまず心配無用だと思う。

 頭痛は、通常、高血圧とはほとんど関係ないはずだ。

 どんな頭痛なのか、もう少し詳しく教えてくれ。

 頚動脈内プラークは、年をとれば、みな多少は見られるものだが、近年、脳梗塞との関係が指摘されるようになり、要注意とされている。

 程度によっては、頚動脈ステント留置術などの治療を受けたほうがよいかもしれないな。

 きちんと診てもらってくれよ。

 とにかく、からだ、だいじに、だいじにな。たのむよ。

 注・プラークとは、コレステロールなどの脂質をどっさり含むアテローム(粥腫=じゅくしゅ=おかゆのようなどろどろした固まり)が、血管の壁に入り込んだもの。

 プラークを覆う被膜が薄くて破れやすい状態を「不安定プラーク」といい、冠動脈のそれが破裂すると、そこにたちまち血栓ができ、心筋梗塞が起こる。

 破裂しにくい「安定プラーク」が冠動脈にできて狭くなり、血液が流れにくくなる病気が、一般的な安定狭心症である。


風邪小百科(1)

 インフルエンザ

 風邪のウイルスは細かく分類すれば200種類以上もある。

 インフルエンザウイルスもその中の一つだが、厚生労働省は毎冬、「インフルエンザは風邪ではない」とキャンペーンしている。

 風邪とインフルエンザ、どう違うのか。

 風邪の熱は37度ぐらいで、症状も軽い。

 インフルエンザはいきなり38度以上の熱が出て、のどの痛みやせき、頭痛、倦怠感、筋肉痛など激しい全身症状が出る。

 感染力も強い。

 高齢者は肺炎や気管支炎を併発しやすく、「生命の最後のともしびを消す病気」といわれる。

 乳幼児も気管支炎などになりやすく、死亡例は少ないが、ときに脳炎・脳症につながることがある。

「熱があってボーッとした感じ」は、注意信号だ。

 最善の予防策はワクチン。

 接種は12月半ばまでが原則だが、1月に入ってからでも効果は期待できるという。

 感染しても抗ウイルス薬(タミフル、リレンザ)がある。

 一時大騒ぎになったタミフル服用による異常行動は否定されたが、インフルエンザの子は一人にしない注意が必要だ。


 文明風邪

「子どもは風の子」というが「風邪の子」でもある。

 学齢前の幼児が年4、5回風邪をひくのはごく普通だが、このごろは10回以上もひく子がふえているそうだ。

 症状に特徴があり、寝入りばなや明け方など、決まった時間に激しくせいたり、鼻水、くしゃみが出るが、それ以外の時間はけろっとしている。

 熱は出ないことが多い。

 これは明らかにウイルスによる風邪とは違う。

 呼吸器系の自律神経失調症――いわば「文明風邪」だと、小児科医の久徳重盛先生は話した。

 こんなとき、普通の風邪だと思って、風呂にも入れず、厚着させて家に閉じ込めておくと、症状はいっそう悪くなる。

 本物のぜんそくになりかねないし、親が神経質だと、診療所が休みの土曜、日曜に決まって熱を出すという心因性発熱症になることもあるという。

 子どもが文明風邪にかかったら、これまでの育て方を反省し、生活をたて直せば、たいがい1カ月ぐらいで健康になる。

 原則は子どもが自然にやりたがることは、とくに危険がない限りやらせること。

 しかし、たとえば、厚着から薄着に急激に変えるとやはりよくないので、順を追って...。


 ヘンな風邪

「目と歯が痛くなったのでまず眼科へ行ったら、目はなんともないといわれた。

 歯科に行っても異常なし。

 結局、内科で風邪だということになった」

「わき腹の筋が痛くてたまらない。

 肝臓か膵臓の病気じゃないかと、気をもんだが、風邪だった」

 二人の知人からそんな話を聞いた。

 風邪の症状はじつにさまざまだ。

 嘔吐(おうと)や下痢などの胃腸症状が出ることもあるし、結膜炎による目の充血を起こすこともある。

 のどをやられると歯が痛む(ように錯覚する)こともある。

 呼吸器には、鼻やのどから入ってくる病原体に抵抗する防衛機能が備わっている。

 この抵抗力は過労や睡眠不足などによって低下する。

 疲れたときに人込みに出るのは、風邪にかかりに行くようなものだ。

 過労、寝不足が続いたら不急不要な外出はひかえ、ゆっくり体を休めよう。

 風邪でこわいのは肺炎の併発。

 健康を過信し、たかが風邪と無理をして、肺炎をひき起こし、手遅れになった人もいる。

 風邪のあとはほかの細菌にもおかされやすい。

 すっかり治しきることが大切だ。

 風邪の予防・治療の話は明日─。


パーキンソン病

 永さんの症状

「体調がおかしくなってから1年。

 一時は番組そのものが危なくなりかけた」と、永六輔さんが、毎日新聞のコラム「永六輔とその新世界」に書いたのは、2010年10月だった。

 番組というのは、TBSラジオ系で半世紀以上も続く「永六輔の土曜ワイド」だ。

 永さんといえば、やや甲高い早口のおしゃべりと、頭のてっぺんへ突き抜けるような笑い声の、陽気な話術が売り物だった。

 なのに、

「放送の上では言葉が伝わらないという現実的な病状があった。

 何を言っているのかよくわからないという噂(うわさ)もあって自覚もしていた」という。

 だが、

「やっと病名が決まってパーキンソン病」「かつては難病のひとつに数えられていたが、研究の成果が上がり薬も開発され、病気を押さえ込むことが出来るようになった」

「日常生活そのものがリハビリテーション。

 転倒しない注意と加齢による体調の変化を自分で納得しながら過ごせばいいとのこと、一安心した」と書いている。

「声と言葉が戻ってきましたね」

「昔の笑い声になりましたね」など、番組にもいろいろ反応が寄せられ、

 番組でフリートークした大橋巨泉さん、前田武彦さんからも、

「若い時の舌っ足らずでキンキンした声、けたたましい笑い声に比べれば今の方が落ち着いて好きだな」と言われた──とある。

 パーキンソン病は、加齢とともに進行する神経変性疾患で、厚生労働省指定難病の中で最も患者数の多い一つだ(有病率10万人中約150人。全国の患者数約15万人)。

 大半は高齢になって発症するが、若くして発症する若年性パーキンソン病もある。

 完治できる治療法はまだないが、少しも悲観することはないと、パーキンソン病治療の名医が明言している。

「私が医者になった30数年前には、パーキンソン病は非常に治療しにくい病気でした。

 入院の患者さんを担当すると、先輩から、

『なるべく早く、状態のいいうちに一度、お宅に帰ってもらったほうがいいよ。

 入院が長引くと悪くなるばかりだからね』と言われたものです。

 今はそんなことはありません。

 生命予後がとてもよくなりました。

 私は、パーキンソン病の患者さんが来られると、

『これから30年はおつきあいしましょう』と言います」と、岩田誠・東京女子医大名誉教授。

 パーキンソン病発症年齢のピークは50~60代。

 永六輔さんのような70代半ばの発症も珍しくない。

「昔は、パーキンソン病の患者さんが30年生存されるなんて考えられなかったのですが、

今はそれくらい全く当たり前、パーキンソン病が〈死因〉になることは極めてまれです」

 

 パーキンソン症状

 パーキンソン病は、1817年、ロンドン郊外で診療所を開いていたジェームス・パーキンソンが報告した。

 開業医が見つけた最も有名な病気の一つだ。

 脳の奥底(中脳)には「黒質」と呼ばれる神経細胞の集まりがあるが、そこの細胞が変性・脱落し、レビー小体という異常物質ができて、神経伝達物質のドーパミンが減り、体を動かす運動発現がうまくいかなくなる病気だ。

 症状は──、

 1 運動障害。

 2 自律神経障害。

 3 精神障害に大別される。

 中心となるのは1で、筋強剛(筋肉がこわばる)、振戦(手などが小刻みに震える)、無動(体が動かない。動作がのろくなる)、姿勢保持障害(体が前かがみになり、転びやすい)が4大症候とされる。

 2のために起きる発汗障害、血圧が下がりやすい、便秘などの症状も重要で、特に便秘は、パーキンソン病の全患者が訴える頑固な症状だという。

 岩田誠・東京女子医大名誉教授は、

「若いころ師匠から命じられて、パーキンソン病と便秘について調べたところ、

担当する約80人の患者さんの全例で、運動障害の症状が起こる数年前から高度の便秘が始まっていたことが分かりました。

 パーキンソン病の初発症状は便秘といっていいでしょう」と、プレスセミナーで話した。


 鑑別診断

 パーキンソン病と同じ症状が、別のいろいろな原因で起こるものを「症候性パーキンソニズム」または「パーキンソン症候群」と呼ぶ。

 前かがみにちょこちょこ歩いて、手がしじゅう震えているといった特徴的症状を示す人の9割はパーキンソン病だが、1割はそうではない。

 最も重要なのは薬剤性パーキンソニズムだ。

 抗精神病薬、抗めまい薬、嘔吐(おうと)を抑える制吐剤、胃かいようの予防薬などでパーキンソン病と同じような症状が出る。

「これは絶対に見つけなければいけない。

 薬をやめれば、よくなるからです」と専門医。

 脳の細い血管が何カ所も詰まる多発性脳梗塞の人が、パーキンソン病と間違えられる症状を示すこともある。

 最も難しいのは多系統萎縮症や進行性核上性マヒなどの脳の変性疾患で、脳の侵されている場所が同じだから、初期症状はパーキンソン病ととてもよく似ている。

 しかし、原因が全然違うし、当然、パーキンソン病の治療薬は効きにくい。

 近年、アルツハイマー病に次ぐ「第二の認知症」として注目を集めているレビー小体型認知症でも、パーキンソン病とそっくりの症状がしばしば現れる。

 パーキンソン病では脳幹にだけ出現するレビー小体が、レビー小体型認知症では知能とかかわる大脳皮質にも出現するために、パーキンソン症状を伴う認知症として進行する。

 これをパーキンソン病と間違えて、パーキンソン病と同じ治療をすると、かえって病状が悪化してしまう。

 このことについては、別の日に詳しく取り上げる。

 ──といったようにパーキンソン病は、専門医による鑑別診断(症状が似た別の病気と区別するための精密検査と診断)が重要な病気だ。


 パーキンソン病の薬

 パーキンソン病に最も詳しいのは神経内科医だ。

 神経内科といえば「精神科と同じような診療を行う科」というイメージをもつ人が多いようだが、それは違う。

 神経内科は、脳や脊髄、筋肉などに異常が生じ、体が不自由になる病気を診断・治療する診療科だ。

 だが、そのことについての一般的な認知度は低く、初診時に受診先を間違えて、専門医の診断・治療を受けていない例が多い。

 永六輔さんもパーキンソン病と診断されるまで1年もかかった。

 問題は、そのため適切な初期治療がほどこされず、病気が進行してしまうことだ。

 パーキンソン病の主要な治療薬は、ドーパミンの原材料となるLドーパ製剤や、ドーパミンの働きに似たドーパミン作動薬だ。

 そのほか確かな効果が認められている薬がいくつもあり、病状に合わせて用いられる。

1日1回の服用で24時間安定した効果が持続する薬もある。

 薬を使い続けていくうえでの大切な心得は「自分の判断で服用を中断しないこと」だ。

 薬をやめると動けなくなる。

 が、胃や腸の手術の際は薬をやめなければいけない。

 外科医と神経内科医の連絡が必要だ。


RS風邪

 風邪の季節が始まっている。

 風邪のウイルスでまず頭に浮かぶのは、インフルエンザウイルスだが、毎冬、必ず流行し、乳幼児が最も感染しやすいのがRSウイルスだ。

 RSとは、「呼吸器の合胞体(ウイルス感染の培養細胞が多数集まった状態)」という意味の英語の頭文字。

 1歳の誕生日までに70%の乳児が初感染し、2歳までには100%感染するといわれている。

 永久抗体ができないため、何度でも感染するが、大人や年長の小児はたいてい鼻風邪程度ですむ。

 乳幼児と老人では重症化しやすい。

「RS風邪」の初期症状は、くしゃみ、鼻水、鼻づまり。

 熱が高くなり、せきが出てきたら、早めにかかりつけの先生に診てもらおう。

 呼吸が浅く、早い。

 たんがつまり、ゼーゼー、ヒューヒューが続く。

 急にぐったりする。

 おっぱいがのめない──といった症状が一つでもみられたら、呼吸困難を起こしている恐れがある。

急いで病院へ!


 RS予防

 RSウイルスは、秋から春までかなり長く流行する。

 ピークは12月~1月ごろだ。

 2歳までには100%感染するといわれている。

 入院治療の必要な乳幼児の呼吸器疾患の多くは「RS風邪」なのだが、そのことを知っている親は少ない。

 RSウイルスには飛沫(ひまつ)感染と接触感染の二つの経路がある。

 ありふれた風邪ウイルスで、永久抗体ができないため何度でもかかるが、成人はただの鼻風邪ですむので、乳幼児への配慮が不足しがちだ。

 風邪の季節には、次のような日常的注意が必要だ。

 1 家族の外出の後や調理・食事の前、鼻をかんだ後などはせっけんでよく手を洗う。

 2 乳幼児を人ごみへ連れて行かない。

 3 家庭内で風邪をひいた人がいるときは、乳幼児に近づけない。

  乳幼児の周りのものをアルコール綿などでこまめに消毒する。

 4 風邪をひいている家族は、マスクをかけ、唾液や鼻水が飛び散らないように気をつ ける。

 5 赤ちゃんを、たばこを吸う人に近づけない。

   極力、子どもがたばこの煙を吸わない環境にしよう。


 シナジス

 RSウイルスは、赤ちゃんの風邪の代表選手。

 早産児や、生まれつき呼吸器や心臓に病気を持っている乳児は、とりわけ重症化しやすい。

 RSウイルスは、一度感染しても持続的な免疫ができにくい。

 予防ワクチンも、ウイルスに直接作用する薬もない。

 ほかの風邪と同じように症状を抑える薬による対症療法になる。

 唯一、RSウイルスに対する確かな効果が証明されているのが、重い呼吸器疾患の発症リスクを抑える作用をもつ注射薬(抗RSウイルスヒト化モノクロナール抗体)だ。

 日本で承認されているのは「シナジス」(一般名:パリビズマ)だけで、予防接種による入院率の低下が臨床試験で明らかにされている。

 RSウイルスの流行期(10から3月ごろ)に月1回、太ももに筋肉注射する。

 35週以下の早産児で生後6カ月未満の乳児には保険が適用されるが、決められた医療機関でしか投与できない。

 かかりつけ医に紹介してもらうとよい。

 検索サイト「スモールベイビー」 でも全国のシナジス投与可能施設がわかる。


高齢者の肺炎

 未曾有の大厄災を引きずりながらも季節はうつろい、ひとしお寒さが身にしむ十二月が始まっている。

 冬にはいろいろと難儀が多いが、とりわけ高血圧、心臓病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、ぜんそく、関節リウマチなどをもつ人、高齢者や乳幼児は、よくよく用心の必要な怖い季節だ。

 まず風邪をひかないようにしよう。

 年よりは風邪引き易し引けば死す 草間時彦

 高齢者の風邪が死を招きやすいのは、肺炎に移行しやすいからだ。

 注意しなければいけないのは、高齢者、特に80歳以上の人は、肺炎になっても自覚症状が乏しいことだ。

 熱は高くならない。

 せきやたんもあまり出ない。

 呼吸が苦しいとも言わない。

 それで顔だけ赤い。

 ぐったりしてしまう。

 食べない、といった例が多い。

 いきなり意識障害が起こることもある。

 そうなる前に早く気づいて受診しよう。

 家族が見て、これはすぐ病院に行くべきだというシグナルは、呼吸の変化だ。

 呼吸が浅く、速く、1分間に25回以上にもなる。

 じっとしても脈拍数が非常に多い。

 そのとき、気づかないままだと、あっという間に重症になる。

 特にCOPDや糖尿病、心臓病などの持病、脳卒中の後遺症のある人が風邪をひいて、2、3日前から具合が悪かったけれど、なんだかぐったりしてきた、熱が38度近くある──というような場合は即入院すべきだ。

 お年寄りは体の水分が少ないので、少しの発熱でも脱水を起こしやすい。

 風邪をひいて食事がのどを通らない時も、湯水だけは飲んでください。


 オスラー名言抄

 日本人の三大死因、がん、心臓病、脳卒中の次に多いのが、肺炎で、肺炎で亡くなる人の95%は高齢者だ。

 で、「肺炎は老人の友」といわれる。

 言った人は、近代の最も高名な内科医、ウィリアム・オスラーだ。

 彼は自著『内科学』第1版(19世紀末に刊行)に、「肺炎は老人のエネミー(敵)である」と書いたが、7年後の第2版では、「肺炎は老人に安らかな死をもたらすフレンド(友)である」と改めた。

 そしてオスカー自身、1919年の冬、肺炎で逝った。70歳だった。

 聖路加国際病院の日野原重明先生が、

「私の医師として、教師として生きる道を示してくれた、心の師」と仰ぐオスラーには、動脈硬化についての「人は血管とともに老いる」をはじめ多くの名言がある。

「たいていの人は、剣によるよりも、飲み過ぎ、食い過ぎによって殺される」

「医学は、患者と共に始まり、患者と共にあり、患者と共に終わる」

「人生は習慣である。子供が歩くのも、ピアニストの指が魔法のように動くのも、すべて練習のたまものだ。長期にわたる鍛錬の積み重ねが偉大なものを作る」

「仕事は、若者には希望を、中年には自信を、老いた者には安らぎをもたらす」



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