暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

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救急救命

「ふぐは食いたし命は惜しし」の来歴

◎フグ毒の本体はテトロドトキシン


あら何ともなや 昨日は過ぎて 河豚汁(ふくとじる)       松尾芭蕉


河豚汁(ふぐじる)の われ生きている 寝覚(ねざめ)かな   与謝蕪村


河豚汁は、ふぐの肉を実に入れたみそ汁。

江戸時代のふぐ料理はほとんどこれだったという。芭蕉も蕪村も、ふぐ刺し(テッサ)やふぐちり(テッチリ)、ふぐの空揚げの味は知らなかったわけだ。

調理法も限られ、調理の管理もきわめて不十分。

当たると命にかかわるから「鉄砲」と恐れられたご禁制の魚だったが、その美味はよく知られ、広くひそかに食されていた。


「五十にて鰒(ふぐ)の味知る一夜かな」の作者、小林一茶は、50歳になるまではおっかながって口にしなかったようだが、いったんその味を知るや、

「鰒(ふぐ)食はぬ奴には見せな不二の山」と豹変している。


明治の世になっても、命がけの一面は変わらなかったので、

夏目漱石は、「嘘(うそ)」を河豚汁にたとえて、

「その場限りで祟(たた)りがなければこれほど旨(うま)いものはない。しかし、中毒(あたっ)たが最後苦しい血も吐かねばならぬ」といっている。(小説『虞美人草』)


フグの毒は、肝臓と皮の裏の粘膜、そして、卵巣に最も多い。フグでさえやはりメスのほうが毒を余分にもってるわけだ(へへへ...)。


フグ毒の本体は、明治42(1909)年、東京衛生試験所の田原良純博士によって明らかにされた。

フグの学名テトロドンと毒のトキシンをくっつけて、その毒素を「テトロドトキシン」と名づけたのも同博士である。


テトロドトキシンは、無色・無味・無臭、その毒性は青酸カリの200倍とも500倍とも、あるいは850倍ともいわれる、すさまじい猛毒だ。

一種の神経毒で、もし当たると、早くて30分、遅くても5時間で手足がしびれ、口がきけなくなり、最後は息ができなくなって、死ぬ。


「ふぐ(河豚・鰒)は食いたし命は惜しし」

このことわざの意味を、『広辞苑』は、

「おいしい河豚料理は食いたいが、中毒の危険があるので食うことをためらう。転じて、やりたいことがあるのに、危険が伴うので決行をためらう。」と注釈している。


前記のように、別名の「テッポウ(鉄砲)」や「テッサ(鉄砲刺し」「テッチリ(鉄砲ちり鍋)は、当たると命がないという洒落である。

「うまいけどこわい!」、「こわいけど、うまい! 食いたい!」。

この切実なダブルバイント(二重規範)ゆえに、「河豚食う無分別、河豚食わぬ無分別」といわれる。


「あら何ともなや─」の芭蕉の句や、「われ生きている─」の蕪村の句には、

理性は「食うな!」と命じ、心情は「食いてぇよ!」と訴える、アンビヴァレンス(反対感情両立)的苦悩に折り合いをつけて舌つづみを打った一夜が明けて、

「ああ、よかった!」と喜ぶ心があふれているようだ。


「鰒汁(ふぐじる)に又(また)本草(ほんぞう)のはなしかな」という宝井其角の句は、その美味を賞味しながらも、つい解毒法の話になってしまう情景を詠んだものだろう。

「本草」とはいうまでもなく薬物学のこと。


残念ながらテトロドトキシンの解毒剤はいまだにできてない。

だいぶ以前に東大農学部のグループが、テトロドトキシンの抗体を開発したと聞いたことがあるが、あれはどうなったのだろう。

いま、ネットで検索してみたが、まだ実用化はされてないようだ。


いまも年間20~30件のフグ中毒が発生し、死者も出ている。

もっとも、そのほとんどは素人料理か無免許の料理人の手によるもので、プロ(ふぐ調理師)が調理したものなら心配無用。

なお、フグの皮に多いコラーゲンには、血中コレステロールを下げる作用があるというが、フグ料理屋の勘定書はしばしば血圧を上昇させる。


「ふぐは食いたし、財布は軽し」「カネもないのにふぐ食う無分別」である。


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「やけどにチンク油、ぬかみそ」は、絶対ダメ!!


冬はやけどの季節だ。

やけどの重症度は、深さと広さで決まる。

深さは、表皮のみの「第Ⅰ度」、真皮まで及んだ「第Ⅱ度」、さらに深い「第Ⅲ度」と分けられる。

広さ(面積)は、からだ全体の体表面積に対して何%にあたるかという比率であらわす。目安としては、手のひらの面積がその人の体表面積の1%に相当する。

治療は、やけどの広さや深さによって異なるが、どんな程度のやけどでも、応急処置としてはまず冷やすこと。

水道の水を30分から1時間ジャブジャブかけてしっかりと冷やし切る。

皮膚が赤くなっただけの「第Ⅰ度」の1%くらいのやけどだったら、それだけで治る。

衣服の上から熱湯をあびたら、服の上から流水をかける。

無理に服をぬぐと、衣服にくっついた皮膚が一緒にはがれてしまうことがある。

昔は、やけどをして医者に行くと、白いどろっとした塗り薬(チンク油)を塗られた。

医学の教科書にも載っている治療法だったから、いまでもお年寄りの内科の先生なんかだとやっているかもしれない。

だが、それをやられると、やけどの深さがわからなくなる。

本格的な治療の妨げになるだけでなく、カサブタができ、細菌感染を起こしやすい。

で、チンク油を落とす。これが痛い。

ネットで「チンク油」を検索すると、

「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 

チンク油 亜鉛華に等量のオリーブ油を混和したもので、やけど、できものなど皮膚の炎症の際に患部を保護するための油剤として広く用いられる」とある。

時代遅れの大マチガイといわねばならない。

『広辞苑』に「チンク油」が登場するのは、1983年発行の第三版から。

「チンク油 同量の酸化亜鉛と植物油(主にオリーブ油)とを混和したもの。収斂(しゅうれん)作用があり、皮膚の急性炎症に使う」という語釈は、2008年の第六版まで変わっていない。

やけども皮膚の急性炎症の一種ではあるが、やけどにチンク油は、ダメです。

医者に行くほどではない「やけどのくすり」となると、ぬかみそ、みそ、しょうゆ、食用油、ジャガイモの汁、キュウリの輪切り、アロエ、朱肉......まあ、じつにいろいろさまざまな家庭療法が言い伝えられている。

全部、ダメ! 

わざわざバイ菌をくっつけるようなものだし、治りも遅くなる。

とにかく「やけどの特効薬」は、水!

しっかり水で冷やしたあとでも水疱が残りジュクジュクしているときは、皮膚科へ。

そうしてやけどが治ったら、跡を残さないケアが大切だ。

それにはまずビタミンC。ビタミンCには色素沈着を抑える効果がある。

食事やサプリメントでの摂取のほか、ビタミンCのローションを塗ればより効果的。

大敵は紫外線。紫外線を浴びると、跡の色が濃くなる。

衣服などで紫外線からやけど跡を守ろう。

ともあれ、いちばんのだいじは「予防」。

ストーブ、魔法瓶、油料理......しっかり気をつけてください。とくにお子さまに!

ところで、「やけど」は、

〔広義では、危険なことにのめり込んで手痛い損害を受ける意にも用いられる。例「円相場で大やけどした」〕=『新明解国語辞典』というように比喩としてもつかわれる。

こちらのクスリは、金と時間と友情だろう。

むろん「予防にまさる治療なし」は、この場合もいえる金言である。


小児事故対策

幼児期から小学生にかけての子どもの死亡原因の第1位は「不慮の事故」だ。

子どもの事故の内容は、年齢によって特徴がある。

多くは親の注意や環境づくりで防ぐことができる。

厚生労働省・健やか親子21推進協議会が作成した「子どもの事故防止対策」チェック表。

●1歳6カ月ごろの子への対策。

1 子どもを1人で家や車に残さない。

2 自動車に乗るときは、チャイルドシートを後部座席に取り付けて乗せる。

3 浴槽に水をためたままにしない。

4 医薬品、化粧品、洗剤などは子どもの手の届かないところに置く。

5 たばこや灰皿はいつも手の届かないところに置く。

6 ピーナッツやあめ玉などは手の届かないところに置く。

7 暖房器具(ストーブ・こたつなど)の熱が直接触れないようにする。

8 ポットや炊飯器は子どもの手の届かないところにおく。

9 ベビー用品やおもちゃを購入するときはデザインよりも安全性を重視する。

10 階段には転落防止用の柵(さく)を取り付ける。


 ●3歳ごろの子への対策。

1~6は1歳6カ月ごろの子への対策と同じ。

7 ストーブやヒーターなどは、安全柵(さく)で囲い、子どもが直接触れないようにする。

8 おはしや歯ブラシなどをくわえたまま走らせない。

9 すべり台やブランコの安全な乗り方を教える。

10 ベランダや窓のそばに踏み台になるものを置かない。


 ●1~4歳に起こりやすい事故と予防ポイント。

1 転落・転倒(ベランダや階段からの転落)=予防はチェック表の10─。

2 やけど(炊飯器や加湿器の蒸気にさわる。アイロン、ストーブにさわる。ポット、鍋をひっくり返す)=そうしたものに子どもが触れないようにする。

3 おぼれる(浴槽に落ちる、水遊び)=わずかな水でも残し湯はしない。浴室に外かぎをつける。水遊びの時は目を離さない。

4 誤飲・中毒・窒息(医薬品、化粧品、コイン、豆など)=危険なものは子どもの目にふれない、手の届かない場所に片づける。ピーナッツなど乾いた豆類を食べさせない。

5 交通事故(道路への飛び出し)=手をつないで歩く。


傷と傷跡ケア

湿潤療法

夏休みが始まった。日本中のすべての子どもに呼びかけたい。

ゲームを捨てて、外で遊ぼう!

そこでちょっと心配なのが、ケガ。

元気な子ほどすり傷や切り傷をつくりやすい。

そんなときの応急手当は?

昔は、傷口を消毒し、薬を塗り、ガーゼを当て、包帯を巻いた。

これ、マチガイ。

今は、まず水道水で傷を洗う(ほこりや土にはばい菌がいるので、きれいに洗い流す)。

そのあと被覆材(バンドエイド・キズパワーパッドなど)を当て、ばんそうこうで固定する。

そうすれば傷口から出る浸出液で適度に潤いが保たれ、痛みも少なく、治りも早い。

モイスト・ヒーリング(湿潤療法)という。

だが、この適切な処置方法を半数以上の人が知らなかった。

傷跡ケアの保湿化粧品「バイオイル」の輸入代理店ジャンパールが行った意識調査(全国600人=10代~60代の女性、各年代100人)によると、

水道水でよく洗う=44.5%。

消毒する=46.3%、だった。

傷は皮膚が欠損した状態だ。

それを修復するためのさまざまなしくみが働き、皮膚細胞が再生し、新しい皮膚ができる。

傷口にしみ出てくる体液(浸出液)のなかには、細胞の成長を促し、皮膚を修復するためのいろいろな成分が含まれている。

消毒は浸出液の働きを妨げ、傷の治りを遅らせる。

傷を覆い、湿潤環境を保てば、浸出液が働いて、傷は早くきれいに治る。

繰り返す。家庭で治せるような傷は、水道の水でよく洗い、被覆材を貼るのが一番。

被覆材の用意がなかったら、台所のラップを使えばよい。

意識調査では、やけどの応急手当も聞いた。

「水道水で冷やす」と、96.5%が正しく答えたが、

「30分以上冷やす」は、600人中わずか11人(1.8%)。

「5分以内」が最も多く、235人(39.2%)だった。

余熱でやけどを進行させ悪化させないためには20~30分水道水で冷やすのがよい。

そのあとはすり傷などと同じように湿潤療法を行う。

ただし、日本熱傷学会の調査では、やけどを食品用ラップなどで覆って治す湿潤療法で、かえって症状が悪化する例があることがわかったという。

調査委員会の安田浩・産業医大准教授(形成外科)は、

「湿潤療法の効果は確かめられているが、正しい知識を持つ医師が医療用シートでやらないと危険だ」と注意している。

すり傷・切り傷も、傷口が深かったり、ギザギザになっていたり、ガラスや木くずが刺さっている場合も病院に行ったほうがいい。

傷は適切な処置をすれば、以後は痛まないのが普通だ。

もし、半日か一日もたってから傷口がズキズキと痛んだりするようだったら、細菌の2次感染が始まっていると考えて医師に診てもらうべきだ。

「傷跡ケア」

さて、そうして傷ややけどが治ったあとのケアもだいじだ。

表皮までの軽い傷は、かさぶたをつくらない湿潤療法をすれば傷跡は残らないが、真皮、皮下組織に達した傷は跡が残る。

適切な治療をしたあと、傷跡のある肌を乾燥と紫外線からきちんと守れば、傷跡がひどくなるのを防いで、できた傷跡も薄くできる。

だが、そうした「跡ケア」で傷跡が目立たなくなることを知っていたのは、およそ2割の132人だけ。

残りの468人(78%)は「知らない」と答えた。

「正しい知識さえあればきれいな肌を保つことができるのに、残念なことです」と、ジャンパールの人は言っている。

どうしたらいいか?

傷跡を目立たなくする3ヵ条。

①絶対にダメ! 乾燥!

乾燥大敵! ベタつかずにオイル分を補える美容オイルや、ローション、クリームで保湿を。

②絶対にダメ! 紫外線!

紫外線は過剰な修復の原因になるので遮断が鉄則。

完治後は、日焼け止めや衣類でカバーするよう心掛けましょう。

③絶対にダメ! 摩擦!

摩擦も、引っかくのもNG! 引っかき傷は意外に目立つ傷跡を残します。医療用テープやパッドで保護を。

「どんな傷も治った後は、セルフケアが傷跡を左右します。傷跡を目立たなくする3ヵ条を、毎日の習慣にしましょう」


ゴルフと心臓

 ゴルフ場で心臓発作を起こして倒れたという話を聞くことが、ままある。

 スポーツ中の突然死をまとめた統計を見ても、若い人ではランニング、水泳、サッカーなどが上位を占めているが、40~65歳ではゴルフが1位、65歳以上では1位がゲートボールで、2位がゴルフだ。

 中高年者には競走、競泳、サッカーといった激しい運動をする人は少なくなるので、そのほうの事故はへるのだろう。

 それはわかるのだが、ゴルフやゲートボールのようないわばスタティック(静的)なスポーツで致命的な事故を招くことになるのは、なぜだろう。

 最大の原因は、たぶん精神的緊張だろう。

 その証拠にゴルフ場での突然死はほとんどグリーンで起きている。

 ここ一番というパットのプレッシャーが、血圧を押し上げ、心臓の血管を収縮させて、心臓発作の引き金を引くことになるのだろう。

 心筋梗塞や狭心症の発作が最も多く発症するのは、寒冷刺激によって、血管が収縮し、血圧が上がる冬だが、冬に次いで多いのは夏だ。

 夏場は、大汗をかいたとき、水分を補給しないと、脱水が生じ、血液が粘っこくなる。

 そのため、血液の流れが悪くなり、血栓ができ、血管が詰まりやすくもなるのだろう。

 コースへ出る前、プレイ中、水分の適切な補給を──。

 もっとも、グリーンで倒れたからといってすべて心臓発作とは限らない。

 脳卒中のこともあるだろうし、夏場だと熱中症のこともある。

 心臓発作でも、狭心症は、グリーンよりもむしろ坂道などを歩いているときに起きることが多いようだ。

 過去に狭心症の発作を経験している人は、ニトログリセリンの錠剤を携帯しているはずだから、腰を下ろし、ニトロを舌下にふくめば、ほどなく症状は落ち着く。

 初めての発作だったが、パートナーが持っていたニトロで助けられたという例も少なくないようだ。

 意識がしっかりしている場合の対応はそれでよい(むろん、プレイは中止する)が、問題はパッタリ倒れて、意識を失った場合だ。

 このとき、パートナーがまず行わねばならないのは、呼吸と脈の確認だ。

 1 鼻と口に手のひらを当て、吐く息が感じられるかどうかを調べる。

 吐く息が感じられない場合、舌根が沈下して気道をふさいでいるのだ。

 2 人差し指と中指をあごの先に当て、もう一方の手を額に当て、あご先を持ち上げるようにしながら、額を静かに押し下げるようにして、頭を後ろに反らせる。

 3 人差し指と中指を頸動脈に当て、脈がふれているかどうか確かめる。

 呼吸と脈拍が確認できたら、安静にして救急車を待つ。

 4 呼吸と脈拍が確認できなかったら、大声を上げて、AED(自動体外式除細動器)を持ってきてもらおう。

 5 AEDがくるまで心臓マッサージ(胸骨圧迫)を休まずに行う。

 6 心臓マッサージのやり方=倒れている人の胸の真ん中(乳頭と乳頭を結ぶ線の真ん中)に手のかかとの部分を重ねてのせ、肘を伸ばしたまま真上から強く(胸が4~5センチ程度沈むまで)押す。

 7 AEDには、だれでも使えるように音声のガイドと図がついていて、自動的に心臓の状態をチェックし、使わなくてもいい場合は、器械は動かない。

 使用法を間違える心配はない。 ためらわず、使おう。

 こうした事故を招かないため、心臓病の既往歴をもつ人は、なるべく坂道の少ない、慣れたゴルフ場を選び、少しでも体調が悪かったら(不義理を恐れず)コースに出るのをやめることだ。

 なお、ニトロには「使用期限」がある。

 期限を過ぎた薬や、期限内でも錠剤をむきだしにしていると、成分が揮発して薬効が薄れてしまう(舌先でなめてみてピリッとこなかったら薬効が薄れた証拠)。

 シートなどに明示された使用期限を確かめて、いつも新しい薬を携帯するようにしよう。


AEDを知ろう

 だれでも使える!

 いろんなところでAED(自動体外式除細動器)を目にする。

 しかし実際に使ったことがある人はごく少ないだろう。

 AEDはその名のとおり「体外(裸の胸の上)」に貼った、電極のついたパッドから「自動的」に心臓の状態を判断し、

 もし心臓まひ(心室細動という不整脈の状態)を起こしていたら、強い電流を一瞬、流して心臓に電気ショックを与え、心室の「細動」を「除」き、

 心臓の状態を正常に戻す器械だ。

 AEDは、初めての人でも簡単に使えるように設計されている。

 ボタンを押す(あるいはフタを開ける)と、電源が入り、あとは音声が順々に指示してくれる。

 倒れている人の胸をはだけ、シールのような電極パッドを、そのパッケージに描かれた位置にしっかり貼り、器械の自動診断を待つ。

 電気ショックが必要と器械が判断したら、「ボタンを押してください」と音声の指示が出るので、ボタンを押す。

 電気ショックが必要ない場合は、ボタンを押しても電気は流れない。

 操作を間違えても大丈夫。

 ためらうことなく、すぐさま使おう。

 あなたが救う!

 人が突然、倒れて意識を失ったら、心臓が心室細動という不整脈を起こしている可能性がある。

 心臓を動かしている電気系統(心臓の右上部から出る微かな電気が伝わるしくみ)が何らかの原因で混乱すると、リズミカルな収縮が行えなくなる。

 その不整脈の中でも特に心臓の血液を全身に送り出す心室がブルブル震え、血液を送り出せなくなった状態(心停止状態)が心室細動だ。

 心室細動が起こると、脳や腎臓、肝臓など重要な臓器に血液が行かなくなり、やがて心臓が完全に停止する。

 心臓が原因の突然死の多くは心室細動によるものだ。

 心室細動が起こると、1分ごとに約10%、助かる確率が減っていくといわれる。

 救急車が現場に到着するまでの時間はおよそ6分。

 救急車を待っていたのでは助かる確率がかなり低くなる。

 しかし近くにAEDがあって、そこにいる人がすぐに操作すれば、救命率はぐんと高くなる。

 「あなたにも救える命があります」(AED普及広告)。

 AEDには音声ガイド機能がついている。

 使い方は器械が教えてくれる。

 初めての人でもすぐ使うことができるが、人が倒れたときなどは、なかなか冷静に動けない。

 AEDの使い方だけでなく、119番への通報や心臓マッサージ(胸骨圧迫)なども含め、消防署や講習会などで救命救急の方法を経験しておこう。

 幼児も妊婦も!

 AEDは、1歳以上8歳未満(体重25㌔㌘以下)の場合、小児用電極パッド(パッドのサイズが小さく、流れる電流が成人用の3分の1程度)を使うことが望ましい。

 それがなかったら、成人用のAEDを使用してもよい。

 もし倒れている人が妊婦の場合、AEDを使っても大丈夫か?

 電気ショックが胎児に悪い影響を及ぼすのではないか?

 AEDの講習会でそう質問されることが多いという。

 もっともな心配だ。

 しかし、心室細動を起こしている人を救命する方法は、AEDによる電気ショック以外にはない。

 また、心肺停止状態が続けば胎児への酸素供給も滞っていると考えられる。

 母親を早急に蘇生(そせい)させることが、母子双方の命を救うことにつながる、と専門家は答えている。


救急車心得

 消防庁によると、救急隊の出場件数は、1年間に約529万件。

 この10年間で約55%増加している。

 そのうち約52%は、入院の必要のない人だった。

 よく聞く軽傷・軽症例、非常識例は、

 「指にとげが刺さった」

 「病院で順番待ちをせず優先的に診てもらえる」など。

 そんな人のために重症例への対応が遅れてしまうことがあるようだ。

 一方、救急車を呼ぶべきなのにためらったり、自力で病院に行ったりして、治療のタイミングを逸している例も多いようだ。

 世の中には2種類の人間がいる証左の一例が、ここにもある。

 心臓や脳の病気が疑われるときは、空振りになっても119番すべきだ。

 「心疾患は発症から1時間以内、脳疾患は3時間以内がリミット。

 時は命なりです」と専門医はいう。

 夜間の子どものケガや発熱で判断に迷ったら、小児救急電話相談(15歳以下)に聞くのも一法。

 全国共通#8000を押せば、各自治体の相談窓口に転送される。

 受け付け時間は自治体によって異なるが19時~23時が多いようだ。

 夜間当番医や深夜診療所を設けている地方医師会もある。

 確かめておこう。


いのちの4分間

 ただいま(9日~15日)救急医療週間。

「救急車の平均到着は約6分。

 心停止から1分ごとに、救命率は7~10%下がります」

 と消防庁はアピールしている。

 呼吸や心臓が止まると、脳は酸欠状態に陥り、神経細胞が次々と死んでいく。

 心停止から4分で、脳に致命的な変化が現れ始める。

 その間の応急手当が運命を分ける。

 目の前で突然、人が倒れたらまず119番し、意識と呼吸を確かめる。

 意識があり、呼吸をしていたら、横向きに寝かせて様子をみる。

 どちらもなければただちに二つの蘇生法──胸骨圧迫(心臓マッサージ)と、AED(自動体外式除細動器)──を試みる。

 近くにAEDがあっても、装置の到着を待たず、胸骨圧迫を始めるのが肝心だ。

 倒れた人の左右の乳首の間に、両手を重ねて当て、両腕を真っすぐ伸ばし、手のひらの根元で(全体重をかけるようにして)1分間約100回の速さで押し続ける。

 相手が小さい子どもの場合は片手で押してもいい。

 機会あるごとに救命講習に参加し応急手当を身につけておきたい。


川・海の救助法

 水の事故が頻発している。

 川の深みにはまった友だちを助けようとして溺死した高校生の事故など、なんとも言いようもなく無念で、いたましい。

 ご両親の胸中、察するに余りある。

 溺れた人を見つけたときの心得。

 1 絶対に水に入らないこと。

 助けるほうもパニック状態なので二重事故を招きかねない。

 岸から棒などを差し出し、つかまらせて引き上げる。

 エアマット、ペットボトル、クーラーボックスなど浮く物を投げるのもよい。

 2 溺れた人を岸に引き上げたら、体を横向きにして、頭を低くする。

 のどに詰まった水が自然に出る。

 腹は押さない。

 無理に吐かせると、肺に水が入る。

 3 呼吸困難・停止が起こっていたら、あお向けに寝かせ、下あごを持ち上げて、のど元を伸ばすようにする。

 そうすると口が開き、気道(肺への空気の通り道)の確保ができる。

 4 口の中に砂などが入っていたら顔を横に向け、指に布を巻いて取り除く。

 5 人工呼吸を始める。

 やり方はいろいろあるが、最も簡単でよい方法は「口うつし呼吸法」だ。

 息を大きく吸い込んだあと、口づけして勢いよく吹き込む。

 息の漏れを防ぐため、息を吹き込むとき、相手(溺れた人)の鼻を指でつまむか、自分のほおを当ててふさぐ。

 1分間に12回ぐらい、自然な呼吸が回復するまで続けよう。


頭を打った!

 脳は豆腐

 明日から春三月だというのに、全国的に真冬に逆戻り。

 都心でも積雪――とテレビがいっている。

 二月より三月寒し又も雪(子駿)って、ホントだな。

 どちらさまも凍った道で滑って転んだりしないよう気をつけてください。

 ━━というところで、本題。

 長生きのコツを聞かれて、「転ぶな、風邪ひくな、義理を欠け」と答えたのは、91歳の天寿を全うした岸信介元首相だった。

 老人の風邪は肺炎に進展しやすい。

 転ぶと、骨折しやすく、太ももの付け根を折って寝たきりになったり、頭を打って大ごとになる例が少なくない。

 脳は、豆腐のように軟らかい組織で、周りを脳脊髄液で囲まれ、頭蓋骨の中に浮かんでいる。

 豆腐の入ったボウルをゴツンとぶつけると、豆腐がゴシャゴシャと動くように、頭を打つと、その衝撃で脳が1秒の10分の1とか100分の1といった速さで振動する。

 頭蓋骨の中で脳が強くゆさぶられ、片方に寄る。

 脳の機能が一時的に障害されて短時間、意識を失ったり、判断力が鈍ったり、記憶喪失を起こしたりする。

「脳振盪(しんとう)」と呼ばれる状態だ。

 たいていすぐに回復して、大したことにはならないのだが、とっさの防御反応が鈍くなった人は、頭をまともに打って、脳の中に血液がたまる「硬膜下血腫」ができることがある。

 硬膜下血腫

 転んで頭を打っても、コブなどはできない。

 頭の外側には何の変化も認められない。

 だが脳の表面が傷つき、出血して、脳の表面と脳を覆っている硬膜の間に血液がたまり、血腫ができることがある。

 硬膜下血腫という。

 出血量の多い「急性硬膜下血腫」の場合、数時間内に意識を失うなどの異常が生じる。

 しかし、チョロッと出血したぐらいでは症状はほとんど出ないと、脳神経外科の専門家、平川公義・東京医科歯科大学名誉教授。

「症状が出たとしても、手足の力がなんとなく弱いとか、歩くときにちょっとふらつくとか、せいぜいそんなものです」

 ──そして1日か2日で元に戻る。出血が吸収されてしまうからだ。

「しかし、2、3日たってもどうも頭が痛い、へんな感じがあるというようなら病院に行ってください。

 何もなければそのまま何もしないで、むしろ1カ月か1カ月半たってなんだかおかしいと感じたら、CTで検査してもらい、確定診断を受けたほうがよいでしょう」

 ──そのとき脳では「慢性硬膜下血腫」が発生している。

 脳の硬膜の内側に血の塊ができる「慢性硬膜下血腫」は、高齢者に多くみられる脳障害で、頭を打ってから1カ月、ときには2、3カ月たってから徐々に症状が現れてくる。

「頭重や頭痛も訴えますが、足がふらつき、体の片側に軽いまひが生じることもあります。

 なんとなく周囲の状況がよくわからない感じで、ボーッとして反応が悪くなります。

 高齢者の慢性硬膜下血腫はよく見逃されたり、誤診されて老年性痴呆と間違われることがあります。

 ぼけてしまったということでほうっておかれると、治る認知症を見逃すことになります」

「また、例えば、正常圧水頭症といって、脳の中の脳脊髄液の循環が悪くなって、脳に水がたまってくる病気でも、ふらついたり、言葉がもつれたり、意識が悪くなったり、失禁したりします。

 お年寄りの頭の具合がだんだんおかしくなってきたら、頭の中で何が起こっているか、詳しく調べて、原因を突き止めなければいけません」

 以上、平川公義・東京医科歯科大名誉教授のアドバイス。
 

 急告! 愛酒家諸兄

 飲酒後に転倒や交通事故で頭部外傷を負うと、直後の検査では異常がないのに、半日~2日後に急死するケースがある。

 頭がむくんだり腫れたりする「脳浮腫」の悪化が原因とみられていた。

 松本博志・札幌医科大学教授(法医学)の研究チームは、「飲酒ラット」と「しらふラット」による実験で、そのことを確かめた。

「飲酒」したうえで頭を損傷したラットは、6時間後までは異常はなかったが、24時間後に脳浮腫が生じ、脳浮腫の原因の一つとされるたんぱく質「アクアポリン4」が大幅に増加し、約半数のラットが死んだという。

(2012年2月5日毎日新聞 大場あい記者の記事を要約した)。

 諸君、花見酒の季節も近い。

 おたがい、気をつけようぜ。

 飲んだら、転ぶな!



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