暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

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難病(特定疾患)

PNHとその薬

 ある日突然、夜間に溶血(赤血球の破壊)が起こり、ヘモグロビン(血色素)尿が見られる「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)」という病気がある。

 夜、寝る前には何ともなかったのに、朝起きると、紅茶色やコーヒー色の尿が出て、その後はだんだん色が薄くなっていき、日中は普通の尿の色に戻る。

 そういう症状をPNHと呼ぶ。

「しかし、厳密にはこの病名は正しくない」と、この病気の専門医、西村純一・大阪大学医学部血液・腫瘍(しゅよう)内科助教は話した。

「症状が認められなくとも、溶血は常に起こっているので〈発作性〉ではなく、溶血はわずかであっても継続的に起こっているので〈夜間〉だけではなく、PNHの患者さんの4分の3では〈ヘモグロビン尿〉は見られないからです」

 PNHは、何の前ぶれもなく発症する。

 発症の平均年齢は30代前半だ。

 見過ごされて、診断が遅れる症例も多い。

 原因不明の血栓症は、PNHが根本原因の可能性があり、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などの骨髄障害に合併する例も多い。

 PNHの薬

 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、体内に侵入した異物を排除する免疫システムの一つである「補体」が、自分の体の赤血球を破壊(溶血)することによって引き起こされる。

 従来、PNHに対して行われた輸血やステロイド剤などの治療は、溶血によって生じるさまざまな症状(腹痛、貧血、息切れ、疲労感その他)を和らげるための対症療法に過ぎなかった。

 だが2007年3月、アメリカで生まれて、2010年6月から日本でも使えるようになった新薬「ソリリス」は、補体と直接結合し、赤血球に対する補体の攻撃をブロックすることによって、溶血を抑える。

 PNHの唯一、有効な根本的治療薬だ。

 PNHはきわめてまれな病気だ。

 欧米の患者数は約8000人~1万人。

 1999年の厚生省疫学調査によると、日本の潜在患者数は430人だ。

 こうした希少疾病用の医薬品は、採算が合わないため製薬会社は開発に取り組みにくい。

「オーファン・ドラッグ(略してOD。オーファン=孤児)」と呼ばれる。

 ODはほかにもいくつもある。話を聞くと、頭が下がる。

 ソリリスを発見・開発したのは、バイオ製薬会社アレクシオンファーマだ。


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安倍さんの持病

 安倍晋三さんが、自民党総裁に返り咲いた。

 5年前、総理大臣を辞任したときの理由の大きな一つは「体調不良」。

 発表された病名は「機能性胃腸障害」だった。

 内視鏡検査では何ら異常は見つからないのに、胃もたれ、胃の痛み、胸やけ、下痢などの胃腸症状が続く病態を示す病名だ。

 以前はそうした病態は大抵「慢性胃炎」と診断された。

 内視鏡で見て、炎症があれば、もちろんのこと、なくても「慢性胃炎」といわれた。

 1998年、ローマで開かれた欧州消化器病学会で、

「内視鏡検査では異常は認められないが、長期間にわたって胃腸症状が出没し、原因不明のものは、<ファンクショナル・ディスペプシア>と呼ぼう」と決められた。

 日本の消化器関連の学会もそれを受けて、「機能性ディスペプシア」という病名をつくった。

 ディスペプシアは、英和辞典には「消化不良」とあるが、医学的には「上腹部消化管症状」を意味する。

 わかりにくい病名だと、「機能性胃腸症」を推す意見もあったが、「機能性ディスペプシア」に決まったそうだ。

 だが、安倍さんの主治医も、そのカタカナ病名は使わなかった。

 その後、安倍さんは、本当の病名は「潰瘍性大腸炎」と公表した。

 大腸の粘膜に炎症が生じ、潰瘍や糜爛(びらん)ができ、激しい腹痛や下痢、粘血便(血液や粘液、ウミなどが混じった便)が出る、原因不明の難病だ。

 同じように腸管に炎症が生じ、下痢などの症状が起こる病気の、クローン病と合わせて「炎症性腸疾患」と呼ばれる。

 潰瘍性大腸炎の炎症は、大腸だけに限られるが、クローン病では口から肛門までの消化管のすべてに炎症が起こる可能性がある(一般的には小腸から大腸にかけてが多い)。

「潰瘍性大腸炎は、焼夷弾で焼け野原。クローン病はテロリストが仕掛けた爆弾。一点集中したところに深い穴があく」と、専門医はたとえる。

 どちらも活動期(再燃期)と緩解期を繰り返すタイプが最も多い。

 活動期の程度は軽症、中等症、重症、劇症に分類される。

 軽症は下痢の回数が1日4回以下で、血便などの程度も軽く、全身症状はない。

 重症になると、1日10回以上もトイレに行き、食事もできなくなる。

 栄養がとれないからげっそりやせる。

 潰瘍性大腸炎は、1859年、イギリスで初めて報告された。

 わが日本は幕末、安政の大獄や桜田門外の変が起こったころだ。

 クローン病は、1932年、ニューヨークのマウントサイナイ病院の内科医、バーナード・クローンが報告した。

 日本人には少ない病気だったが、近年急増している。

 現在の患者数は、潰瘍性大腸炎約12万人、クローン病約3万人。

 自己免疫疾患といわれている。

 自己免疫疾患とは、病気に対抗し体を守る免疫反応のしくみが乱れ、自分自身の体を攻撃してしまう病気。

 自己抗体が関節を攻撃すると関節リウマチになるように、炎症性腸疾患では、大腸などの腸管を攻撃する。

 もう一つ、重要なのは食事で、食生活の欧米化(動物性脂肪の摂取量の増加)につれて、潰瘍性大腸炎もクローン病も増えている。

 特にクローン病には食生活の影響が大きいことが、厚労省研究班の食事調査で明らかにされた。

 一方、潰瘍性大腸炎で特徴的なのはストレスで、病気になる前、あるいは病気が再燃する前に、非常に苦悩した症例が多いという。

 そう聞くと、つい、5年前、首相辞任時の憔悴しきった感じの安倍さんを思い出す。

 昨日、今日、テレビで見る安倍さんにはあの面影は、まったくうかがえない。

「新薬の登場でいまの体調は万全」だという。

 なお、潰瘍性大腸炎もクローン病も、平均寿命は普通の人と変わらない。


パーキンソン病

 永さんの症状

「体調がおかしくなってから1年。

 一時は番組そのものが危なくなりかけた」と、永六輔さんが、毎日新聞のコラム「永六輔とその新世界」に書いたのは、2010年10月だった。

 番組というのは、TBSラジオ系で半世紀以上も続く「永六輔の土曜ワイド」だ。

 永さんといえば、やや甲高い早口のおしゃべりと、頭のてっぺんへ突き抜けるような笑い声の、陽気な話術が売り物だった。

 なのに、

「放送の上では言葉が伝わらないという現実的な病状があった。

 何を言っているのかよくわからないという噂(うわさ)もあって自覚もしていた」という。

 だが、

「やっと病名が決まってパーキンソン病」「かつては難病のひとつに数えられていたが、研究の成果が上がり薬も開発され、病気を押さえ込むことが出来るようになった」

「日常生活そのものがリハビリテーション。

 転倒しない注意と加齢による体調の変化を自分で納得しながら過ごせばいいとのこと、一安心した」と書いている。

「声と言葉が戻ってきましたね」

「昔の笑い声になりましたね」など、番組にもいろいろ反応が寄せられ、

 番組でフリートークした大橋巨泉さん、前田武彦さんからも、

「若い時の舌っ足らずでキンキンした声、けたたましい笑い声に比べれば今の方が落ち着いて好きだな」と言われた──とある。

 パーキンソン病は、加齢とともに進行する神経変性疾患で、厚生労働省指定難病の中で最も患者数の多い一つだ(有病率10万人中約150人。全国の患者数約15万人)。

 大半は高齢になって発症するが、若くして発症する若年性パーキンソン病もある。

 完治できる治療法はまだないが、少しも悲観することはないと、パーキンソン病治療の名医が明言している。

「私が医者になった30数年前には、パーキンソン病は非常に治療しにくい病気でした。

 入院の患者さんを担当すると、先輩から、

『なるべく早く、状態のいいうちに一度、お宅に帰ってもらったほうがいいよ。

 入院が長引くと悪くなるばかりだからね』と言われたものです。

 今はそんなことはありません。

 生命予後がとてもよくなりました。

 私は、パーキンソン病の患者さんが来られると、

『これから30年はおつきあいしましょう』と言います」と、岩田誠・東京女子医大名誉教授。

 パーキンソン病発症年齢のピークは50~60代。

 永六輔さんのような70代半ばの発症も珍しくない。

「昔は、パーキンソン病の患者さんが30年生存されるなんて考えられなかったのですが、

今はそれくらい全く当たり前、パーキンソン病が〈死因〉になることは極めてまれです」

 

 パーキンソン症状

 パーキンソン病は、1817年、ロンドン郊外で診療所を開いていたジェームス・パーキンソンが報告した。

 開業医が見つけた最も有名な病気の一つだ。

 脳の奥底(中脳)には「黒質」と呼ばれる神経細胞の集まりがあるが、そこの細胞が変性・脱落し、レビー小体という異常物質ができて、神経伝達物質のドーパミンが減り、体を動かす運動発現がうまくいかなくなる病気だ。

 症状は──、

 1 運動障害。

 2 自律神経障害。

 3 精神障害に大別される。

 中心となるのは1で、筋強剛(筋肉がこわばる)、振戦(手などが小刻みに震える)、無動(体が動かない。動作がのろくなる)、姿勢保持障害(体が前かがみになり、転びやすい)が4大症候とされる。

 2のために起きる発汗障害、血圧が下がりやすい、便秘などの症状も重要で、特に便秘は、パーキンソン病の全患者が訴える頑固な症状だという。

 岩田誠・東京女子医大名誉教授は、

「若いころ師匠から命じられて、パーキンソン病と便秘について調べたところ、

担当する約80人の患者さんの全例で、運動障害の症状が起こる数年前から高度の便秘が始まっていたことが分かりました。

 パーキンソン病の初発症状は便秘といっていいでしょう」と、プレスセミナーで話した。


 鑑別診断

 パーキンソン病と同じ症状が、別のいろいろな原因で起こるものを「症候性パーキンソニズム」または「パーキンソン症候群」と呼ぶ。

 前かがみにちょこちょこ歩いて、手がしじゅう震えているといった特徴的症状を示す人の9割はパーキンソン病だが、1割はそうではない。

 最も重要なのは薬剤性パーキンソニズムだ。

 抗精神病薬、抗めまい薬、嘔吐(おうと)を抑える制吐剤、胃かいようの予防薬などでパーキンソン病と同じような症状が出る。

「これは絶対に見つけなければいけない。

 薬をやめれば、よくなるからです」と専門医。

 脳の細い血管が何カ所も詰まる多発性脳梗塞の人が、パーキンソン病と間違えられる症状を示すこともある。

 最も難しいのは多系統萎縮症や進行性核上性マヒなどの脳の変性疾患で、脳の侵されている場所が同じだから、初期症状はパーキンソン病ととてもよく似ている。

 しかし、原因が全然違うし、当然、パーキンソン病の治療薬は効きにくい。

 近年、アルツハイマー病に次ぐ「第二の認知症」として注目を集めているレビー小体型認知症でも、パーキンソン病とそっくりの症状がしばしば現れる。

 パーキンソン病では脳幹にだけ出現するレビー小体が、レビー小体型認知症では知能とかかわる大脳皮質にも出現するために、パーキンソン症状を伴う認知症として進行する。

 これをパーキンソン病と間違えて、パーキンソン病と同じ治療をすると、かえって病状が悪化してしまう。

 このことについては、別の日に詳しく取り上げる。

 ──といったようにパーキンソン病は、専門医による鑑別診断(症状が似た別の病気と区別するための精密検査と診断)が重要な病気だ。


 パーキンソン病の薬

 パーキンソン病に最も詳しいのは神経内科医だ。

 神経内科といえば「精神科と同じような診療を行う科」というイメージをもつ人が多いようだが、それは違う。

 神経内科は、脳や脊髄、筋肉などに異常が生じ、体が不自由になる病気を診断・治療する診療科だ。

 だが、そのことについての一般的な認知度は低く、初診時に受診先を間違えて、専門医の診断・治療を受けていない例が多い。

 永六輔さんもパーキンソン病と診断されるまで1年もかかった。

 問題は、そのため適切な初期治療がほどこされず、病気が進行してしまうことだ。

 パーキンソン病の主要な治療薬は、ドーパミンの原材料となるLドーパ製剤や、ドーパミンの働きに似たドーパミン作動薬だ。

 そのほか確かな効果が認められている薬がいくつもあり、病状に合わせて用いられる。

1日1回の服用で24時間安定した効果が持続する薬もある。

 薬を使い続けていくうえでの大切な心得は「自分の判断で服用を中断しないこと」だ。

 薬をやめると動けなくなる。

 が、胃や腸の手術の際は薬をやめなければいけない。

 外科医と神経内科医の連絡が必要だ。



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