暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

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消化器の病気

ピロリ菌が「胃がんの常識」を変えた


日本人には胃がんが多い。

最新がん統計(2015年4月)によると、

男性では死亡数は肺がんに次ぐ2位。罹患数は1位。

女性では死亡数は大腸がん、肺がんに次ぐ3位。罹患数は乳がん、大腸がんに次ぐ3位。


だが、これは比較的近年のこと。

男性の胃がん死亡数が肺がんに抜かれたのが1993年で、女性のそれが大腸がんに抜かれたのは2002年。

それまでは男女ともに死亡数も罹患数もずっと胃がんが1位だった。

なぜ、日本人にはそんなに胃がんが多い(多かった)のか?


まず戦後間もなくのころは「熱い食べ物」が危ないといわれた。

当時、日本でいちばん胃がんの死亡率が高かった奈良県に着目した高名な医学者が、原因は奈良県民が愛好する熱い茶がゆではないかと指摘し、茶がゆの廃止が呼びかけられた。

だが、この茶がゆ犯人説はその後の研究でほぼ完全に否定された。

茶がゆを愛好する地方は、奈良県以外にも和歌山県、三重県、山口県、佐渡などあちこちにあり、奈良県ほど胃がん死亡率が高くないなど、矛盾する事実がいろいろ出てきたからだ。


そのあと、「胃潰瘍前がん説」と「塩分過剰摂取説」が提唱され、近年まで最も有力な説として認められてきた。

たしかに胃潰瘍から始まる胃がんが多いことや、塩分の取りすぎが胃がんの悪化に関係していることは事実だが、それが胃がんの原因ではないことがいまは明らかになっている。


1983年、オーストラリアの研究者らが発見した、ヘリコバクター・ピロリ(通称ピロリ菌)の研究が進み、胃がんの原因が特定されたからである。

以下、ピロリ菌に関する現代医学の定説を要約してみる。

ピロリ菌に感染すると、ほぼ100%の人に「ヘリコバクター・ピロリ胃炎」という慢性胃炎の一種が生じ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のもとになる。

慢性胃炎が長く続いて萎縮性胃炎に変わると、その一部から胃がんが発生してくる。

ピロリ菌に感染している人が必ずしもみな胃がんになるわけではないが、遺伝性のスキルス胃がんなどを除き、ほとんどすべての胃がんの人はピロリ菌に感染しているという。

国立国際医療センターの研究チームは、ピロリ菌に感染した1246人と、感染していない280人を、8年間追跡調査した。

結果、感染者では約3%に胃がんが発生したが、非感染者ではゼロだった。

WHO(世界保健機関)は、「ピロリ菌は煙草なみの発がん物質」といい、

ピロリ菌が胃がんを引き起こすメカニズムを解明した畠山昌則・東京大教授(病因・病理学)は、「胃がんの99%はピロリ菌感染が原因です」と明言している。


日本ヘリコバクター学会は、胃がん予防のため、胃の粘膜にピロリ菌がいる人は全員、薬で除菌することを勧めている。

学会の提言を受けて、まず2000年に胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者のピロリ菌の除菌治療が公的医療保険の適用となり、2010年には、

①ピロリ菌が原因の胃MALTリンパ腫、

②特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、

③内視鏡治療でがんを取り去った早期胃がんの再発防止、

─と対象が広がり、2013年からは慢性胃炎の人のピロリ菌除菌も保険でできるようになった。

ヘリコバクター・ピロリ胃炎であるかどうかを医療機関でチェックし、陽性とわかったら除菌を行うことをお勧めしたい。

無症状の若い人たちでは、胃がん、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などを完全に抑えることができる。

中高年ではすでに前がん状態に進んでいる場合もあり、除菌後も定期的にフォローする必要がある。

「除菌後も必ず胃がん検診を受け続けます」と一筆とってから、治療を始める専門医もいる。


なお、食塩は胃粘膜のバリアーを侵し、ピロリ菌の毒素がしみ込みやすくなる。胃がん予防には、塩分の取りすぎにも注意したい。



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便秘と下剤に関する誤解


サマセット・モームの『作家の手帳』のなかに下のような一節を見つけた。

<産婦人科学の教授が、その講義のはじめに言った。

「諸君、女とは、一日に一度ミクチュレート(放尿)し、一週に一度デフィケート(排便)し、一月に一度メンスツルエート(通経)し、一年に一度パーテュレート(出産)し、そうして機会あるときはいつでもコピュレート(交尾)する動物である」

 ぼくは均整のとれた、しゃれた文章だと思う。>(中村佐喜子訳=新潮文庫)

大いにためらいながら引き写したが、手帳にこの文言を記した1894年、モームはロンドンの医学校の3年生だった。

女性のみなさま、時代の古さと作家の若さに免じて、大々的セクハラをお許しください。


さて、本論。

冗談半分とはいえ、「1日に1度の放尿」はいくらなんでもあまりにも少なすぎる。

いったいに女性はそれを我慢しがちで、そのため膀胱炎などの尿路感染症を起こしやすい。

で、そうした病気はチャスティティ・ディジーズ(慎み深いための病気)と呼ばれる。

起きているときは2~3時間に1回、膀胱をカラッポにするのが、健康上のだいじな心がけである。

「1週に1度の排便」というのも、少ない。

便秘は気分的にうっとうしいだけでなく、体にもよくない。

便秘と不眠は、老人の二大愁訴といわれるが、若い人にもけっこう多い。

厚生労働省の国民健康調査によれば、便秘に悩む人は660万人、それを隠している人や自覚のない人を含めると、1000万人を超えるのでは...と推測される。

10後半から30代前半の女性に最も多く、40~50%を占めている。

便秘には「何日間排便がなければ便秘である」といった明確な定義はない。

一般的には、排便が週に1回程度だったり、薬がないと排便できなかったりするような状態だと便秘、と考えられている。

毎日排便しないといけないと思っている人もいるようだが、3日に1度でもそのあとスッキリするのであれば問題ない。

毎日出ていても、スッキリしないとか、ガスがたまっておなかが張るなど、不快症状があるようだと、ちと問題あり。

食物繊維や水分をバランスよくとると、便のかさがふえたり、軟らかくなったりして、出やすくなる。

適度な運動─とくにゴルフやテニス、ラジオ体操など体をひねる運動―も効果的だ。

しかし、糞闘努力の甲斐もなく、ウンに見放される日が続くと、下剤に頼りたくなる。


ところが、その下剤の乱用が便秘をいっそう悪化させてしまう。

下剤は「出なくて苦しい」状態を一時的に改善するもので、便秘そのものを治す薬ではない。

どうにも苦しいときに薬を使うのはかまわないが、下剤を使うことに慣れると、便意を感じて、トイレに行き、排便するという腸のリズムが失われる。

下剤はあくまでも急場の対処法、一時的使用を原則とすべき薬だ。

市販の下剤のうち最も種類が多いアロエやセンナ、大黄が成分として配合されている「アントラキノン系下剤」は、大腸を刺激することによって便意を生じさせる。

長期使用で効きがわるくなったり、大腸の自発的な動きが弱ったりする欠点がある。

大腸の粘膜が黒ずむ大腸メラノーシス(大腸黒皮症)も発生しやすくなる。

アロエ、センナ、大黄は、自然の成分の生薬なので安心感があるが、長期連用は控えたほうがよい。

だが便秘に詳しくない先生にかかると、下剤の大半を占めるアントラキノン系下剤を処方されることが多い。

便秘の名医、松生恒夫・松生クリニック院長は、漢方薬を下剤として選ぶさい、大黄などの含有量はごく少量で、効果が得られる「防風通聖散」を第一選択にしているという。

2012年、便秘治療薬としては約30年ぶりに発売された「アミティーザ」は、小腸に作用し、便に含まれる水分をふやし、便を軟らかく移動しやすくする。

慢性便秘に広く効果があり、長く飲んでも効きがわるくなる心配が少ない。

便秘を正しく理解し、根本的に治したいと思われるなら、松生恒夫著『排便力をつけて便秘を治す本』(マキノ出版刊)のご一読をお勧めしたい。


ガスの医学「屁一つは薬千服」

屁一つは薬千服

あをによし寧楽(なら)の京師(みやこ)は咲く花の薫(にほ)ふがごとく今盛りなり
    小野老朝臣(おののおゆのあそみ)

『万葉集』巻三に収められたこの有名な歌が「おなら」の語源だという説があり、花の季節にはつい思い出してしまう。もちろん俗説である。

ほんとうは「鳴らす」に接頭語の「お」がついたもの、と辞書には記されてある。

「漢(から)にては放屁(ほうひ)といい、上方にては屁(へ)をこくといい、関東にてはひるといい、女中はすべておならという。その言葉は異なれども、鳴ると臭きは同じことなり」

と、風来山人こと平賀源内は『放屁論』のなかで言っている。

しかし、数あるなかには、鳴らないモノもあれば、そんなに臭くないモノもあるのは、ご存じのとおりである。

自家製のモノは、その当人にはむしろ芳香である。

ともあれ、普通に出ている分にはどのように鳴ろうが、どれほど臭かろうが、心配はいらない。

どれくらいが「普通」かといえば、1回量50~500cc、1日量100~2800cc、と、NASA(米航空宇宙局)のデータにはあるそうだ。

風来山人は、

「プッと鳴るもの上品にしてその形円く、ブウと鳴るもの中品にしてその形いびつなり。スーとすかすもの下品にて細長くして少しひらたし」(『放屁論』)といっているが、ブーでもスーでも1日2~10回程度だったら通常の発射回数としていいのではないか。

もしガスのなかに有毒成分が含まれていたりすると、密閉空間の宇宙船内では重大なトラブルが発生しかねない。

で、NASAはおならの研究を徹底的に行った。

結果、おならの含有成分は約400種類、人間を死に至らしめるような有毒成分は含まれてないことが確認された。

「屁一つは薬千服」と、ことわざが教えているように健全?な一発は、健康な胃腸と肛門の証明である。

だが小さなガス漏れが、大事故の前ぶれであったりするように、おならの背後に思わぬ病気が隠れていることもある。

臭いガスが頻繁に出る(発生亢進)、ガスがたまって腹が張る(吸収障害)、ガスが出にくく、出るとき痛みを感じる(排泄障害)といった症状が長くつづくときは要注意、と専門医は警告している。

発生亢進は、食物の種類(サツマイモなど発酵しやすい食物や、ゴボウなど消化のわるい食物)と、消化液の分泌に関係がある。

サツマイモやゴボウなどを食べ過ぎたり、消化液の分泌が悪かったりすると、食べた物がつまでも腸内に残り、発酵や腐敗がふえ、ガスがたくさん発生する。

小腸に炎症があるときも食物の消化吸収がわるくなってガスの発生が亢進するし、肝臓病でもガスが発生しやすくなる。

肝臓病が進むと、ガス頻発期のあと腹水がたまってくる。このことをフランスの肝臓専門医は「風のち雨」と表現しているそうだ。

ガスの吸収障害は、大腸の炎症によっても起きるが、心臓病や肝硬変、便秘や低血圧が原因のこともある。

三つめの排泄障害は、大腸の運動が減退したり、大腸・直腸に癒着や狭窄などの異常がある場合、しばしばみられる。

おならが出にくいだけでなく、出るとき痛みを感じるようであれば要注意。

そのうえ大便に血がまじっていたら大腸がんの初期かもしれない。すぐ精密検査を!

なお、呑気症(どんきしょう)といって、無意識のうちに空気をたくさんのみ込むクセのせいで、ガスやゲップが多発することもある。

早食い、ガブ飲み、炭酸飲料の飲み過ぎ、口呼吸、不安、緊張、ストレスなどが原因になりやすい。

ヒステリーも呑気症を伴いがちでガス・ゲップの多発を招きやすいのだそう。ヘェー。


柿と酒のやや複雑な関係


師走12月、忘年会の月は、肝臓受難の月である。

「悪酔い・二日酔いを防ぐ上手な酒の飲み方」といった記事が散見される月でもある。

そんな記事にはもしかしたら、

「酒を飲む前に柿やミカンなど果物を食べておけば悪酔いしない」などと書いてあるかもしれない。

この助言、酒にある程度以上強い人に対してならホントだが、酒に弱い人に対してはウソになる。

まずいことに、そういう助言を忠実に実行しがちなのは、弱い人のほうだから、余計なことをしたばっかりに余計ひどい目に遭うことになりかねない。

「酔い覚ましには柿を食えばよい」とは、昔から言われていて、これはホントのことだ。

柿がいいのならミカンやリンゴだっていいのではないか、と思う人もあるだろう。

それもまあけっこうである。

柿やミカンやリンゴなどの果物が酔い覚ましに効いたり、悪酔いを防いだりするのは、それらに多く含まれている果糖にアルコールを分解する酵素の活性を強める働きがあり、タンニン(柿にはとくに多い)やビタミンCにはアセトアルデヒドを分解する酵素の活性を強める働きがあるからだ。

アセトアルデヒドというのは、アルコールが分解されてできる毒性の強い物質である。


体内に入った酒(アルコール)は、肝臓でまずADH(アルコール脱水素酵素)やMEOS(ミクロゾーム酸化系)という酵素によって分解されてアセトアルデヒドになる。

次に、ALDH(アルデヒド脱水素酵素)という酵素の働きで、アセトアルデヒドが無害の酢酸に変わる。

そして最後に、酢酸が炭酸ガスと水に分解されて、体から出ていき、アルコールの旅は終わる。

こう見てくると、アルコールの代謝がスムーズにいくかどうか―言い換えると、悪酔いや二日酔いをするか、しないか―は、一群の酵素の働きにかかっていることが、わかる。

一つずつ順番に見ると―、

ADHはだれもがだいたい同じように持っている。

MEOSは、ADHの補助的な働きをするのだが、アルコールを飲むことで肝臓のなかで増加し、活性が強くなる。

酒飲みのキャリアが重なるのにつれて酒に強くなる一つの理由は、この酵素が増加するからだろう。

そして三つ目のALDH。これがアルコール代謝の最も重要なカギをにぎっている酵素だ。

というのは、ALDHがその代謝を受け持つアセトアルデヒドこそ、悪酔い・二日酔いの元凶だからだ。

ALDHには1型(ALDH1)と2型(ALDH2)という二つのタイプがある。

ALDH1は、だいぶ飲んで血液中のアセトアルデヒドが高濃度になったとき、ようやく働き始める後発型の酵素である。

ALDH2は、飲み始めの低濃度のときからよく働き、アセトアルデヒドを次から次へ酢酸に分解する。

酒に強い人は、ALDHの1型も2型も両方持っている。

酒に弱い人は、1型しか持っていない。

飲み始めから働く2型がないから、酒をちょっと飲んだだけでもアセトアルデヒドがたまってしまい、顔が赤くなり、胸がドキドキしたりする。

日本人など黄色人種の半数は、ALDHの2型が遺伝的に欠損している。

つまり酒に弱い体質に生まれついている。

酒を飲むと顔が真っ赤になる症状をオリエンタル・フラッシュと呼ぶのは、そういうわけである。

―というところで柿(果物)の話に戻る。

酒を飲む前や飲んでいるときに果物を食べると、そのなかの果糖がADHの活性を強くし、アルコールを分解する働きが促進され、アセトアルデヒドがそれだけ早くできる。

ところが、そのアセトアルデヒドを次々に処理していくALDHの2型がないと、アセトアルデヒドはどんどんふえていく。

果物を食べたために悪酔いの度合いがさらにひどくなる。

実際、ALDH2の欠損者では、酒を飲む前に果糖を摂取したときと、そうでないときとでは、アセトアルデヒドの血中濃度の上昇速度が明らかに異なることが実験的に確かめられている。

だから酒に弱い人が果物を食べるのなら、酒を飲んだあと(アルコールがすっかりアセトアルデヒドに分解されたころ)だと、タンニンやビタミンCのALDHの活性を高める作用が期待できる。

酒の前の果物は人によってはNG、酒のあとの果物はだれでもグー。そういうわけです。


「胸焼けに重曹」は逆効果

牛乳を飲めばよい


焼き芋のうまい季節が到来した。

焼き芋や甘いもの、脂っこいものを食い過ぎると胸焼けがする。

このとき、重曹を一と匙、冷たい水で飲み下すと、たちまちスーッとおさまる。

子どものころ、祖母がそれをやっているのを見たことがある。

そのように「胸焼けにはソーダ」は、昔からよく知られている庶民的な健康常識だ。

だが、この「おばあさんの知恵」は、一見ホントみたいだが、ウソである。

たしかに重曹を飲むと、胸焼けの症状はたちまち解消される。

しかしその効果は一時的なものでしかない。

30分もすれば元に戻ってしまう。

なぜか?

胸焼けは、酸性の胃液が食道内に逆流するために起こる。

胃の中にアルカリ性の重曹(炭酸水素ナトリウム)が入ると、胃酸(胃液中の塩酸)と反応し、中和する。

胸焼けがしずまる。

ところが、中和によって二酸化炭素(炭酸ガス)が発生する(ゲップがでるのは、そのためだ)。

この炭酸ガスが刺激となって新たな胃酸が分泌される。

再生産された胃酸は食道へ逆流し、胸焼けが再発する。

「あれ? ソーダー、効かなかった。量が少なかった?」

と、もう一度、重曹を飲むと、また同じことがくり返される。

食道の炎症はさらに悪化する。

つまり、胸焼けの重曹服用は根本的な解消法にはならないばかりか、かえって症状を増悪させる。逆効果でしかない。

では、どうする?

牛乳を飲めばよい。

牛乳も同じように胃酸を中和するが、炭酸ガスは生じない。ゲップはでない。

細かな粒子となって胃壁に付着し、胃を保護する。

ただし、ごくごくと一気に飲むと、胃酸と一度に反応・凝固し、胃壁を保護する効果はえられない。

ゆっくり、唾液と混ざるような感じで飲むのがよい。

ところで、胸焼けにもいくつか種類がある。

焼き芋などを食べ過ぎたときの胸焼けは、糖質や脂質の過剰摂取によって胃酸の分泌促進が起こるためだ。

急いで食事をしたりしたときも、胸焼けがよく起こる。

食道の中の圧力が上がったり、食道の下部が押し広げられ、胃液が逆流しやすいからだ。

食べ物が食道内に入ると、正常では収縮波が食道にあらわれ、食べ物を胃のほうに向かって押し進める。

そうした食道の動きがうまく調節されず、収縮がくり返し起こっても先に進んでいかないことがある。

この場合も食べ物がつかえる感じと一緒に胸焼けが生じる。

高齢者ではこのような胸焼けがよくみられる。

病気の症状として起こる胸焼けも多い。

食道裂孔ヘルニア・逆流性食道炎、胃・十二指腸潰瘍、食道けいれん症などだ。

精神的ストレスによる胸焼けもある。

大きな心配事があり、ものがのどを通らないときの胸やけが、それだ。

妊娠初期にみられる胸焼けには、このような精神的な面も関係しているようだ。

胸焼けがひんぱんに起こるときは消化器内科へ―。

余談。

呑酸嘈囃。なんのことだか、おわかりですか?

『広辞苑』によると、

呑酸(どんさん)は、

「酸味のある胃液が口腔内に逆流する現象。胃酸過多症などの一症状。げっぷ」である。

嘈囃(そうそう)は、本見出しではなく、「むねやけ」の項に、

むねやけ【胸焼け・嘈囃】食道内に灼熱感の起こること。云々―。

と、空見出しとしてだけある。

―てなわけで、ゲップ、胸焼けの症状を、むかしのお医者さんは「呑酸嘈囃」とカルテに記した。

なお、同音類似語の「嘈嘈(そうそう)」は、「①声の調子のはやいさま。②声のさわがしいさま」のことである。


安倍さんの持病

 安倍晋三さんが、自民党総裁に返り咲いた。

 5年前、総理大臣を辞任したときの理由の大きな一つは「体調不良」。

 発表された病名は「機能性胃腸障害」だった。

 内視鏡検査では何ら異常は見つからないのに、胃もたれ、胃の痛み、胸やけ、下痢などの胃腸症状が続く病態を示す病名だ。

 以前はそうした病態は大抵「慢性胃炎」と診断された。

 内視鏡で見て、炎症があれば、もちろんのこと、なくても「慢性胃炎」といわれた。

 1998年、ローマで開かれた欧州消化器病学会で、

「内視鏡検査では異常は認められないが、長期間にわたって胃腸症状が出没し、原因不明のものは、<ファンクショナル・ディスペプシア>と呼ぼう」と決められた。

 日本の消化器関連の学会もそれを受けて、「機能性ディスペプシア」という病名をつくった。

 ディスペプシアは、英和辞典には「消化不良」とあるが、医学的には「上腹部消化管症状」を意味する。

 わかりにくい病名だと、「機能性胃腸症」を推す意見もあったが、「機能性ディスペプシア」に決まったそうだ。

 だが、安倍さんの主治医も、そのカタカナ病名は使わなかった。

 その後、安倍さんは、本当の病名は「潰瘍性大腸炎」と公表した。

 大腸の粘膜に炎症が生じ、潰瘍や糜爛(びらん)ができ、激しい腹痛や下痢、粘血便(血液や粘液、ウミなどが混じった便)が出る、原因不明の難病だ。

 同じように腸管に炎症が生じ、下痢などの症状が起こる病気の、クローン病と合わせて「炎症性腸疾患」と呼ばれる。

 潰瘍性大腸炎の炎症は、大腸だけに限られるが、クローン病では口から肛門までの消化管のすべてに炎症が起こる可能性がある(一般的には小腸から大腸にかけてが多い)。

「潰瘍性大腸炎は、焼夷弾で焼け野原。クローン病はテロリストが仕掛けた爆弾。一点集中したところに深い穴があく」と、専門医はたとえる。

 どちらも活動期(再燃期)と緩解期を繰り返すタイプが最も多い。

 活動期の程度は軽症、中等症、重症、劇症に分類される。

 軽症は下痢の回数が1日4回以下で、血便などの程度も軽く、全身症状はない。

 重症になると、1日10回以上もトイレに行き、食事もできなくなる。

 栄養がとれないからげっそりやせる。

 潰瘍性大腸炎は、1859年、イギリスで初めて報告された。

 わが日本は幕末、安政の大獄や桜田門外の変が起こったころだ。

 クローン病は、1932年、ニューヨークのマウントサイナイ病院の内科医、バーナード・クローンが報告した。

 日本人には少ない病気だったが、近年急増している。

 現在の患者数は、潰瘍性大腸炎約12万人、クローン病約3万人。

 自己免疫疾患といわれている。

 自己免疫疾患とは、病気に対抗し体を守る免疫反応のしくみが乱れ、自分自身の体を攻撃してしまう病気。

 自己抗体が関節を攻撃すると関節リウマチになるように、炎症性腸疾患では、大腸などの腸管を攻撃する。

 もう一つ、重要なのは食事で、食生活の欧米化(動物性脂肪の摂取量の増加)につれて、潰瘍性大腸炎もクローン病も増えている。

 特にクローン病には食生活の影響が大きいことが、厚労省研究班の食事調査で明らかにされた。

 一方、潰瘍性大腸炎で特徴的なのはストレスで、病気になる前、あるいは病気が再燃する前に、非常に苦悩した症例が多いという。

 そう聞くと、つい、5年前、首相辞任時の憔悴しきった感じの安倍さんを思い出す。

 昨日、今日、テレビで見る安倍さんにはあの面影は、まったくうかがえない。

「新薬の登場でいまの体調は万全」だという。

 なお、潰瘍性大腸炎もクローン病も、平均寿命は普通の人と変わらない。


夏の胃腸炎

 夏には腹痛、下痢、嘔吐などの患者が急増する。

 この急性胃腸炎の原因は三つ。

 ①細菌性食中毒によるもの。

 ②風邪のウイルスによるもの。

 ③細菌ともウイルスとも無関係の暴飲暴食によるもの。

 細菌性食中毒は年中注意が必要だが、高温多湿の夏場は特に危ない。

 夏風邪や食中毒のとき、便の中にどんな細菌やウイルスがあるかを調べたデータによると、細菌ではカンピロバクター菌、ウイルスではロタウイルスが一番多かった。

 カンピロバクターは、肉類を介して感染するケースが多い。

 生焼けの肉、鶏肉サラダ、レバ刺しには気をつけたほうがいい。

 ロタウイルスは、感染力が強く、ほとんどの乳幼児が5歳までに一度は感染する。

 冬に流行する乳児の嘔吐下痢症の原因のほとんどはロタウイルスだが、夏にもけっこう流行る。

 主な症状は下痢、嘔吐、発熱だが、重症化すると、脱水症状や痙攣、脳炎などの重篤な合併症を引き起こす場合がある。

 治療方法は対症療法のみ。

 いたいけな乳幼児の看病、感染拡大防止のための汚物処理や消毒など、保護者にも大きな負担となる。

 衛生状態の改善だけでは感染を防ぐことは難しく、重症下痢症に占めるロタウイルスの割合は先進国と開発途上国でほぼ同等だ。

 世界保健機関(WHO)は先進国、開発途上国に関係なくすべての地域において、ロタウイルスワクチンの定期接種化を推奨している。

 経口弱毒生ロタウイルスワクチン「ロタテック(R)内用液」のメーカー、MSD株式会社は、ロタウイルス胃腸炎疾患啓発サイト「産後ロタ.jp」を開設。

ロタウイルス胃腸炎の症状やその原因となるロタウイルスに関する解説のほか、予防ワクチンに関する情報を提供している。

 PCサイト:http://35-rota.jp/

 携帯サイト:http://35-rota.jp/m/

 子ども罹患したさいの家族の負担などをマンガで分かりやすく紹介したページ「とある家庭のロタウイルス胃腸炎」や、実際に子どもがロタウイルス胃腸炎に罹ったお母さんの声なども掲載している。


止めてよい下痢・悪い下痢

 夏は食中毒の季節。

 かつては腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌が三大食中毒の原因といわれていた。

 近年はカンピロバクター菌やO157が幅をきかせている。

 先ごろも北海道の高齢者施設でO157の集団感染が報じられた。

 要注意食品は──、

 腸炎ビブリオは海産魚介類など、

 黄色ブドウ球菌は食品全般、

 サルモネラ菌は生卵や肉など、

 カンピロバクター菌は鶏、牛、豚などの肉。

 病原性大腸菌の一種O157の感染源も肉が最も多く、少数ながら生野菜が疑われる例もある。

 北海道の集団感染の原因は、食品会社が製造した白菜の浅漬けだった。

 夜、腹の具合がおかしくなると、昼食べたものが当たったのでは?

 朝だと昨夜の食事に悪いものがあったのでは? と思うのが普通だが、

 腸炎ビブリオやサルモネラ菌などはかなり時間が経って菌が増殖してから症状が出る。

 だから「何か悪いものを食べませんでしたか?」

 という医師の質問は2、3日前からの食事も含んでいる。

 下痢はごくありふれた症状だが、止めてよい下痢とわるい下痢がある。

 対応を誤ると命にかかわる。

 腸管出血性大腸菌(O157など)や赤痢菌などによる下痢、

 抗生物質の投与による偽膜性大腸炎(腸内細菌のバランスがくずれて、大腸に炎症が生じ、小さい円形の膜<偽膜>ができる)による下痢、

 こうした下痢を止めると、症状がさらに悪化、病気が長引く。

 命にかかわることさえある。

 先年、大騒ぎになったO157腸炎のときの重症例は下痢止めを用いた人だった。

 生体防御医学の野本亀久雄先生は、

「コレラの下痢は別として、それ以外の下痢ならまずほとんど問題ない。下痢と嘔吐は最も単純な生体防御です」と言っておられた。

 だが、止めていい下痢は、きっちりと止めたほうがよい。

 いまとてもふえている過敏性腸症候群(IBS)による下痢も、その一つだ。

 これには「ポリフル」という薬がよく効く。

 同じような下痢の症状でも、IBSもあれば、がんもある。慢性膵炎や甲状腺の機能異常もある。ぜひ、きちんと専門医の診察を受けてほしい。


寝冷え

 寝ているときに体が冷えて、風邪をひいたり、下痢をしたりするのが、寝冷え。

 季節を問わず起こるわけだが、夏の夜は寝相がわるくなるから寝冷えしやすい。

 俳句でも夏の季語とされる。

 寝冷えすや 今宵の月の やゝ赤く 大竹孤悠

 睡眠中に体が冷やされると、体内の熱の放散を防ぐため皮膚の血管が収縮する。

 すると、血液は体の内部とくに粘膜などに集まってくるが、そこに細菌やウイルスがいると炎症が起きる。

 腸の粘膜に炎症が起きると腹が痛くなり、下痢をするし、のどに炎症が生じると咽頭炎、扁桃炎になり、熱やせきが出る。

 むろん大人でも寝方しだいで寝冷えする。

 このごろは〃エアコン寝冷え〃がふえている。

 寝冷えを防ぐには、まず体を冷やさないこと。

 汗をかいたらすぐふく。

 汗をかかない工夫をする。

 腹巻きや腹かけもいいが、あまり厚地のものだと、汗をかいてかえって腹を冷やしてしまうし、アセモができたりもする。

 ダブダブのパジャマを着て、タオルケットをかけるくらいがよい。

 エアコンは適当な時間に切れるようタイマーをセットして寝よう。


肝臓の火を消せ!

 一面にひろがり咲いた204の聖なる火の花が、その茎を高く伸ばしながらひとつに集まり、天をも焦がすように大きく燃え上がった。
 ...............。

 全世界的スポーツの祭典の幕が開いた、きょう7月28日は、「第1回日本肝炎デー」でもある。

 WHO(世界保健機構)が、世界的レベルでのウイルス肝炎のまん延防止と、感染予防の推進などを目的に、B型肝炎ウイルスの発見者、バルーク・ブラムバーグの誕生日のこの日を、「World Hepatitis Day(世界肝炎 デー)」と定めたのは、2010年。

 世界のほうは「第3回」になるわけだ。

 ことしのテーマは、「This is hepatitis(これは肝炎である)」、
 スローガンは、「Its closer than you think(それはあなたが思うよりも近い)」。

 記念すべき「第1回日本肝炎デー」に合わせて、世界肝炎連盟の会長、チャールズ・ゴア氏が来日した。

 ゴア氏自身、C型肝炎に罹患した経験をもつ。

 本年は、WHO加盟の約200ヵ国の中から世界肝炎デーに活動する場を日本に定めた。

 滞在中は、超党派の国会議員向けの勉強会、一般市民の啓発イベント、患者会との懇談会、肝炎の新薬を研究・開発している企業との意見交換会、小宮山厚生労働大臣とのイベント参加など一連の行事が予定されている。

 この体のなかの〝炎〟は、燃え盛るまえに消し止めなければならない。

 肝炎のABC

 肝炎の原因になる5種類のウイルス──A、B、C、D、E──のうち、日本人に特に縁の深いのはA型とB型とC型だ。

 A型は口からうつる消化器伝染病の一種。

 一度かかれば免疫ができて二度とかからない。

 昔は数年おきに流行し、流行性肝炎と呼ばれたが、今は激減した。

 発展途上国への旅行で感染する例がままみられる。

 抗体を持ってない人は、旅行前に予防ワクチンの接種を受けるとよい。

 B型肝炎ウイルスは、血液、体液を介して感染する。

 ウイルスが体に居ついてしまう持続感染(キャリア)と、急性肝炎で治ってしまうものとがある。

 出生時や乳幼児期にうつるとキャリアになりやすいが、免疫機構が正常な成人では、A型と同じように一過性の感染で済む。

 ワクチンと免疫グロブリンによる予防が、1986年から始まり、今はもうキャリアになる子どもはほとんどいない。

 数十年後にはB型の慢性肝炎、B型の肝硬変、B型の肝がんは消滅するだろう。

 残るはC型肝炎だが、これの多くは大人になってからの感染で、60~70%がキャリアになり、肝硬変、肝がんに進む人がいる。

 国民的肝炎

 毎年約3万4000人が肝臓がんで亡くなっている。

 その原因の8割がC型肝炎、1割がB型肝炎だ。どちらも血液を介して感染する。

 B型は、出生時や乳幼児期の母子感染と、昔の集団予防接種での注射針の使い回しなど、医療行為による感染が多かった。

 C型は、血液から作った薬や輸血などによって広がった。

 俳優の渡辺謙さんも、1989年に発症した白血病の治療で輸血を受けたさい、C型肝炎に感染したと、自著『誰? WHO AM I?』(ブックマン社)の中に書いている。

 大人になってから感染したB型は慢性化しないが、C型は慢性肝炎になる。

 患者・持続感染者は、B型100万人以上、C型150万人以上とみられる。

 国民病といってもいいだろう。

 慢性肝炎は自覚症状がほとんどなく、感染に気づいてない人も多い。

 治療法は劇的に進歩。

 インターフェロンを改良したペグイントロンと抗ウイルス薬リバビリンの併用による完治例が増えている。

 渡辺さんもこの治療法によって「非常にいい状態をキープしている」そうだ。

 お知らせ。

 出産や手術における大量出血などのさいの、特定の血液製剤の投与によるC型肝炎ウイルス感染者への給付金のしくみがある。

 請求手続は、2013年1月15日まで。

 詳しくは、厚生労働省HPまたは相談窓口。

 電話 0120-509-002  (平日9時30分~18時)



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