暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

はじめにひとこと─

 あるいは、ご愛読いただいていた人もおられるかもしれない。

 私は、1986年(新聞によっては2000年前後)以来、地方新聞10数紙に「健康歳時記」(あるいは「健康日記」など)というタイトルのコラムを毎日(あるいは週1~2回)書き続けてきた。

 それが、記事を配信していた通信社の事情(東日本大震災の被災地の新聞3紙への配信が中止になったため、経費面での採算がとれなくなった)で、中止されてしまった。

 未曾有の大津波に小さなコラムがあっさり押し流されてしまった案配だ。ーーいや、それがそうではなかったことが、その後、判明した。

(事実は「なんやらかんやら日録」中の 「G芸通信社への手紙」などに詳述した)。

 やっているときは「しんどいなあ。そろそろ止めたいなあ」と思うこともあったが、いざ無くなると、なぜか妙に寂しい。

 日常生活の歯車が一つ欠けたような感じさえする。

 なにかやってないと気持ちが落ち着かない貧乏性なのである。

 そんなわけで、同じ形式の記事をネット上で書き続けることにした。

 限定的な地域の新聞購読者だけではなく、全国の多くの人に読んでいただければ……という願いもこめて。

 新聞紙面ではスペースの制限(1回450字)があり、説明不足になることも多かったが、ここではその点の融通も利くのが、ありがたい。

 題して「健康1日1話」、ご愛読いただければうれしいです。

 2011年 夏       丸山寛之

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便秘と下剤に関する誤解


サマセット・モームの『作家の手帳』のなかに下のような一節を見つけた。

<産婦人科学の教授が、その講義のはじめに言った。

「諸君、女とは、一日に一度ミクチュレート(放尿)し、一週に一度デフィケート(排便)し、一月に一度メンスツルエート(通経)し、一年に一度パーテュレート(出産)し、そうして機会あるときはいつでもコピュレート(交尾)する動物である」

 ぼくは均整のとれた、しゃれた文章だと思う。>(中村佐喜子訳=新潮文庫)

大いにためらいながら引き写したが、手帳にこの文言を記した1894年、モームはロンドンの医学校の3年生だった。

女性のみなさま、時代の古さと作家の若さに免じて、大々的セクハラをお許しください。


さて、本論。

冗談半分とはいえ、「1日に1度の放尿」はいくらなんでもあまりにも少なすぎる。

いったいに女性はそれを我慢しがちで、そのため膀胱炎などの尿路感染症を起こしやすい。

で、そうした病気はチャスティティ・ディジーズ(慎み深いための病気)と呼ばれる。

起きているときは2~3時間に1回、膀胱をカラッポにするのが、健康上のだいじな心がけである。

「1週に1度の排便」というのも、少ない。

便秘は気分的にうっとうしいだけでなく、体にもよくない。

便秘と不眠は、老人の二大愁訴といわれるが、若い人にもけっこう多い。

厚生労働省の国民健康調査によれば、便秘に悩む人は660万人、それを隠している人や自覚のない人を含めると、1000万人を超えるのでは...と推測される。

10後半から30代前半の女性に最も多く、40~50%を占めている。

便秘には「何日間排便がなければ便秘である」といった明確な定義はない。

一般的には、排便が週に1回程度だったり、薬がないと排便できなかったりするような状態だと便秘、と考えられている。

毎日排便しないといけないと思っている人もいるようだが、3日に1度でもそのあとスッキリするのであれば問題ない。

毎日出ていても、スッキリしないとか、ガスがたまっておなかが張るなど、不快症状があるようだと、ちと問題あり。

食物繊維や水分をバランスよくとると、便のかさがふえたり、軟らかくなったりして、出やすくなる。

適度な運動─とくにゴルフやテニス、ラジオ体操など体をひねる運動―も効果的だ。

しかし、糞闘努力の甲斐もなく、ウンに見放される日が続くと、下剤に頼りたくなる。


ところが、その下剤の乱用が便秘をいっそう悪化させてしまう。

下剤は「出なくて苦しい」状態を一時的に改善するもので、便秘そのものを治す薬ではない。

どうにも苦しいときに薬を使うのはかまわないが、下剤を使うことに慣れると、便意を感じて、トイレに行き、排便するという腸のリズムが失われる。

下剤はあくまでも急場の対処法、一時的使用を原則とすべき薬だ。

市販の下剤のうち最も種類が多いアロエやセンナ、大黄が成分として配合されている「アントラキノン系下剤」は、大腸を刺激することによって便意を生じさせる。

長期使用で効きがわるくなったり、大腸の自発的な動きが弱ったりする欠点がある。

大腸の粘膜が黒ずむ大腸メラノーシス(大腸黒皮症)も発生しやすくなる。

アロエ、センナ、大黄は、自然の成分の生薬なので安心感があるが、長期連用は控えたほうがよい。

だが便秘に詳しくない先生にかかると、下剤の大半を占めるアントラキノン系下剤を処方されることが多い。

便秘の名医、松生恒夫・松生クリニック院長は、漢方薬を下剤として選ぶさい、大黄などの含有量はごく少量で、効果が得られる「防風通聖散」を第一選択にしているという。

2012年、便秘治療薬としては約30年ぶりに発売された「アミティーザ」は、小腸に作用し、便に含まれる水分をふやし、便を軟らかく移動しやすくする。

慢性便秘に広く効果があり、長く飲んでも効きがわるくなる心配が少ない。

便秘を正しく理解し、根本的に治したいと思われるなら、松生恒夫著『排便力をつけて便秘を治す本』(マキノ出版刊)のご一読をお勧めしたい。

睡眠不足は肥満も招く!


「春は眠くなる。猫は鼠(ねずみ)を捕る事を忘れ、人は借金のある事を忘れる。時には自分の魂の居所さへ忘れて正体なくなる」

ご存じ、夏目漱石「草枕」の一節だ。

春に眠くなるわけは、気候変化(寒暖の差)の影響で―、

①自律神経のバランスが崩れる。

②ホルモン分泌が乱れる。

③新陳代謝が盛んになり、ビタミンB1が不足する。

─など諸説ある。

それらがこもごも相まって疲労感を増し、眠い、だるい、に結びつくのだろう。

中国のことわざに「春困秋乏」というのがある。

「春は眠くてけだるく、秋は疲れやすい」の意味だという。

朝寝せり孟浩然を始祖として  水原秋桜子

「春眠暁を覚えず」と詠んだ孟浩然(もうこうねん)は、ざっと1300年前、盛唐の詩人だ。

人間の体のしくみが1000年やそこらではすこしも変わるものではないことを教えてくれる。

そこへもってきて、24時間型社会の現代人の睡眠時間は短くなるばかりで、春のみならず年中眠い。

日本人の平均睡眠時間は7~8時間、サラリーマンの週日のそれは6~7時間。寝不足が常態化している。

寝不足の朝は頭も体もしゃきっとしない。それが何日も続けば体をこわす。

睡眠不足は栄養失調や運動不足と同じように─いや、あるいはそれ以上に大きな問題だ。


「睡眠時間と生活習慣病のリスク」を調べたいくつかの文献によると、睡眠不眠の中年の男性は、そうでない同年の男性に比べて、4年後の高血圧のリスクが約2倍、8年後の糖尿病のリスクが約2~3倍、12年後には約4.8倍と、睡眠不足が続けば続くほどリスクが高くなっている。

肥満の発症と睡眠時間の変化との関係性を調べた研究データをみると、睡眠時間の短い人ほど肥満の発症率が高い。

なぜ、そんなことになるのか?

睡眠不足だと、インスリン抵抗性が低下し、食欲にかかわるレプチンとかグレリンといったホルモンの分泌がアンバランスになるためだという。

インスリン抵抗性とは、糖質を処理するインスリンの作用─インスリンの「効き具合」のこと。

レプチンは、物を食べておなかがいっぱいになってくると、脂肪から分泌されるホルモンで、脳の視床下部にある摂食中枢に「満腹」のサインを送る。

グレリンは、胃や十二指腸から分泌されるホルモンで、「空腹」のサインを送って、食欲を亢進させる。

睡眠時間を短くすると、レプチンの分泌はへり、グレリンの分泌がふえることがわかっている。

つまり睡眠不足だと、糖質を処理するインスリンの効力が落ちるうえ、満腹のサインは出にくくなり、空腹のサインが出やすくなる。

寝不足の日は食欲がないように思われがちだが、実際は反対で、食欲(特に甘い物への欲求)が亢進し、肥満に直結しやすいことが実験的に確かめられている。

また、睡眠時間が短い人は欠食が多い、喫煙率が高い、寝酒をすると睡眠がかえって障害される─など、睡眠は、さまざまな生活習慣と密接に関係している。

これまで生活習慣病の予防は、食事、運動、酒、たばこ―の四つの生活習慣を主として対策が進められてきたが、睡眠が五つ目の生活習慣として非常に重要であることを示すエビデンス(医学的証拠)が集積されつつある。

人間は一生の3分の1近くは眠って過ごすわけだから、これが生活習慣病に無関係であるはずがない。

睡眠習慣は、酒やたばこと違って、特定の人だけではなく、すべての人にかかわる生活習慣だ。

元気に長生きするためには睡眠を含めた包括的な健康づくりが大切なのである。

あってはならぬ「過労死」にしても、煎じつめると「睡眠不足死」といえるのではないか。

よく眠り、よく働こう。

ガスの医学「屁一つは薬千服」

屁一つは薬千服

あをによし寧楽(なら)の京師(みやこ)は咲く花の薫(にほ)ふがごとく今盛りなり
    小野老朝臣(おののおゆのあそみ)

『万葉集』巻三に収められたこの有名な歌が「おなら」の語源だという説があり、花の季節にはつい思い出してしまう。もちろん俗説である。

ほんとうは「鳴らす」に接頭語の「お」がついたもの、と辞書には記されてある。

「漢(から)にては放屁(ほうひ)といい、上方にては屁(へ)をこくといい、関東にてはひるといい、女中はすべておならという。その言葉は異なれども、鳴ると臭きは同じことなり」

と、風来山人こと平賀源内は『放屁論』のなかで言っている。

しかし、数あるなかには、鳴らないモノもあれば、そんなに臭くないモノもあるのは、ご存じのとおりである。

自家製のモノは、その当人にはむしろ芳香である。

ともあれ、普通に出ている分にはどのように鳴ろうが、どれほど臭かろうが、心配はいらない。

どれくらいが「普通」かといえば、1回量50~500cc、1日量100~2800cc、と、NASA(米航空宇宙局)のデータにはあるそうだ。

風来山人は、

「プッと鳴るもの上品にしてその形円く、ブウと鳴るもの中品にしてその形いびつなり。スーとすかすもの下品にて細長くして少しひらたし」(『放屁論』)といっているが、ブーでもスーでも1日2~10回程度だったら通常の発射回数としていいのではないか。

もしガスのなかに有毒成分が含まれていたりすると、密閉空間の宇宙船内では重大なトラブルが発生しかねない。

で、NASAはおならの研究を徹底的に行った。

結果、おならの含有成分は約400種類、人間を死に至らしめるような有毒成分は含まれてないことが確認された。

「屁一つは薬千服」と、ことわざが教えているように健全?な一発は、健康な胃腸と肛門の証明である。

だが小さなガス漏れが、大事故の前ぶれであったりするように、おならの背後に思わぬ病気が隠れていることもある。

臭いガスが頻繁に出る(発生亢進)、ガスがたまって腹が張る(吸収障害)、ガスが出にくく、出るとき痛みを感じる(排泄障害)といった症状が長くつづくときは要注意、と専門医は警告している。

発生亢進は、食物の種類(サツマイモなど発酵しやすい食物や、ゴボウなど消化のわるい食物)と、消化液の分泌に関係がある。

サツマイモやゴボウなどを食べ過ぎたり、消化液の分泌が悪かったりすると、食べた物がつまでも腸内に残り、発酵や腐敗がふえ、ガスがたくさん発生する。

小腸に炎症があるときも食物の消化吸収がわるくなってガスの発生が亢進するし、肝臓病でもガスが発生しやすくなる。

肝臓病が進むと、ガス頻発期のあと腹水がたまってくる。このことをフランスの肝臓専門医は「風のち雨」と表現しているそうだ。

ガスの吸収障害は、大腸の炎症によっても起きるが、心臓病や肝硬変、便秘や低血圧が原因のこともある。

三つめの排泄障害は、大腸の運動が減退したり、大腸・直腸に癒着や狭窄などの異常がある場合、しばしばみられる。

おならが出にくいだけでなく、出るとき痛みを感じるようであれば要注意。

そのうえ大便に血がまじっていたら大腸がんの初期かもしれない。すぐ精密検査を!

なお、呑気症(どんきしょう)といって、無意識のうちに空気をたくさんのみ込むクセのせいで、ガスやゲップが多発することもある。

早食い、ガブ飲み、炭酸飲料の飲み過ぎ、口呼吸、不安、緊張、ストレスなどが原因になりやすい。

ヒステリーも呑気症を伴いがちでガス・ゲップの多発を招きやすいのだそう。ヘェー。

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