暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

はじめにひとこと─

 あるいは、ご愛読いただいていた人もおられるかもしれない。

 私は、1986年(新聞によっては2000年前後)以来、地方新聞10数紙に「健康歳時記」(あるいは「健康日記」など)というタイトルのコラムを毎日(あるいは週1~2回)書き続けてきた。

 それが、記事を配信していた通信社の事情(東日本大震災の被災地の新聞3紙への配信が中止になったため、経費面での採算がとれなくなった)で、中止されてしまった。

 未曾有の大津波に小さなコラムがあっさり押し流されてしまった案配だ。ーーいや、それがそうではなかったことが、その後、判明した。

(事実は「なんやらかんやら日録」中の 「G芸通信社への手紙」などに詳述した)。

 やっているときは「しんどいなあ。そろそろ止めたいなあ」と思うこともあったが、いざ無くなると、なぜか妙に寂しい。

 日常生活の歯車が一つ欠けたような感じさえする。

 なにかやってないと気持ちが落ち着かない貧乏性なのである。

 そんなわけで、同じ形式の記事をネット上で書き続けることにした。

 限定的な地域の新聞購読者だけではなく、全国の多くの人に読んでいただければ……という願いもこめて。

 新聞紙面ではスペースの制限(1回450字)があり、説明不足になることも多かったが、ここではその点の融通も利くのが、ありがたい。

 題して「健康1日1話」、ご愛読いただければうれしいです。

 2011年 夏       丸山寛之

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柿と酒のやや複雑な関係


師走12月、忘年会の月は、肝臓受難の月である。

「悪酔い・二日酔いを防ぐ上手な酒の飲み方」といった記事が散見される月でもある。

そんな記事にはもしかしたら、

「酒を飲む前に柿やミカンなど果物を食べておけば悪酔いしない」などと書いてあるかもしれない。

この助言、酒にある程度以上強い人に対してならホントだが、酒に弱い人に対してはウソになる。

まずいことに、そういう助言を忠実に実行しがちなのは、弱い人のほうだから、余計なことをしたばっかりに余計ひどい目に遭うことになりかねない。

「酔い覚ましには柿を食えばよい」とは、昔から言われていて、これはホントのことだ。

柿がいいのならミカンやリンゴだっていいのではないか、と思う人もあるだろう。

それもまあけっこうである。

柿やミカンやリンゴなどの果物が酔い覚ましに効いたり、悪酔いを防いだりするのは、それらに多く含まれている果糖にアルコールを分解する酵素の活性を強める働きがあり、タンニン(柿にはとくに多い)やビタミンCにはアセトアルデヒドを分解する酵素の活性を強める働きがあるからだ。

アセトアルデヒドというのは、アルコールが分解されてできる毒性の強い物質である。


体内に入った酒(アルコール)は、肝臓でまずADH(アルコール脱水素酵素)やMEOS(ミクロゾーム酸化系)という酵素によって分解されてアセトアルデヒドになる。

次に、ALDH(アルデヒド脱水素酵素)という酵素の働きで、アセトアルデヒドが無害の酢酸に変わる。

そして最後に、酢酸が炭酸ガスと水に分解されて、体から出ていき、アルコールの旅は終わる。

こう見てくると、アルコールの代謝がスムーズにいくかどうか―言い換えると、悪酔いや二日酔いをするか、しないか―は、一群の酵素の働きにかかっていることが、わかる。

一つずつ順番に見ると―、

ADHはだれもがだいたい同じように持っている。

MEOSは、ADHの補助的な働きをするのだが、アルコールを飲むことで肝臓のなかで増加し、活性が強くなる。

酒飲みのキャリアが重なるのにつれて酒に強くなる一つの理由は、この酵素が増加するからだろう。

そして三つ目のALDH。これがアルコール代謝の最も重要なカギをにぎっている酵素だ。

というのは、ALDHがその代謝を受け持つアセトアルデヒドこそ、悪酔い・二日酔いの元凶だからだ。

ALDHには1型(ALDH1)と2型(ALDH2)という二つのタイプがある。

ALDH1は、だいぶ飲んで血液中のアセトアルデヒドが高濃度になったとき、ようやく働き始める後発型の酵素である。

ALDH2は、飲み始めの低濃度のときからよく働き、アセトアルデヒドを次から次へ酢酸に分解する。

酒に強い人は、ALDHの1型も2型も両方持っている。

酒に弱い人は、1型しか持っていない。

飲み始めから働く2型がないから、酒をちょっと飲んだだけでもアセトアルデヒドがたまってしまい、顔が赤くなり、胸がドキドキしたりする。

日本人など黄色人種の半数は、ALDHの2型が遺伝的に欠損している。

つまり酒に弱い体質に生まれついている。

酒を飲むと顔が真っ赤になる症状をオリエンタル・フラッシュと呼ぶのは、そういうわけである。

―というところで柿(果物)の話に戻る。

酒を飲む前や飲んでいるときに果物を食べると、そのなかの果糖がADHの活性を強くし、アルコールを分解する働きが促進され、アセトアルデヒドがそれだけ早くできる。

ところが、そのアセトアルデヒドを次々に処理していくALDHの2型がないと、アセトアルデヒドはどんどんふえていく。

果物を食べたために悪酔いの度合いがさらにひどくなる。

実際、ALDH2の欠損者では、酒を飲む前に果糖を摂取したときと、そうでないときとでは、アセトアルデヒドの血中濃度の上昇速度が明らかに異なることが実験的に確かめられている。

だから酒に弱い人が果物を食べるのなら、酒を飲んだあと(アルコールがすっかりアセトアルデヒドに分解されたころ)だと、タンニンやビタミンCのALDHの活性を高める作用が期待できる。

酒の前の果物は人によってはNG、酒のあとの果物はだれでもグー。そういうわけです。

「胸焼けに重曹」は逆効果

牛乳を飲めばよい


焼き芋のうまい季節が到来した。

焼き芋や甘いもの、脂っこいものを食い過ぎると胸焼けがする。

このとき、重曹を一と匙、冷たい水で飲み下すと、たちまちスーッとおさまる。

子どものころ、祖母がそれをやっているのを見たことがある。

そのように「胸焼けにはソーダ」は、昔からよく知られている庶民的な健康常識だ。

だが、この「おばあさんの知恵」は、一見ホントみたいだが、ウソである。

たしかに重曹を飲むと、胸焼けの症状はたちまち解消される。

しかしその効果は一時的なものでしかない。

30分もすれば元に戻ってしまう。

なぜか?

胸焼けは、酸性の胃液が食道内に逆流するために起こる。

胃の中にアルカリ性の重曹(炭酸水素ナトリウム)が入ると、胃酸(胃液中の塩酸)と反応し、中和する。

胸焼けがしずまる。

ところが、中和によって二酸化炭素(炭酸ガス)が発生する(ゲップがでるのは、そのためだ)。

この炭酸ガスが刺激となって新たな胃酸が分泌される。

再生産された胃酸は食道へ逆流し、胸焼けが再発する。

「あれ? ソーダー、効かなかった。量が少なかった?」

と、もう一度、重曹を飲むと、また同じことがくり返される。

食道の炎症はさらに悪化する。

つまり、胸焼けの重曹服用は根本的な解消法にはならないばかりか、かえって症状を増悪させる。逆効果でしかない。

では、どうする?

牛乳を飲めばよい。

牛乳も同じように胃酸を中和するが、炭酸ガスは生じない。ゲップはでない。

細かな粒子となって胃壁に付着し、胃を保護する。

ただし、ごくごくと一気に飲むと、胃酸と一度に反応・凝固し、胃壁を保護する効果はえられない。

ゆっくり、唾液と混ざるような感じで飲むのがよい。

ところで、胸焼けにもいくつか種類がある。

焼き芋などを食べ過ぎたときの胸焼けは、糖質や脂質の過剰摂取によって胃酸の分泌促進が起こるためだ。

急いで食事をしたりしたときも、胸焼けがよく起こる。

食道の中の圧力が上がったり、食道の下部が押し広げられ、胃液が逆流しやすいからだ。

食べ物が食道内に入ると、正常では収縮波が食道にあらわれ、食べ物を胃のほうに向かって押し進める。

そうした食道の動きがうまく調節されず、収縮がくり返し起こっても先に進んでいかないことがある。

この場合も食べ物がつかえる感じと一緒に胸焼けが生じる。

高齢者ではこのような胸焼けがよくみられる。

病気の症状として起こる胸焼けも多い。

食道裂孔ヘルニア・逆流性食道炎、胃・十二指腸潰瘍、食道けいれん症などだ。

精神的ストレスによる胸焼けもある。

大きな心配事があり、ものがのどを通らないときの胸やけが、それだ。

妊娠初期にみられる胸焼けには、このような精神的な面も関係しているようだ。

胸焼けがひんぱんに起こるときは消化器内科へ―。

余談。

呑酸嘈囃。なんのことだか、おわかりですか?

『広辞苑』によると、

呑酸(どんさん)は、

「酸味のある胃液が口腔内に逆流する現象。胃酸過多症などの一症状。げっぷ」である。

嘈囃(そうそう)は、本見出しではなく、「むねやけ」の項に、

むねやけ【胸焼け・嘈囃】食道内に灼熱感の起こること。云々―。

と、空見出しとしてだけある。

―てなわけで、ゲップ、胸焼けの症状を、むかしのお医者さんは「呑酸嘈囃」とカルテに記した。

なお、同音類似語の「嘈嘈(そうそう)」は、「①声の調子のはやいさま。②声のさわがしいさま」のことである。

爪と健康の関係

爪は健康のバロメーター

爪は、1日平均0.1㍉~0.2㍉伸びる。足より手のほうが速く、老人より若者のほうが速く伸びる。

爪母(そうぼ)と呼ばれる根元の部分から爪先まで伸びるには4~6ヵ月かかる。

その間の全身の健康状態が爪の色や形にあらわれる。だから「爪は健康のバロメーター」といわれる。

いくつか、例を挙げる。

指先がふくれ、爪が指を包むように丸みを帯びる「ばち指」は、指先が太鼓のばちのように太くなることからついた名前。

なぜそうなるのか発症のしくみはわからないが、すべての指がばち指になったら肺がん、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など、肺疾患が疑われる。

原発性の肺がん患者の60%にばち指が現れるという。

ばち指は、ヒポクラテス爪、時計ガラス爪とも呼ばれる。そのような爪の変形が、肺の病気と関係があることを最初に発見した人がヒポクラテスであり、むかしの時計ガラスは中央がまるく盛り上がっていたからだ。

爪の先のほうが薄くはがれる「二枚爪」や、爪の中央がへこみ、スプーンのような形にそり返る「スプーン爪」は、貧血の可能性が大きい。

薄くはがれたり、反り返ったりするのは、貧血によって、爪に送られる鉄分と酸素が不足し、爪が薄くなり、骨のない指の横腹に加わる力を爪が支えきれなくなるためだ。

爪に横溝ができるのは、爪の発育をおさえるような刺激が、爪母に加わった証拠、つまり過去の病変を表している。

最も多いのは、腸チフス、猩紅熱(しょうこうねつ)、薬疹など、高熱のでる感染症や中毒である。

慢性の病気が一時的に悪化したときも横溝が現れる。で、爪の根元から横溝までの長さによって、障害のあった時期が推測できる。

爪が白く濁ってボロボロとはがれてくるのは爪の水虫だが、すべての爪が同時にそうなることはない。

すべての爪がほとんど同時に白く濁ってくるのは、慢性の肝臓病が疑われる。

慢性腎疾患の一つのネフローゼでは、爪に白い線が横に走る。

がんの一種の悪性黒色腫(メラノーマ)は、爪の色素沈着で始まることがある。

爪にできた黒い縦の筋の色が濃くなったり、広がったり、爪が割れてきたら、すぐ皮膚科へ─。

爪に縦のすじができるのは、皮膚のしわと同様、老化現象だ。

ところで、爪の根元のところに見える「爪半月(そうはんげつ)」が、くっきり出ているのは健康の証拠、出てないのは体のどこかに故障がある─という昔からの俗説は本当か?

答えは、ノーである。

爪半月の有無は生まれつき。高血圧症や糖尿病でも爪半月のハッキリしている人はいくらでもいる。

ただ、もともと爪半月があった人が、肺炎などの急性疾患で衰弱するとか、極度の栄養失調にかかると、爪母の細胞分裂に影響し、爪が伸びなくなり、爪半月が消えることがある。

このことから逆に「爪半月は健康の証拠」という俗説が生まれたのだろう。

だから一般論としては爪半月のあるなしを気にすることはないが、いままでハッキリ見えていた爪半月が急に消失したら問題─といえるようだ。

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