暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

はじめにひとこと─

 あるいは、ご愛読いただいていた人もおられるかもしれない。

 私は、1986年(新聞によっては2000年前後)以来、地方新聞10数紙に「健康歳時記」(あるいは「健康日記」など)というタイトルのコラムを毎日(あるいは週1~2回)書き続けてきた。

 それが、記事を配信していた通信社の事情(東日本大震災の被災地の新聞3紙への配信が中止になったため、経費面での採算がとれなくなった)で、中止されてしまった。

 未曾有の大津波に小さなコラムがあっさり押し流されてしまった案配だ。ーーいや、それがそうではなかったことが、その後、判明した。

(事実は「なんやらかんやら日録」中の 「G芸通信社への手紙」などに詳述した)。

 やっているときは「しんどいなあ。そろそろ止めたいなあ」と思うこともあったが、いざ無くなると、なぜか妙に寂しい。

 日常生活の歯車が一つ欠けたような感じさえする。

 なにかやってないと気持ちが落ち着かない貧乏性なのである。

 そんなわけで、同じ形式の記事をネット上で書き続けることにした。

 限定的な地域の新聞購読者だけではなく、全国の多くの人に読んでいただければ……という願いもこめて。

 新聞紙面ではスペースの制限(1回450字)があり、説明不足になることも多かったが、ここではその点の融通も利くのが、ありがたい。

 題して「健康1日1話」、ご愛読いただければうれしいです。

 2011年 夏       丸山寛之

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初の「アジア版大腸癌GL」

プロ野球記録の2215試合連続出場。

「鉄人」と呼ばれ、国民栄誉賞も受賞した衣笠祥雄氏(71歳)が、4月23日に亡くなった。

死因は「上行結腸がん」と報じられた。

「あ、やはり<右>だったか」と思った。

つい先日、下のようなニュースメールを読んだばかりだったからだ。

初の「アジア版大腸癌GL」で注目される"左右差

2017年11月、欧州臨床腫瘍学会アジア大会において、初の「アジア版大腸癌治療ガイドライン」が公表された。

3月22日に開かれたメディアセミナーでは、同ガイドライン(GL)策定の中心メンバーである国立がん研究センター東病院消化管内科長の吉野孝之氏、および愛知県がんセンター中央病院薬物療法部部長の室圭氏が、大腸がんの"左右差"に関する最新トピックスや、同GLが日本の実臨床に与える影響などについて解説した。

大腸がんで参考にされている三つのGLの特徴は?

吉野氏は初めに、アジア版大腸癌治療GL作成の経緯と概要について報告した。

同氏によると、大腸がん治療で参考とされているGLには、

① 大腸癌研究会(日本)が作成する「大腸癌治療GL」

② 米国25施設のがんセンターを中心に策定した全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)のGL

③ ESMO(欧州癌治療学会議)のGL―がある。

①は大腸がん治療全般について網羅的に記載されているが、改訂の頻度は数年間隔であり、薬物療法については日本で保険適用された薬剤を中心に記載している。

一方、②は年に複数回改訂されており、同GLで推奨した新薬の多くは米食品医薬局(FDA)が承認している。

③については、改訂の頻度は2~3年間隔であるが、エキスパートのコンセンサス会議を経て最新のエビデンスに基づいた内容を記載しており、①~③の中では「最もコンセンサスに踏み込んでおり、至適療法を提示する内容になっている」(吉野氏)。

① の日本の大腸癌診療GLは、どちらかというと②に近く、③ほど踏み込んだ内容になっていないのが特徴だという。

"原発部位による違い"を盛り込んだ初のアジア版GL策定へ

ESMO(欧州癌治療学会議)のGLについては、2016年に改訂版が刊行されている。

しかし、同GL作成時にエビデンスとして用いられたデータは、93%が欧米人患者を対象としたものである。

さらに、2016年版GL公表後、「大腸がんの左右差」と予後および治療効果との関連性が指摘されるようになった。

そのため、吉野氏らは転移性大腸がんの管理に関して、世界初となるアジア版大腸癌GLを策定することを2016年12月に決断。

同GL作成に当たっては、アジア各国(中国、韓国、マレーシア、シンガポール、台湾)の臨床腫瘍学会協力の下に、日本臨床腫瘍学会とESMOが主導した。

一般的にこうしたGLの策定には数年を要するが、同GLの作成は急ピッチで行われ、昨年11月に公表された。

同GLでは参考文献のうち、アジア人が著者のものが65.5%を占めている。

また、欧米人とアジア人で薬剤の治療効果には大差はないものの、有害事象の発現頻度には注意が必要なことから、アジア人で発現頻度が高い薬剤に関しては適正使用に関する記載を追加している。

さらに日本(アジア)で使用経験が多い薬剤についての記載も追加。

最新のトピックスである大腸がんの左右差(原発巣の部位による違い)を踏まえて、アジア人患者に適した治療アルゴリズムを提示しているという。


アジア版大腸癌GLを日本の臨床にどのように生かすか

次に室氏は、「アジア版大腸癌GLを日本の臨床にどのように生かすか」について解説した。

大腸癌研究会のGLは2016年版が最新版だが、同氏は同GL作成委員会の化学療法領域責任者でもある。

大腸がんの占拠部位別の罹患率は、右側が約30%、左側が約70%である。

区分別に罹患率を見ると、右側は盲腸(7%)、上行結腸(14%)、横行結腸(9%)、左側は下行結腸(5%)、S状結腸(26%)、直腸(39%)となっている。

また、大腸がんの右側と左側で臨床的な特徴に違いがあることは以前から知られている。

肛門から遠い右側では腸の内容物がまだ液状であるため、症状が出にくい。

そのため、右側で発症した大腸がんは比較的大きな腫瘍が多く、ステージも進行している例が多い。

一方、左側で発症した大腸がんは肛門に近いため、出血などの症状が確認しやすく、より早期に発見されることも多いため、比較的ステージが進行していない例が多い。

罹患率としては右側が増加傾向にあり、女性、高齢者で多いという特徴もあるという。

さらに、右側では大腸がんの悪性度が左側に比べて悪いことも知られている。

遺伝子的背景として、右側では代表的な予後不良因子とされるや遺伝子変異が多い。

加えて、大腸がんの右側と左側では遺伝子変異の分布が異なることから、薬剤の感受性に関わる因子が大きく異なることも明らかになってきた。

2016年以降、予後・薬剤効果の左右差に関する報告が相次ぐ

こうした大腸がんの左右における予後および薬剤の感受性の違いは、近年相次いで報告されている。

2016年の米国臨床腫瘍学会では、切除不能大腸がんの一次治療におけるFOLFOX/FOLFIRI療法に対する抗上皮成長因子受容体(EGFR)抗体セツキシマブまたは抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)抗体ベバシズマブの併用療法の安全性と有効性を比較した第Ⅲ相試験の探索的解析の結果が発表。

全体として原発病巣が左側の場合は右側に比べて治療成績が良く、かつ抗EGFR抗体の治療効果が高いことなどが示された。

さらに昨年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2017)では、切除不能・進行再発大腸がんに対する化学療法+ベバシズマブと化学療法+抗EGFR抗体の有効性を比較検討した6試験を用いて、原発巣の位置別に治療効果を後ろ向きに解析した統合解析の結果が示された。

この結果からも、大腸がんでは左側と右側で予後、薬剤の効果が違うことが示された。

そのため、大腸がんの左右差に関して一定のコンセンサスが得られるようになったという。


国内の大腸癌治療GLにも"左右差"を盛り込む予定

これらの背景を踏まえて、アジア版大腸癌GLではRAS遺伝子野生型であれば、左側では「2剤併用化学療法+抗EGFR抗体薬」、右側では「3剤/2剤併用化学療法+ベバシズマブ」を推奨した。

このアジア版大腸癌GLを受けて、愛知県がんセンター中央病院では現在、ステージⅣ期(切除不能)大腸がんの一次治療の治療方針として、全身状態・年齢・合併症・本人(家族)の希望に加え、RAS遺伝子の状況および原発巣の位置(右側か左側か)を総合的に勘案して治療を決定しているという。

ただし、こうした原発巣の部位を考慮した治療選択については、国内の大腸癌治療GLにはまだ記載されていないこともあり、国内の臨床医では"支持しない"との見解も存在する。

「右側原発の患者であっても抗EGFR抗体に著効した経験があるので、一概に原発巣の位置で治療を決めることはできない」といった意見もある。

そこで大腸癌研究会は、今年7月に開催される第89回同研究会で大腸がんの左右差による治療選択を盛り込んだGLの改訂案を提示し、来年1月には改訂版を刊行する予定という。

今後は各がん種でアジア版GLを作成予定

大腸がんの一次治療に関する展望として、室氏は「近い将来、遺伝子変異検査が導入される」と指摘した。

大腸がんでは患者の約 10%で変異が認められ 、同変異例では治療成績が不良かつ抗EGFR抗体薬の治療効果が期待し難いことなどが明らかになってきているためだ。

また、同氏は「間もなく一部の大腸がんには免疫チェックポイント阻害薬が臨床応用される。血液を用いた遺伝子検査の実現も近い」と展望した。

最後に、同氏は「大腸がんに端を発したアジア版GLの策定については、他のがん種にも広げていこうという動きが急速に進展している」と報告。

今年11月には、進行胃・食道がんGLのアジア版(責任者は同氏)を刊行する予定であることに加え、進行非小細胞肺がんのアジア版GLについても年内の刊行を予定している。

さらに来年には、進行膵がん、肝臓がん、胆道がんのアジア版GLを刊行。

その後、前立腺がん、リンパ腫、神経内分泌腫瘍、乳がんについても順次刊行していく予定という。

(髙田あや) Medical Tribune 2018/04/20 配信

ナッツ1日28gで心血管疾患予防

 ナッツの心血管疾患予防効果に注目が集まっている

 2013年、スペインの研究チームは、地中海食による指導介入が脂質制限食による指導介入と比較して心血管疾患を30%減少させることを示した。

 この折、地中海食指導介入群の中にさらに2群が設定され、1群には地中海食を摂取しつつ1週間に1㍑のオリーブ油の使用が求められ、もう1群には1日30㌘のナッツの摂取が求められた。

 オリーブ油群、ナッツ群ともに脂質制限食群に比べ心血管疾患の発症を有意に抑制した。

 正直、私はどうあがいても1週間に1㍑のオリーブ油は使いこなせないが、1日30㌘のナッツであれば摂取できる。

 このときから、私はナッツ摂取に関心を持つようになったのだが、実は同じ2013年に早速ナッツ摂取と総死亡率との負の相関、翌2014年にはナッツ摂取と心血管疾患発症との負の相関が示された。

 この二つの観察研究は、いずれも米・ハーバード大学公衆衛生学栄養学部門が報告していたが、前者はNurses' Health StudyとHealth Professionals Follow-Up Studyという同大学が実施しているコホート研究の解析であり、後者はそれらも含めたコホート研究のメタ解析であった。

 今回、同大学が実施している三つのコホート研究の検討があらためて行われ、ナッツ摂取と心血管疾患の発症がやはり負の相関関係にあることが報告された。

 力強いタイトルのeditorial (J Am Coll Cardiol 2017;70:2533-2535)も含めてご紹介したい。

 研究のポイント1: 3コホートでナッツ摂取と心血管疾患の相関を検討

 本研究で解析されたコホート研究は以下の三つである。

・Nurses' Health Study(NHS:7万6,364人、女性、1980~2012年のデータ)

・Nurses' Health Study Ⅱ(NHSⅡ:9万2,946人、女性、1991~2013年のデータ)

・Health Professionals Follow-Up Study(HPFS:4万1,526人、男性、1986~2012年のデータ)

 これらはいずれも世界的に有名なコホート研究であり、これまでにも数多くの論文を出しているが、念のため、簡単にご紹介する。

 NHSは1976年に開始され、30~55歳の女性看護師12万1,700人を登録したコホート研究である。

 NHSⅡは1989年に設立され、25~42歳の女性看護師11万6,671人を登録したコホート研究である。

 HPFSは1986年に開始され、40~75歳の男性医療従事者5万1,529人を登録したコホート研究である。

 いずれも登録から2年ごとに生活習慣や健康状態についてのアンケートがなされている。

 本研究では、登録の時点で心血管疾患やがんの既往がある人、ナッツ摂取の状況についての情報を提供しなかった人、食事摂取記録の記載に漏れが多い人、エネルギー摂取が過少の人(男性<800kcal/日、女性<600kcal/日)、エネルギー摂取が過剰の人(男性>4,200kcal/日、女性>3,500kcal/日)を除外し、NHSの7万6,364人、NHSⅡの9万2,946人、HPFSの4万1,526人を解析対象とした。

 食習慣アンケートにおけるナッツ摂取についての質問は28gを1サービングと定義し、以下の中から選択することになっていた。

 サービング=食べ物や飲み物の平均化した単位。例、パン1枚、ナッツ28㌘は1サービング。

 1.ほとんど摂取しない

 2.月に1~3サービング

 3.週に1サービング

 4.週に2~4サービング

 5.週に5~6サービング

 6.日に1サービング

 7.日に2~3サービング

 8.日に4~6サービング

 9.日に7サービング以上

 また1998年以降には、それまでの総ナッツ摂取量に変えて、クルミ、ピーナツ、ピーナツバター、その他のナッツの摂取量を調査することとし、それらの合算量を総ナッツ摂取量とした。

 実際の解析においては、暦年のナッツ摂取量を基に、以下の5群にまとめて解析した。

 第一群:ほとんど摂取しない(0.00サービング/日)

 第二群:週に1サービング未満(0.01~0.09サービング/日)

 第三群:週に1サービング(0.10~0.19サービング/日)

 第四群:週に2~4サービング(0.20~0.59サービング/日)
 
 第五群:週に5サービング以上(0.60サービング/日以上)

 心血管疾患の定義として、主要アウトカムには心筋梗塞、脳卒中、心血管死の複合エンドポイントをおいた。

 また、複合エンドポイントのそれぞれの構成要素〔致死性・非致死性心筋梗塞、致死性・非致死性脳卒中(虚血性、出血性)〕を二次エンドポイントとした。これらのエンドポイントがアンケ―ト上で回答された場合に、本人(本人が亡くなった場合には家族)にカルテ開示の承諾を求め、エンドポイントが生じた月とエンドポイントの診断内容を確認した。

 研究のポイント2:ナッツ摂取量と心血管疾患の発症に負の相関

 NHSで28.7年、NHSⅡで21.5年、HPFSで22.5年(計506万3,439人・年)の平均追跡期間中に、8,390人の心筋梗塞、5,910人の脳卒中、計1万4,136人の心血管疾患の発症があった。

 そこで、主要アウトカムの発症リスクを各群で見てみると、ナッツ摂取が多い方が心血管疾患の発症リスクが少なかった。

 これは年齢で調整しても、多変量(年齢、人種、BMI、身体活動量、エネルギー摂取量、喫煙状況、ビタミン剤内服の有無、アスピリン使用の有無、家族歴、既往歴、エネルギー摂取量、閉経状況、飲酒、野菜摂取、肉摂取)で調整しても同様であった。

 こうしたナッツ摂取量と心血管疾患との負の相関は、一つひとつの心血管イベントについて検討した場合、心筋梗塞に対しては認められたが、脳卒中に対しては認められなかった。

 ナッツの種類による相違を検討したところ、心筋梗塞に対してはいずれのナッツも発症リスクの減少につながっており、脳卒中に対しては特にクルミが(3コホートの合計ではピーナツも)発症リスクの減少につながっていた。

 今回の結果を別な言葉で表現すると、「ナッツを28㌘食べるごとに心血管疾患が全体として6%ずつ減少し、心筋梗塞としては13%ずつ減少する」ということになるらしい。

 私の考察:早速今日の夜食にナッツを食べよう
 
 今回のデータ解析結果からは、なんとナッツを1サービング(28㌘)摂取するごとに13%もの心筋梗塞リスクの減少が得られるという。

 もちろん、これはあくまでも観察研究から得られた解析結果にすぎない。

 栄養学では、観察研究のデータと介入試験のデータに乖離が生じることがあり、観察研究のデータだけをうのみにして因果関係を推し量ることはできない。

 しかし、PREDIMED試験で既に介入試験の結果と一致しているだけに、因果関係はあるのではなかろうか。

 1サービングで13%もの心筋梗塞リスクの減少が得られるというのは大げさな気もするが、負の関連があるのは間違いように思う。

 この論文に対してJ Am Coll Caridol誌は、PREDIMED試験のメンバーでもある、スペイン・バルセロナの肥満栄養病態生理研究所のEmilio Ros氏にeditorial commentを委ね、

「ナッツを食べよ!されば生きながらえん!!(Eat Nuts, Live Longer)」という題名の論文を掲載している。

 Ros氏も既存のデータとの一致から、ナッツ摂取による心血管疾患保護への因果関係が強く示唆されるとし、αリノレン酸(植物性ω3多価不飽和脂肪酸。特にクルミに多いとされる)が特に良い効果をもたらし、故にクルミは脳卒中に対しても保護的に働くのではないかとしている。

 また、クルミと同様、ピーナツも脳卒中を含めて保護的であることにも注目しつつ、ピーナツバターではそうした作用がないことから、「おそらく、塩分や糖質が添加されるためにナッツのメリットが消失してしまっているのであろう」としている。

 Ros氏の結論は、"ナッツは天然の健康カプセルと見なせるかもしれない"である。

 1週間に1㍑のオリーブ油の摂取は難しい私ではあるが、1日に28㌘のナッツなら可能だ。

 早速今日の夜食にナッツを食べようと思う。

 =山田 悟 北里大学北里研究所病院糖尿病センター長

花粉症克服術―この春、花粉に負けないための最新情報 

 ことしもまた、黄色い花粉の襲来におびやかされる季節がやってきた。


 スギの花粉は直径30ミクロン(0・03ミリ)という微粒子。

 これが春風に乗って数十キロも飛び、全国に約1300万人もいるというスギ花粉症患者を泣かせる。

 そのために使われる医療費や労働効率低下の経済的損失は年間約2860億円になると、科学技術庁(当時)が2000年に発表している。

 花粉症とは、スギなどの花粉によってひき起こされる眼や鼻のアレルギー(異常過敏症)である。

 アレルギーの原因となる物質を抗原またはアレルゲンというが、体の中に抗原(スギ花粉症ではスギの花粉)が侵入すると、それに対抗する物質=抗体が体内につくられる。

 抗体は、肥満細胞と呼ばれる細胞に乗って出撃し、抗原を捕らえる。

 このとき、肥満細胞から放出されるヒスタミンなどの物質が、神経を刺激し、その刺激でくしゃみ、鼻水、鼻づまり、眼のかゆみといった花粉症の四大症状が起こる―というのが花粉症のしくみである。

 花粉症といえば、まずスギだが、ヒノキ、シラカバ、ブタクサ、カモガヤ、ヨモギなどの花粉などにアレルギー反応を起こす人もある。

 スギ花粉症患者の60%はヒノキ花粉症ももっているといわれる。

 ヒノキの花粉は、スギ花粉の飛散が終りかける4月初旬から飛び始める。

 スギ・ヒノキ花粉症の人は、2月初めから5月の連休明けのころまで都合3ヵ月間も悩まされることになるわけだ。

 ご同情にたえないが、一説によれば、アレルギー患者にはガンが少ないそうである。

 ガンよりはましだと思えば多少、辛さも薄らぐのではないだろうか。

 それにしても、スギの花粉もそのほかの花粉も昔から飛んでいたはずだが、日本には花粉症はないといわれていた。

 日本で最初に報告された花粉症は、東大の荒木英斉医師によるブタクサ花粉症で、1961年のことである。

 続いて64年に東京医歯大の斎藤洋三医師が、出向先の日光の診療所でスギ花粉症を見つけて報告した。

 だが当時の有病率はまだとても低く、70年代半ばの調査でも数%以下でしかなかった。

 それが急にふえたのが79年で、3年後の82年に非常に大量の花粉が飛び、患者数が激増、社会的現象になった。

 当初、それはスギの花粉量がふえたせいだといわれた。

 しかし、近年、患者数はふえる一方だけれども、スギの植林面積はほとんどふえてない。花粉量は横ばいか、むしろへり気味なのである。

 では、なぜ、スギ花粉症患者はふえているのか? 

 原因については諸説あるが、一つを挙げると、日本人の体質の変化だ。

 たんぱく質に富む食事をするようになったので、抗体がつくられやすくなり、花粉症のみならずアトピー性皮膚炎やぜんそくなどアレルギー性の病気が増加したという説である。

 今や成人の5人に1人が花粉症で、発病はしてないが、約40%がスギ花粉の抗体保有者といわれる。

 この、いわば花粉症予備群の人たちは、なにかのきっかけがあれば発症するわけで、そのきっかけはなにかといえば、大気汚染や都会生活のストレスなどである。

 思春期や妊娠・出産もきっかけになる。

 もう一つ、花粉の大量飛散の年には、その年初めて発症する人が多いし、すでに発病していた人は、症状が強くなる。

 今年のスギ・ヒノキの花粉は、平年の数倍と、日本気象協会は予測している。

 花粉がたくさん飛んだ翌年は、患者がどっとふえるのが通例だから、去年までは大丈夫だった人も、今年は油断できない。おどかすわけではないが。

 ―というところで、この春、涙と鼻水の日々をうまく乗り切るにはどうしたらいいか。スギ花粉症の発見者、斎藤洋三・前東京医歯大助教授の教示をご紹介しよう。

 花粉症に克つには、メディカルケア(医師や薬剤師による治療)と、セルフケア(自己治療)を車の両輪のごとく並行して行う必要がある。

 メディカルケアは、発症を抑える予防薬と即効性のある対症薬の二本立てになる。

 予防薬は、抗アレルギー薬といわれるもので、即効性はない。毎日服用して2週間後あたりから効果が出てくる。

 花粉が飛散する2~3週間前から飲み始めると、発症が予防できる。

 完全な予防はできなくても、症状を軽くすることができる。

 対症薬の主力は、抗ヒスタミン薬と鼻用の噴霧薬(局所性ステロイド薬)だ。

 ところが、抗ヒスタミン薬には中枢神経抑制作用(脳の働きを抑える作用)がある。

 飲むと頭がボーッとし、強い眠気が起こる。

 眠気は感じない人でも作業や学習の効率が低下する。

 そうした脳の働きが弱くなった状態を「インペアード・パフォーマンス」という。

 抗ヒスタミン薬によるインペアード・パフォーマンスの現れ方はアルコールよりも強いことがわかっている。

 早くいえば、抗ヒスタミン薬のほうが、酒を飲んだときよりも眠くなりやすい。

 だからアメリカの大半の州は、抗ヒスタミン薬など鎮静作用のある薬を服用したときの車の運転を禁じている。

 違反した場合の罰金は最高5000ドル(約60万円)だそうだ。

 日本にはそんな法律はないが、車の運転とか重要な会議など眠くなっては困るときは、抗ヒスタミン薬をのむのはやめて、目薬や点鼻薬だけにする―というのが、これまでの賢い患者の自衛策だった。

 しかし、先年、認可発売された新しいタイプの抗ヒスタミン薬だと、インペアード・パフォーマンスはほとんど起こらない。

 薬の成分が脳内に移行しないためだという。

 フェキソフェナジン(アレグラ錠)というこの薬を使用するには医師の処方せんが必要だ。症状の重い人はぜひ医療機関へ―。

 なお、花粉症の根本的な治療法は、抗原のエキスを少しずつ注射して体を慣らしていく減感作療法(免疫療法)しかない。

 難点は長期間の通院が必要なことだ。

 近年、手っとり早くて効果的だと普及してきたのが、鼻の粘膜をレーザー光線で焼く治療法。永久的ではないが、3、4年は効果が持続するようだ。

 セルフケアの話に移ろう。

 セルフケアの第一歩は、とにかく極力、花粉を浴びないよう心がけることである。

 毎朝、花粉情報を聞き、飛散量の多い日はなるべく外出を控え、出かけるときは、眼鏡とマスクで目と鼻を防御する。雨の日に傘をさすのと同じことである。

 花粉症専用の眼鏡(ゴーグル)もあるが、普通の眼鏡やサングラスでもかなり花粉防止効果がある。

 マスクも、花粉を通さない素材で作られたものがあるが、普通のマスクと湿らせたガーゼを併せて使えば(ガーゼを水に浸し、きつく絞ってマスクの内側にはさむ)ほぼ同様の効果が得られる。

 首すじの、服でこすれた皮膚に花粉がくっつくと炎症を起こしやすいので、スカーフかマフラーを巻く。

 コートは、花粉がつきにくい表面がスベスベした織りの細かい生地のものがよい。
 
 外から帰ったら、入り口で花粉をよく払い落として屋内に入る。

 これは花粉症の人だけでなく周囲の人全員がやらなければ意味がない。

 家の中に入ったら、すぐうがいをし、顔を洗い、手を洗うようにしよう。

 おしまいに、だいじな心がまえを一つ。

 馬場廣太郎・獨協医大/名誉教授(耳鼻咽喉科)によれば、それは「あまりデレデレしないこと」である。

「鼻の病気には自律神経がかなり関与しています。

 自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、精神的に緊張し交感神経が優位になると、それまで詰まっていた鼻が通り、クシャミなども出ません。

 反対に、緊張感がほぐれてデレッとなった副交感神経優位の状態では症状が出やすい。

 つまり、ほどよい緊張感のある生活を......という勧めです」

 思い当たる向きは反省されたし―なんて、えらそうな口が利ける柄ではありませんが。

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