暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

はじめにひとこと─

 あるいは、ご愛読いただいていた人もおられるかもしれない。

 私は、1986年(新聞によっては2000年前後)以来、地方新聞10数紙に「健康歳時記」(あるいは「健康日記」など)というタイトルのコラムを毎日(あるいは週1~2回)書き続けてきた。

 それが、記事を配信していた通信社の事情(東日本大震災の被災地の新聞3紙への配信が中止になったため、経費面での採算がとれなくなった)で、中止されてしまった。

 未曾有の大津波に小さなコラムがあっさり押し流されてしまった案配だ。ーーいや、それがそうではなかったことが、その後、判明した。

(事実は「なんやらかんやら日録」中の 「G芸通信社への手紙」などに詳述した)。

 やっているときは「しんどいなあ。そろそろ止めたいなあ」と思うこともあったが、いざ無くなると、なぜか妙に寂しい。

 日常生活の歯車が一つ欠けたような感じさえする。

 なにかやってないと気持ちが落ち着かない貧乏性なのである。

 そんなわけで、同じ形式の記事をネット上で書き続けることにした。

 限定的な地域の新聞購読者だけではなく、全国の多くの人に読んでいただければ……という願いもこめて。

 新聞紙面ではスペースの制限(1回450字)があり、説明不足になることも多かったが、ここではその点の融通も利くのが、ありがたい。

 題して「健康1日1話」、ご愛読いただければうれしいです。

 2011年 夏       丸山寛之

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「乳酸=疲労物質」は前時代的誤解

◎運動後の筋肉痛

運動などで激しく体を動かしていると、血液のなかに乳酸がふえてくる。

その現象が実験的に確かめられてわかったのは、100年も前のことである。

以来、乳酸の血中濃度が高まるのが疲労の原因―とされてきた。

「運動がある強度に達すると、乳酸がふえ始める。

エネルギーとして使う糖質が不完全燃焼するためである。

糖質の燃えカス・老廃物の乳酸が血液中に増加することが、肉体疲労の原因であり、運動後に起こる筋肉痛も乳酸蓄積が原因である」

─というのが、一昔前までの生理学の学説で、高校の保健体育の教科書にも載っていた。

乳酸=疲労物質説はよく知られた健康常識だったから、いまでもそう信じている人が少なくない。

そう言ったり、書いたりしているコメントに接することも、ままある。

だが、近年の運動生理・生化学的研究によって、乳酸=疲労物質説は完全に否定された。



◎乳酸はエネルギー源

乳酸は老廃物どころか、体の有効なエネルギー源なのだという。

エネルギーは、細胞のミトコンドリアで糖や脂肪から合成される。

このとき糖の分解によって乳酸ができる。

急激な運動をすると、糖の分解が活発化してさらに多くの乳酸ができる(乳酸の血中濃度が高まる)。

運動に用いる筋肉には、無酸素で瞬発力を生み出すが、持久力のない「速筋」と、瞬発力はないが、酸素を消費して持久力を生み出す「遅筋」がある。

乳酸をエネルギー源として利用するしくみをもつのは遅筋のほうで、乳酸の生成と酸素の供給のバランスがとれていれば、運動は楽に続けられる。

ウォーキングなどの有酸素運動がそれだ。

だが、酸素の供給が間に合わないと、使われない乳酸が血液中にふえてくる。

持久力が失われる。

一方、速筋は、糖質からエネルギーを取り出して乳酸を作りだすのに、酸素を必要としないしくみになっている。

いつでもすぐ発動できる(瞬発力を作り出す)が持久力はない。

激しい筋肉運動が長続きしないのは、そのためだ。


◎ニコニコペースのメカニズム

高血圧の運動療法は、運動強度を最大酸素摂取量の50%に保ちながら行うと、最も効果的であることが実証されている。

WHO(世界保健機関)も推奨するその「アラカワ・メソッド」について、提唱者の荒川規矩男・福岡大学医学部名誉教授はこう話している。

「体内に必要なだけ酸素があれば、運動で使われる糖分は完全燃焼し、乳酸はできません。

つまり軽い運動をやっている間は血液中の乳酸はふえないのです。

ところが、運動がある強度を超えると、急に乳酸がふえ始めます。

それが最大酸素摂取量の50%を超えたあたりなのです。

裏返せば、最大酸素摂取量の50%以下であれば、〈疲労物質〉といわれる乳酸が血液中に蓄積されず、楽に運動を続けられるわけです。私たちは、それを〈ニコニコペース〉と呼んでいます。」(『名医が治す』マキノ出版刊)

「運動が最大酸素摂取量の50%を超えると乳酸がふえ始める」のも、

「最大酸素摂取量の50%以下の運動であれば楽に運動を続けられる」のも事実だが、

それは、「疲労物質といわれる乳酸が血液中に蓄積されない」からではなく、血液中の乳酸の生成と消費がスムーズに行われているからなのである。

話はまったく逆だったのだ。

「乳酸が疲労物質なら運動後もずっと残っているはず。

でも実際は運動から1時間もすれば元のレベルに戻ってしまう。

疲労物質ではない何よりの証拠。疲労はもっと複合的な要素で起こる」

と、「乳酸代謝・運動と疲労」を研究テーマとする、八田秀雄・東京大大学院教授。


◎乳酸と乳酸菌

ちなみに、「乳酸」という名称は、牛乳などの糖質を発酵させてチーズやヨーグルトを作るさいに生じ、「酸味」をもつ物質であることに由来する。

人の体のなかでできる乳酸は、乳酸菌とは関係なく、前に記したように、細胞でエネルギーが生成されるとき、糖質が分解されて生じる。

人の体内の乳酸菌は、ご存じのとおり腸内の善玉菌の最も代表的な一つで、免疫力を高めるなどさまざまに有用なはたらきをしてくれる。

にせ水虫にだまされるな!

◎ホントの水虫は3分の2

水虫の季節。

皮膚科に駆け込む人がどっとふえているが、このさい、ハッキリ知ってほしいことは、足(ときには手)がかゆい、小さな水ぶくれができて薄皮がむける─といっても、その全部が水虫とは限らないということだ。

ことに足の裏にできたものは、だれでもすぐ水虫と考えがちだが、そんなことはない。

日本臨床皮膚科医会のメディアセミナーで聞いた話だが、「水虫です」といって来院した人の、患部の角質を採取し、顕微鏡で調べる「鏡検」を行ったところ、ホントに水虫だった人は3分の2で、3分の1は水虫ではなかった。

異汗性湿疹=汗疱(かんぽう)、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)、接触性皮膚炎その他、紛らわしい皮膚病はいくつもある。

そうした「にせ水虫」を水虫と思い込み、自己診断で水虫の薬を使うと、病気が治らないばかりか、かえって症状が悪化してしまう。


◎水虫が好きな環境

水虫の正体はカビの一種の白癬(はくせん)菌だ。

水虫の人の足からはがれ落ちた乾いた皮膚の中には、白癬菌が巣くっている。

屋内のあちこちに散らばった、その"水虫カビ"が別の人の足にくっつき、水虫をつくる。

もっとも、カビがくっついたからといって、だれでも、いつでも、すぐ水虫になるわけではない。

皮膚に傷がなければ、白癬菌が角質層に入り込むのに24時間以上かかる。

それまでに洗い流せば感染しない。

カビが繁殖するのには高温多湿の環境が必要だ。

蒸れてじめじめした状態が長く続いたとき、はじめて白癬菌はそこに根づき、水虫が発症する。

何日も風呂に入らなかったり、同じ靴下をはき続けたりすると、水虫の発症率はぐんと高くなる。

頑固な水虫もちの夫と何年も一緒に暮らしていても平気だったのに、パート勤めを始めたら水虫ができたという女性の例がある。

それまではいくら白癬菌がくっついても根づくことはなかったのだが、長時間、靴をはき続ける生活を始めたために白癬菌感染の条件が整ったというわけだ。


◎塗れば必ず治る!

昔は水虫に効く薬がなかったので、「水虫の特効薬を発明したらノーベル賞だ」といわれた。

いまはノーベル賞クラスのよく効く水虫薬がいくつもある。塗れば必ず治る。

だが、「皮膚科に行っても治らない」、「薬局で求めた薬を塗っても治らない」という人がとても多い。なぜか?

完全に治ってなくて再発したか、再感染したか、水虫ではなかったか―の、どれかだろうというのが、専門医の答えだ。

塗れば必ず治るといっても、1日1回、4週間きちんとつけないと完治しない。

2週間ぐらい塗ると、かゆみなどの自覚症状がなくなる。

そこで薬をつけるのをやめてしまうと、来年の夏、再発する。


◎民間療法全部ペケ

再感染の例も少なくない。

水虫の人のいる家庭ではそこらじゅうに白癬菌がばらまかれているし、温泉、サウナ、銭湯などの足ふきマットにも100%、白癬菌がいるからだ。

家族に水虫もちがいたら、足ふきマットやスリッパは共用しないほうがよい。

ただ、前記のように菌がくっついたからといって即、感染するわけではない。

毎日入浴して体を清潔に保てば、さほど心配はいらない。

薬局で買った薬が効かなかったのは、水虫ではない湿疹などを水虫と思い込み、水虫の薬を塗ったからだろう。

それだと治るはずがないし、薬にかぶれてかえってひどくなることもある。

市販薬にも医療用の薬と同じ成分が転用されているので、水虫だったら必ず効く。

薬局で買った薬をつけて、症状が軽快しなかったら「ニセ水虫」と断定してよい。

しかし、もし爪の水虫(爪白癬)があったら、それを治さないと、足の水虫も完治しない。爪の水虫には塗り薬が浸透しくいので、飲み薬を用いる。

爪が生え替わるまでの期間、およそ半年~1年の服薬が必要だ。

なお、水虫にもやけどと同じように「民間療法」がいっぱいある。

酢に足をつける。ニンニク、アロエ、ショウガ汁をつける。炎天下の砂浜を素足で歩く。ろうそくの滴をたらす。太陽光線に当てる。

全部ペケだ。

水の正解・誤解

水を飲もう! だが飲みすぎるな!


夏の甲子園の熱闘が続いている。

気がかりなのは熱中症だ。

水分、きちんと補給しているだろうな。


◎運動中の水分補給

昔の運動指導者は、運動中は水を飲ませなかった。

胃がだぶついて呼吸運動に影響したり、競技のリズムが狂ったり、汗を余計にかいてそれだけ疲労度が大きくなる─といった理由だった。

この考えには科学的根拠がないばかりか、非常に危険だと専門家は断言している。

汗をかいて体重の2~3%に相当する水分が失われると、循環機能に影響が出始める。

5%程度になると持久力が低下し、7%になると幻覚が現れる。

10%以上になると意識がなくなり、最も重症の熱中症(熱射病)で死ぬケースが出てくる。

運動によって失われた水分は、運動中に補給したほうが、そのあとの運動能力が向上することが、現在のスポーツ医学では証明されている。

体内の水分が足りなくなると、普通はのどの渇きを覚えるが、激しい運動中は興奮や緊張で渇きを感じないことがある。

長時間運動をするときは、あらかじめ水を飲んでおくべきだ。

朝の起き抜けにジョギングやウォーキングをする習慣の人も多いし、夏休みには早起きのラジオ体操の会も開かれる。

そんなときは必ずコップ1杯の水を飲んで、家を出よう。


◎脱水状態vs多飲頻尿

渇きを覚えたら(いや、渇きを覚える前に)水を飲もう。

夏、29℃の室内では、じっとしていても1日約3㍑(1時間124cc)も発汗する。

日盛りの道を1時間歩くと約500cc、ジョギングをすると倍の約1㍑、汗をかく。

つまりそれだけ体内から水分が失われる。

体の中の水分は、体温の調節、全身の組織への栄養と酸素の供給、組織からの老廃物の排出などの役目を果たしている。

体重の2~3%に相当する水分が失われると、体温上昇が目立ちはじめ、循環機能に影響が出る。

汗をかいたとき、それと同量の水を飲まないと、脱水状態を招き、体温が上がり、体力を消耗する。

汗をかき、尿が濃くなると、尿路結石(腎臓結石、尿管結石、膀胱結石)ができやすい。尿酸の体外への排出が悪くなるから痛風発作も起こりやすい。

半面、水、よく飲むべし─の勧めが裏目に出てしまうことがある。

お年寄りの「多飲による頻尿」だ。

頻尿を訴えて受診する人に、「排尿日誌」をつけてもらうと、1日の尿量が3000~4000㍉㍑ということがある。

「これは明らかに水分の取り過ぎによる多尿で、これが頻尿や過活動膀胱の症状となって現れてくるのです」と、鈴木康之・東京慈恵医大泌尿器科診療副部長は話している。

過活動膀胱というのは、さまざまな要因によって膀胱が過敏になって、排尿の回数が異常にふえる頻尿、尿意を感じたとたん漏れそうになる尿意切迫感、漏らしてしまう失禁などが起こる病気で、高齢者にとても多い。

その一因が、水の飲み過ぎだという。

「お年寄りがたくさんの水分を取るのは、決して悪いことではありません。お年寄りは、のどの渇きを感じにくく、体内の水分が足りなくなっているのに、水分をとるのを忘れるので、脱水が進みやすいからです。

夏場、家の中にいても熱中症になるお年寄りが多いのは、このためです。脱水を防ぐためにも積極的に水分は取るべきでしょう。

でも、だからといって、頻尿で困るほどたくさん取る必要はありません。

また、よくあるのが、かかりつけの内科医から、『脳梗塞の予防のため、水分をたくさん取るように』といわれ、水を飲みすぎるパターンです。

『寝る前に水分を』という助言を拡大解釈して、おなかがガボガボになるまで飲むのは賢い選択ではありません。

健康のためには何事も中庸が大切。水分もほどほどに─を心がけましょう」


注意! 人によっては水が「毒」になることもある。たとえば腎炎の急性期とか、人工透析を受けている人などは、水分の摂取は厳重に制限される。ご病人は主治医の注意をよく聞いてください。

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