暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

はじめにひとこと─

 あるいは、ご愛読いただいていた人もおられるかもしれない。

 私は、1986年(新聞によっては2000年前後)以来、地方新聞10数紙に「健康歳時記」(あるいは「健康日記」など)というタイトルのコラムを毎日(あるいは週1~2回)書き続けてきた。

 それが、記事を配信していた通信社の事情(東日本大震災の被災地の新聞3紙への配信が中止になったため、経費面での採算がとれなくなった)で、中止されてしまった。

 未曾有の大津波に小さなコラムがあっさり押し流されてしまった案配だ。ーーいや、それがそうではなかったことが、その後、判明した。

(事実は「なんやらかんやら日録」中の 「G芸通信社への手紙」などに詳述した)。

 やっているときは「しんどいなあ。そろそろ止めたいなあ」と思うこともあったが、いざ無くなると、なぜか妙に寂しい。

 日常生活の歯車が一つ欠けたような感じさえする。

 なにかやってないと気持ちが落ち着かない貧乏性なのである。

 そんなわけで、同じ形式の記事をネット上で書き続けることにした。

 限定的な地域の新聞購読者だけではなく、全国の多くの人に読んでいただければ……という願いもこめて。

 新聞紙面ではスペースの制限(1回450字)があり、説明不足になることも多かったが、ここではその点の融通も利くのが、ありがたい。

 題して「健康1日1話」、ご愛読いただければうれしいです。

 2011年 夏       丸山寛之

スポンサードリンク

コレステロール「善玉」「悪玉」の真偽


ごく最近まで、ある種のコレステロールは世界中で忌み嫌われた健康の大敵だった。

コレステロールにはいくつか種類があるが、そのなかの一つ「LDL」は、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞の危険を高める「悪玉」と決めつけられ、別の一つ「HDL」は、反対に動脈硬化を防ぐ役目をする「善玉」と持ち上げられた。

これが長い間の世界の常識であり、血中コレステロール値の「悪玉は低く、善玉は高く」が健康管理の最も重要な心得の一つだった。

だが、このところ、悪玉が高くても、善玉が低くても、全然気にしなくてもよい、というようなことになってきた。それはなぜか?

その前に、LDLとは? HDLとは? についてちょっと─。

コレステロールは、脂肪の一種だからそのままでは"水と油"で血液には溶けない。

そのため血液中ではたんぱく質と結合した形になっていて、その結合の形を「リポたんぱく」という(リポ=脂肪)。

シュークリームにたとえると、クリームに当たるのがコレステロール、皮がたんぱく質、というわけだ。

代表的なリポたんぱくにはカイロミクロン、VLDL(超低比重リポたんぱく)、LDL(低比重リポたんぱく)、HDL(高比重リポたんぱく)の4種類がある。

カイロミクロンは比重が最も小さく、軽くて大きい。VLDLはそれに次いで比重が小さい。

この二つのリポたんぱくは、形が大きくて細胞の中に入ることができないので、肥満などには関係するが、血中コレステロールについては直接問題にはならない。

LDLは比重が小さく中型で、HDLは比重が大きくて小型である。

コレステロールの多くは肝臓でつくられるが、LDLは肝臓から組織へコレステロールを運び、一方、HDLは組織からコレステロールを引き出して肝臓に持ち帰る。

LDLが多ければ多いほど血管の壁にコレステロールがたまり、動脈硬化が進み、HDLはそれとは逆のはたらきをする(と、考えられていた)。

で、「悪玉」のLDLをふやさないため、バターや肉の脂身、卵の黄身などコレステロールの多いものを避けるのが、健康的食生活の絶対条件とされた。

厚生労働省が定めたコレステロールの摂取基準値は、18歳以上の男性は1日当たり750㍉㌘未満、女性は600㍉㌘未満。

心臓病が断トツに多いアメリカの食事指針はもっとずっとシビアで1日300㍉㌘未満だった。それがここへきて大きく様がわりした。

2015年5月、厚労省は5年ぶりに改定した「食事摂取基準」で、コレステロールの基準を撤廃した。

日本動脈硬化学会は、「食事で体内のコレステロール値は大きく変わらない。食事からコレステロールを多くとれば、体内で作る量を減らすなどの調整するしくみがある」と解説した。

米農務省も、「食事中のコレステロールの摂取と血中コレステロールの、明らかな関連を示すエビデンス(証拠)がない。これまで推奨してきたコレステロール摂取の制限をなくす」と発表した。

そもそもコレステロールは体の細胞を作る必要不可欠な成分である。

「コレステロールは高くてもよい。コレステロールが高いほうが長生きする」という説は20~30年前から医学界の一部では何回も出ている。それがようやく大勢を占めるようになったわけだ。

日本人の総死亡率とコレステロール値との関係をみると、コレステロール値の高いグループは総死亡率が低く、コレステロール値の低いグループのほうが総死亡率が高い。

これまではLDLそのものが動脈硬化を進めるといわれていたが、それもウソだった。

動脈硬化の直接的な原因は、酸化し変性したLDLが、血管内のマクロファージ(大食細胞)に取り込まれて死滅することであり、LDLが高いから酸化LDLがふえるのではなくて、喫煙や糖尿病がLDLを酸化させるということがわかった。

HDLは高いほどいいというのも、必ずしも正しくない。HDL値と総死亡率の関係をみると、男性でいちばん長生きしているのは40~44、ちょっと低めなくらい、女性では高くても低くても有意差はない。

以上、コレステロールの「悪玉」「善玉」説のウソ・ホントを駆け足で辿った。

詳しくは、浜崎智仁監修『コレステロールは高いほうがいい』(マキノ出版刊)を─。

「ふぐは食いたし命は惜しし」の来歴

◎フグ毒の本体はテトロドトキシン


あら何ともなや 昨日は過ぎて 河豚汁(ふくとじる)       松尾芭蕉


河豚汁(ふぐじる)の われ生きている 寝覚(ねざめ)かな   与謝蕪村


河豚汁は、ふぐの肉を実に入れたみそ汁。

江戸時代のふぐ料理はほとんどこれだったという。芭蕉も蕪村も、ふぐ刺し(テッサ)やふぐちり(テッチリ)、ふぐの空揚げの味は知らなかったわけだ。

調理法も限られ、調理の管理もきわめて不十分。

当たると命にかかわるから「鉄砲」と恐れられたご禁制の魚だったが、その美味はよく知られ、広くひそかに食されていた。


「五十にて鰒(ふぐ)の味知る一夜かな」の作者、小林一茶は、50歳になるまではおっかながって口にしなかったようだが、いったんその味を知るや、

「鰒(ふぐ)食はぬ奴には見せな不二の山」と豹変している。


明治の世になっても、命がけの一面は変わらなかったので、

夏目漱石は、「嘘(うそ)」を河豚汁にたとえて、

「その場限りで祟(たた)りがなければこれほど旨(うま)いものはない。しかし、中毒(あたっ)たが最後苦しい血も吐かねばならぬ」といっている。(小説『虞美人草』)


フグの毒は、肝臓と皮の裏の粘膜、そして、卵巣に最も多い。フグでさえやはりメスのほうが毒を余分にもってるわけだ(へへへ...)。


フグ毒の本体は、明治42(1909)年、東京衛生試験所の田原良純博士によって明らかにされた。

フグの学名テトロドンと毒のトキシンをくっつけて、その毒素を「テトロドトキシン」と名づけたのも同博士である。


テトロドトキシンは、無色・無味・無臭、その毒性は青酸カリの200倍とも500倍とも、あるいは850倍ともいわれる、すさまじい猛毒だ。

一種の神経毒で、もし当たると、早くて30分、遅くても5時間で手足がしびれ、口がきけなくなり、最後は息ができなくなって、死ぬ。


「ふぐ(河豚・鰒)は食いたし命は惜しし」

このことわざの意味を、『広辞苑』は、

「おいしい河豚料理は食いたいが、中毒の危険があるので食うことをためらう。転じて、やりたいことがあるのに、危険が伴うので決行をためらう。」と注釈している。


前記のように、別名の「テッポウ(鉄砲)」や「テッサ(鉄砲刺し」「テッチリ(鉄砲ちり鍋)は、当たると命がないという洒落である。

「うまいけどこわい!」、「こわいけど、うまい! 食いたい!」。

この切実なダブルバイント(二重規範)ゆえに、「河豚食う無分別、河豚食わぬ無分別」といわれる。


「あら何ともなや─」の芭蕉の句や、「われ生きている─」の蕪村の句には、

理性は「食うな!」と命じ、心情は「食いてぇよ!」と訴える、アンビヴァレンス(反対感情両立)的苦悩に折り合いをつけて舌つづみを打った一夜が明けて、

「ああ、よかった!」と喜ぶ心があふれているようだ。


「鰒汁(ふぐじる)に又(また)本草(ほんぞう)のはなしかな」という宝井其角の句は、その美味を賞味しながらも、つい解毒法の話になってしまう情景を詠んだものだろう。

「本草」とはいうまでもなく薬物学のこと。


残念ながらテトロドトキシンの解毒剤はいまだにできてない。

だいぶ以前に東大農学部のグループが、テトロドトキシンの抗体を開発したと聞いたことがあるが、あれはどうなったのだろう。

いま、ネットで検索してみたが、まだ実用化はされてないようだ。


いまも年間20~30件のフグ中毒が発生し、死者も出ている。

もっとも、そのほとんどは素人料理か無免許の料理人の手によるもので、プロ(ふぐ調理師)が調理したものなら心配無用。

なお、フグの皮に多いコラーゲンには、血中コレステロールを下げる作用があるというが、フグ料理屋の勘定書はしばしば血圧を上昇させる。


「ふぐは食いたし、財布は軽し」「カネもないのにふぐ食う無分別」である。

「一笑一若・一怒一老」の生理的真実


「一笑一若・一怒一老」という成句がある。

中国のことわざで、原音だと、一笑(イシャオ)一若(イルオ)、一怒(イヌ)一老(イラオ)となるらしい。

「一笑」と「一怒」の「一」はわかる。

「一若」と「一老」の「一」がよくわからない。

1日か? 1月か? 1年か? 

いや、そんな決まった時間のことではなく、この「一」は、比喩のようなもので、1回笑えばそのぶんだけ若返り、1回怒ればそのぶんだけ老けこんでしまう―というのだろう。

そう。怒れば年をとり、笑えば若くなる。

つまり怒りは体に悪い、笑いは健康によい。

大脳生理学者も「不快感、怒り、恐れはいわば戦時体制の心構え」と説いている。(時実利彦『人間であること』=岩波新書)。

怒ると、自律神経の一つの「戦時用」の交感神経系が緊張し、心臓の拍動が激しくなり、血管が収縮し、血圧が上がり、気管支が拡張し、瞳孔が開き、消化液の分泌が減少し、肝臓から糖分が血中に流れ出て燃やされる...というように体内で「さまざまな戦闘状況」が展開される。

結果、体力を消耗し、胃が痛くなったりもする。

もともと血圧が高かったり、心臓に病気をもっていたりすると、激しく怒ったとたん、重大な変調を招くことさえある。

東洋医学の古典『素問霊枢』にも、

「怒れば肝を害し、おびゆれば心を害し、憂うれば肺を害し、考えれば胃を害す」とあるそうだ。

心身症やストレス性の病気の原理を言い当てた至言だろう。

しかし、怒りを無理やり抑え込んでばかりいると、これも心と体によくない。

神経症、高血圧、糖尿病、胃潰瘍、狭心症、腎硬化症などの誘因になるという。

たまには焼酎でも飲んで、酔っぱらって、夜更けのガード下あたりで、

「部長のバッキャロー!」なんて適当に発散したほうがよさそうだ。

一方、笑えば、血管が開き血圧が下がり、心臓、肺、胃腸など内臓器官がスムーズにはたらき、ホルモンの分泌が盛んになる。

よく知られている研究だが、漫才などで大笑いしたあとは、がん患者のNK(ナチュラルキラー)細胞の活性度が上昇した。

NK細胞は、免疫を担うリンパ球の一つ。感染症のウイルスやがん細胞をやっつける力をもっている。

リウマチの女性患者に落語を1時間聞いてもらったら、症状を増悪させる物質(インターロイキン6)が減少し、痛みが楽になったという研究報告もある。

「笑おう会」という会の「効能書」にはこうある。

「ときに呵々大笑すれば、横隔膜の上下運動を促し、腹中のコリをとき、消化・吸収・排泄をよくする。胸中のうっぷんを去り、胸筋をやわらげ、心筋梗塞の予防となる」

一つ、つけ加えると、横隔膜の上下運動は、呼吸と血行も促進する。

だからよく笑う人は血色がいい。

笑声は痙攣(けいれん)の一種だからそのあとに弛緩(しかん)がきて、緊張が緩和する。

大声で笑えば筋肉の緊張がゆるみ、人間関係の緊張も緩和される。

こんなにいろいろとよく効いて、副作用がまったくなくて、いくら使っても減らない薬なんてあるものじゃない。

しかも、それでタダなのである。

「笑」という字は「咲」と同じで、花が開くのを「花笑」ともいう、と漢和辞典にある。

新しい年、大いに笑って、花を咲かせようではありませんか。

スポンサードリンク
TOPPAGE  TOP 
RSS2.0