暮らしのなかの健康法万般。赤ちゃんからお年寄りまでの病気の解説・予防・治療法。食生活、食品、サプリメント情報…など、面白くてタメになる実用エッセイ。

はじめにひとこと─

 あるいは、ご愛読いただいていた人もおられるかもしれない。

 私は、1986年(新聞によっては2000年前後)以来、地方新聞10数紙に「健康歳時記」(あるいは「健康日記」など)というタイトルのコラムを毎日(あるいは週1~2回)書き続けてきた。

 それが、記事を配信していた通信社の事情(東日本大震災の被災地の新聞3紙への配信が中止になったため、経費面での採算がとれなくなった)で、中止されてしまった。

 未曾有の大津波に小さなコラムがあっさり押し流されてしまった案配だ。ーーいや、それがそうではなかったことが、その後、判明した。

(事実は「なんやらかんやら日録」中の 「G芸通信社への手紙」などに詳述した)。

 やっているときは「しんどいなあ。そろそろ止めたいなあ」と思うこともあったが、いざ無くなると、なぜか妙に寂しい。

 日常生活の歯車が一つ欠けたような感じさえする。

 なにかやってないと気持ちが落ち着かない貧乏性なのである。

 そんなわけで、同じ形式の記事をネット上で書き続けることにした。

 限定的な地域の新聞購読者だけではなく、全国の多くの人に読んでいただければ……という願いもこめて。

 新聞紙面ではスペースの制限(1回450字)があり、説明不足になることも多かったが、ここではその点の融通も利くのが、ありがたい。

 題して「健康1日1話」、ご愛読いただければうれしいです。

 2011年 夏       丸山寛之

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ピロリ菌が「胃がんの常識」を変えた


日本人には胃がんが多い。

最新がん統計(2015年4月)によると、

男性では死亡数は肺がんに次ぐ2位。罹患数は1位。

女性では死亡数は大腸がん、肺がんに次ぐ3位。罹患数は乳がん、大腸がんに次ぐ3位。


だが、これは比較的近年のこと。

男性の胃がん死亡数が肺がんに抜かれたのが1993年で、女性のそれが大腸がんに抜かれたのは2002年。

それまでは男女ともに死亡数も罹患数もずっと胃がんが1位だった。

なぜ、日本人にはそんなに胃がんが多い(多かった)のか?


まず戦後間もなくのころは「熱い食べ物」が危ないといわれた。

当時、日本でいちばん胃がんの死亡率が高かった奈良県に着目した高名な医学者が、原因は奈良県民が愛好する熱い茶がゆではないかと指摘し、茶がゆの廃止が呼びかけられた。

だが、この茶がゆ犯人説はその後の研究でほぼ完全に否定された。

茶がゆを愛好する地方は、奈良県以外にも和歌山県、三重県、山口県、佐渡などあちこちにあり、奈良県ほど胃がん死亡率が高くないなど、矛盾する事実がいろいろ出てきたからだ。


そのあと、「胃潰瘍前がん説」と「塩分過剰摂取説」が提唱され、近年まで最も有力な説として認められてきた。

たしかに胃潰瘍から始まる胃がんが多いことや、塩分の取りすぎが胃がんの悪化に関係していることは事実だが、それが胃がんの原因ではないことがいまは明らかになっている。


1983年、オーストラリアの研究者らが発見した、ヘリコバクター・ピロリ(通称ピロリ菌)の研究が進み、胃がんの原因が特定されたからである。

以下、ピロリ菌に関する現代医学の定説を要約してみる。

ピロリ菌に感染すると、ほぼ100%の人に「ヘリコバクター・ピロリ胃炎」という慢性胃炎の一種が生じ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のもとになる。

慢性胃炎が長く続いて萎縮性胃炎に変わると、その一部から胃がんが発生してくる。

ピロリ菌に感染している人が必ずしもみな胃がんになるわけではないが、遺伝性のスキルス胃がんなどを除き、ほとんどすべての胃がんの人はピロリ菌に感染しているという。

国立国際医療センターの研究チームは、ピロリ菌に感染した1246人と、感染していない280人を、8年間追跡調査した。

結果、感染者では約3%に胃がんが発生したが、非感染者ではゼロだった。

WHO(世界保健機関)は、「ピロリ菌は煙草なみの発がん物質」といい、

ピロリ菌が胃がんを引き起こすメカニズムを解明した畠山昌則・東京大教授(病因・病理学)は、「胃がんの99%はピロリ菌感染が原因です」と明言している。


日本ヘリコバクター学会は、胃がん予防のため、胃の粘膜にピロリ菌がいる人は全員、薬で除菌することを勧めている。

学会の提言を受けて、まず2000年に胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者のピロリ菌の除菌治療が公的医療保険の適用となり、2010年には、

①ピロリ菌が原因の胃MALTリンパ腫、

②特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、

③内視鏡治療でがんを取り去った早期胃がんの再発防止、

─と対象が広がり、2013年からは慢性胃炎の人のピロリ菌除菌も保険でできるようになった。

ヘリコバクター・ピロリ胃炎であるかどうかを医療機関でチェックし、陽性とわかったら除菌を行うことをお勧めしたい。

無症状の若い人たちでは、胃がん、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などを完全に抑えることができる。

中高年ではすでに前がん状態に進んでいる場合もあり、除菌後も定期的にフォローする必要がある。

「除菌後も必ず胃がん検診を受け続けます」と一筆とってから、治療を始める専門医もいる。


なお、食塩は胃粘膜のバリアーを侵し、ピロリ菌の毒素がしみ込みやすくなる。胃がん予防には、塩分の取りすぎにも注意したい。


正座と膝痛とカルシウムの関係


中年過ぎの人のひざが痛くなる病気といえば、まず「変形性膝(しつ)関節症」だ。

「肥満や正座などひざへの負担がかかる生活を続けた人の軟骨や半月板の弾力性が損なわれ、軟骨同士がこすれてすり減る病気」というのが、一般的な解説である。

ただし「正座」に関してはそうではないと、かつて面接取材した黒澤尚・順天堂大学医学部特任教授に教えていただいた。

その記事を開いてみると、変形性膝関節症の原因を列挙したあと、Q&Aは下のように続いている。

─正座の習慣は関係ありませんか?

黒澤 それはよく問題にされることで、多くの先生が、変形性膝関節症は正座をしたからで、正座なんかしちゃいかん、とおっしゃるのですが、私は、それは<常識のウソ>だと思います。

正座は、むしろよいことなんです。

あるアメリカの専門医は、日本人に変形性膝関節症が少ないのは、正座といういい習慣のせいだ。

だから軽症の変形性膝関節症の患者に対しては、1日に1回は必ず<ジャパニーズ・シッティング>をするように勧めていて、非常によい効果を上げている、と報告しています。

─なのに、なぜ、日本では正座がよくないと言われるのでしょう?

黒澤 変形性膝関節症になった人が、正座のように完全に膝を曲げるようなことをすれば、痛いにきまっています。

その結果だけを見て(原因と取り違えて)正座はよくないと言っているのです。

では、なぜ正座がいいのかといえば、たいていの人が(外人のように正座の習慣のない人は特に)60歳ぐらいになると、膝が完全には伸びきらず、曲がりきらないようになってきます(「拘縮」という)。

正座はそれに対して膝のストレッチングになり、柔軟性を保たせるという利点があるのです。

ですから、私は、重症の人は別ですが、軽い変形性膝関節症の人には、また正座ができるようになる訓練をしなさいと勧めています。

痛い最中はなかなかできませんが、お風呂で体が温まると、痛みが少なくなり、曲げやすくもなります。

お風呂でじゅうぶん温まったら、まず浴槽の中でしゃがみなさい。

しゃがむことができたら、こんどは正座をしなさい。多少の痛みは我慢してやりなさい。やってもあとに引く心配はありません。

正座は、変形性膝関節症を防ぐにも、治すにも、膝関節の柔軟性を保つ、とてもよい方法なのです。

ただし、うんと悪くなった人は、膝の可動域(動かせる範囲)が小さくなって、3分の2ぐらいまでしか曲がらなくなります。そういう人はもう正座はできませんが、それでもいいから、やはりお風呂の中で少しでも曲げるストレッチングをする。これがとても効果的なのです。

どうですか? 拙著『名医が治す』(マキノ出版)より記事の一部を引用したが、説得力があるでしょう。

この話を聞いてから、私も入浴中かならず数分間、正座するよう心がけてきた。

そのおかげか、このトシ(85歳)になっても、膝の痛みを知らない。

変形性膝関節症になりやすいといわれる、ひどいガニ股なのだが。

ついでにもう一つ─。

「骨」といえば「カルシウム」だが、カルシウムは、骨そのものの病気=骨粗しょう症には関係あるのだが、関節の病気には関係ない。

変形性膝関節症は、関節の軟骨がすりへる病気だから、カルシウムを摂ってもなにも変わらない。

不用意にカルシウムを摂り過ぎると、腎結石などができるから注意したほうがよい。

これも黒澤先生の助言である。

便秘と下剤に関する誤解


サマセット・モームの『作家の手帳』のなかに下のような一節を見つけた。

<産婦人科学の教授が、その講義のはじめに言った。

「諸君、女とは、一日に一度ミクチュレート(放尿)し、一週に一度デフィケート(排便)し、一月に一度メンスツルエート(通経)し、一年に一度パーテュレート(出産)し、そうして機会あるときはいつでもコピュレート(交尾)する動物である」

 ぼくは均整のとれた、しゃれた文章だと思う。>(中村佐喜子訳=新潮文庫)

大いにためらいながら引き写したが、手帳にこの文言を記した1894年、モームはロンドンの医学校の3年生だった。

女性のみなさま、時代の古さと作家の若さに免じて、大々的セクハラをお許しください。


さて、本論。

冗談半分とはいえ、「1日に1度の放尿」はいくらなんでもあまりにも少なすぎる。

いったいに女性はそれを我慢しがちで、そのため膀胱炎などの尿路感染症を起こしやすい。

で、そうした病気はチャスティティ・ディジーズ(慎み深いための病気)と呼ばれる。

起きているときは2~3時間に1回、膀胱をカラッポにするのが、健康上のだいじな心がけである。

「1週に1度の排便」というのも、少ない。

便秘は気分的にうっとうしいだけでなく、体にもよくない。

便秘と不眠は、老人の二大愁訴といわれるが、若い人にもけっこう多い。

厚生労働省の国民健康調査によれば、便秘に悩む人は660万人、それを隠している人や自覚のない人を含めると、1000万人を超えるのでは...と推測される。

10後半から30代前半の女性に最も多く、40~50%を占めている。

便秘には「何日間排便がなければ便秘である」といった明確な定義はない。

一般的には、排便が週に1回程度だったり、薬がないと排便できなかったりするような状態だと便秘、と考えられている。

毎日排便しないといけないと思っている人もいるようだが、3日に1度でもそのあとスッキリするのであれば問題ない。

毎日出ていても、スッキリしないとか、ガスがたまっておなかが張るなど、不快症状があるようだと、ちと問題あり。

食物繊維や水分をバランスよくとると、便のかさがふえたり、軟らかくなったりして、出やすくなる。

適度な運動─とくにゴルフやテニス、ラジオ体操など体をひねる運動―も効果的だ。

しかし、糞闘努力の甲斐もなく、ウンに見放される日が続くと、下剤に頼りたくなる。


ところが、その下剤の乱用が便秘をいっそう悪化させてしまう。

下剤は「出なくて苦しい」状態を一時的に改善するもので、便秘そのものを治す薬ではない。

どうにも苦しいときに薬を使うのはかまわないが、下剤を使うことに慣れると、便意を感じて、トイレに行き、排便するという腸のリズムが失われる。

下剤はあくまでも急場の対処法、一時的使用を原則とすべき薬だ。

市販の下剤のうち最も種類が多いアロエやセンナ、大黄が成分として配合されている「アントラキノン系下剤」は、大腸を刺激することによって便意を生じさせる。

長期使用で効きがわるくなったり、大腸の自発的な動きが弱ったりする欠点がある。

大腸の粘膜が黒ずむ大腸メラノーシス(大腸黒皮症)も発生しやすくなる。

アロエ、センナ、大黄は、自然の成分の生薬なので安心感があるが、長期連用は控えたほうがよい。

だが便秘に詳しくない先生にかかると、下剤の大半を占めるアントラキノン系下剤を処方されることが多い。

便秘の名医、松生恒夫・松生クリニック院長は、漢方薬を下剤として選ぶさい、大黄などの含有量はごく少量で、効果が得られる「防風通聖散」を第一選択にしているという。

2012年、便秘治療薬としては約30年ぶりに発売された「アミティーザ」は、小腸に作用し、便に含まれる水分をふやし、便を軟らかく移動しやすくする。

慢性便秘に広く効果があり、長く飲んでも効きがわるくなる心配が少ない。

便秘を正しく理解し、根本的に治したいと思われるなら、松生恒夫著『排便力をつけて便秘を治す本』(マキノ出版刊)のご一読をお勧めしたい。

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